第34話 転生の間を使ったお金儲け

「落ち着いた?2人とも?」


「こっちのセリフなのです」


「わふわふ、ドルチェはずっと落ち着いてるぞ」


 とりあえず、転生の間にて、3人とも正座して向かい合っていた。


 人間の姿になってすっぽんぽんだったドルチェには、わたしのティーシャツと短パンを履いてもらった。いつまでも裸なのはかわいそうだから着てもらったが、可愛い衣装ではないので、あくまで仮だ。もっと可愛い服を早く着せてあげたい。


「というか、あなたは本当にドルチェなのよね?」


「そうだぞ!ドルチェはドルチェだ!」


「そっかそっか、ゲバ爺の謎の力のおかげで人間になれたのね、納得、うんうん」


「アウルムは納得してないのです」


「アウルムちゃんの変身魔法みたいな感じなんじゃない?」


「でも、魔獣が人間になるなんて聞いたことないのです」


「まぁまぁ、そこはそう難しく考えないで。ドルチェは元の姿に戻れるの?その、人間になったり、オーダーウルフになったり、自由自在に変身できる?」


「ん〜、たぶんできると思うぞ。でも、お腹空くから今は変身したくないぞ」


「そっかぁ、じゃあ帰ったら試してみよっか?」


「わかったぞ!」


「だってさ、アウルムちゃん、ドルチェも魔法使いだった、それでいいじゃない」


「なんか変なのです……こんなのおかしいのです……ここはどこなのです……さっきの神様は本物なのです?……ぶつぶつ……」


 賢いうさ耳ちゃんは色々気になるようだ。


 わたしはというと、ドルチェが人間になったことに対して、驚きよりも嬉しさの方が勝っていた。だって、会話ができた方が楽しいじゃない!


「わふわふ!それよりもドルチェはご主人様ともっとお話ししたいぞ!」


 そうそう、わたしも。


「もちろんよ、おいで?」


「わふわふ!」


 わたしが手を広げると、膝に頭を乗せてコロンと仰向けになった。犬耳幼女の服従の姿勢だ。

 可愛いので頭を撫でる。


「それにしても、ご主人様?って呼び方じゃなくて、フランお姉さん、とかでもいいのよ?だって、わたしたちは対等なお友達でしょ?」


「わふ?でもご主人様はドルチェのご主人様だから!いつも美味しいご飯くれるから!ご主人様だ!」


「そっかそっか、ドルチェがそれでいいならいいけど。でも、わたしたちは対等だからね?わたしが嫌なこと言ったらちゃんと怒っていいからね?」


「んー!わかんないけどわかった!難しいことドルチェわかんないぞ!」


「そっかそっか、んふふ……」


 なんというか、アホの子ほど可愛い、ちがうちがう、手のかかる子ほど可愛い、みたいな感覚を覚える。

 すごく懐いてくれるのもわかるので幸せな気分だ。


「……それで……フランお姉さんはここに何しに来たのです?そろそろ目的を聞きたいのです」


「ああそっか、すっかり忘れてた」


 アウルムちゃんに言われて、本来の目的を思い出す。ドルチェを撫でながら本題について説明することにした。


「この空間はね、転生の間、といって色々な世界に繋がってるの。わたしたちがさっきまでいたベスティーア以外にも20近い世界が存在して、わたしは通行税を払うことでそこに移動できるってわけ」


「……わけがわからないですが、つづきを聞くのです……」


「でね、転生するときに見たある扉のことを思い出したの、それがあれ」


 わたしはある扉を指さす。

 アウルムちゃんもそれを見てくれた。


「青白い……宝石でできたような扉……まさか、ミスリルなのです?」


「正解!」


 そう、わたしが思い出したのは、鉱山の星ミナヴェルクへの扉だった。たしか、扉の横の説明看板にも、鉱石が豊富な星、と書かれていた気がする。


「つまり、フランお姉さんは、ミナヴェルクに行って、ミスリルを掘って、ベルルクで売ろうとしてるのです?」


「そう!さすがアウルムちゃん!天才ね!」


「んー……そんなことして、神様は怒らないのです?」


「え?……さぁ?」


「こわいのです!」


「まぁ、大丈夫じゃない?どうかしら?ゲバ爺?」


『……通行税さえ払うならええじゃろう。やり過ぎたら通行制限をかけるのじゃ』


 どこからともなく声が聞こえてきた。


「だってさ」


「適当な神様なのです……」


「まぁまぁ、と、いうことでさっそくミナヴェルクの扉に入ってもいいかしら?」


「わふん!ドルチェがミスリルを見つけてあげるぞ!」


「頼りにしてるわね♪」


「任せろだぞ!」


「不安しかないのです……」


 ということで、わたしたちは、3人揃ってミナヴェルクの扉の前までやってきた。


 扉の解放にかかる費用、金貨100枚。扉の前にそんな張り紙が貼ってある。


「はぁ?ちょっとゲバ爺!わたし通行税払ったわよ!」


「それはそれ、これはこれじゃ、さっさと払え、強欲女め」


「な、なんて神様なの……ほんと銭ゲバね……」


 でも、ミスリルが大量に手に入るなら、取り返せる投資額だ。それにミラヴェルクは看板を見る限り治安も良さそう、というか文明が発展してない、原始時代みたいな星らしい、だから、渋々100万円を支払うことにした。


