第31話 もふもふワンコの特殊能力

 ギルドを出て、階段を数段下がった先に採掘場への扉があった。他の扉と同じで身長の10倍以上あるでっかい鉄の扉だ。


 扉の右手に入場待