 これでまた、所持金がガッツリ減る。


「アウルム、こんなお金の使い方、間違ってると思うのです……」


「まぁまぁ、絶対取り返せるから」


「そういうことじゃ……はぁ、フランお姉さんが暴走しそうになったら、アウルムがしっかりしないと……」


「頼りにしてわね♪」


「……」


 なんだか、うさ耳ちゃんがジト目をしているが、スルーして扉に手をかける。


 結構重い扉だったが、なんとか開けることができた。


「新世界へレッツラゴー!」


「わふん!がんばるぞー!」


「おー!」


「……はぁ……なのです……」


 そしてわたしたちは、ミラヴェルクへと踏み入れた。



「わぁ……なんだか月面みたい……」


「ちょっと身体が軽いのです」


「たくさんジャンプできるぞ!」


 アウルムちゃんとドルチェがぴょんぴょんとジャンプして見せてくれた。たしかに、ベスティーアと比べてだいぶ重力が小さいように感じる。


 なんか、空も宇宙空間みたいなのが見えるし薄暗い、息ができてるのが不思議だ。


 改めて周りを見渡すと、緑なんて全く見当たらない荒野が広がっていた。SFで見る月面のそれだ。はるか彼方には山のようなものも見えるが、この辺りは平地だ。ところどころに、カラフルな岩石が見て取れる。

 生物らしきものはいない。たしか、扉の隣の看板には、知的生命体はいない、と書かれていたと思う。


「わふわふ!あれ!あれ鉱石だぞ!」


 近くにあったカラフル岩石を指差してドルチェがかけていった。

 わたしたちも後を追う。



「これって、ルビーかしら?」


「たぶんそうなのです。この純度だとSランクだと思うのです」


「へ〜、アウルムちゃん、なんでランクなんてわかるの?」


「……売るときに観察してたのです……フランお姉さんはしてなかったのですか?」


「……さぁ!さっそく掘っちゃおうカナ!」


「あ!誤魔化したのです!やっぱりフランお姉さんにはアウルムがついてないとダメなのですね!」


 ダメなわたしを見て、なんだかアウルムちゃんは得意気にしていた。機嫌が良くなって都合がいいので、「そうねぇ、わたしはアウルムちゃんがいないとダメダメねぇ」とつぶやきながら、ピッケルを振り下ろした。


 すばらくピッケルを振っていると、数十分で100キロを超えるSランクルビーが手に入ることとなる。


「ちょろ……金投資なんて目じゃないわ……」


「金投資ってなんなのです?」


「えっとね、前世での話なんだけど、世界的に埋蔵量が少ない希少な鉱石を購入しておいて、値段が上がったら売るっていう投資なんだけど、基本的に毎年価値が上がっていくのよ。だから、所有しておけば絶対儲かるの。

 それをミスリルでやろうかと思ったんだけど、数年待つ必要なんて無さそうね」


「なるほどなのです?でも、ここで大量に鉱石を仕入れてベルルクで売ると、ベルルクの鉱石市場が値崩れを起こすと思うのです」


「さすがアウルムちゃん、その通りね。だから、売り捌く鉱石の量を調整しないといけないわ」


「なるほどなのです」


「ドルチェ難しい話わかんないぞ……それよりもご主人様!あれ!あれたぶんミスリルだぞ!」


「ええ!?ホントに!?」


 ドルチェが指差す方を見ても、豆粒みたいな岩の塊しか見えない。


「あれのこと?全然見えないけど……」


「ドルチェはすごく目がいいんだぞ!」


「そうなんだ?じゃあ、行ってみようかしら」


「わふわふ!ついてくるんだぞ!」


 ドルチェが走り出したので、わたしたちも後を追う。



 そして、たどり着いた先で、大量のミスリルを手に入れたのだった。


 ミスリルの塊の岩石を丸々掘り尽くし、たぶん1000キロくらいは手に入った。


 ミスリルの取引相場は、1キロ金貨5.8枚、つまりは、1000キロで5800枚、日本円にして、5800万だ。


「お、お金持ちになれるかも……」


「なんだか……アウルムは悪いことをしてる気分なのです……」


「……だいじょぶだいじょぶ……」


 正直わたしもそんな不安はあったが、流通量を調整すれば大丈夫だろう。


 このときはそれくらいの認識だった。


「今日はこれくらいにして帰ろっか」


「わふん!ドルチェお腹空いた!ご主人様!」


「アウルムもなのです。今日はわけの分からないことだらけで、くたくたなのです」


「あはは、そうね、じゃあ、ゲバ爺〜、帰りたーい」


 そう声をかけるとまた扉が現れた。通行税は往復料金らしく今度は請求されない。


 わたしたちは扉を開け、転生の間に行き、またベスティーアの扉に入る。


 すると、ベルルクの採掘場の中に戻ってきた。

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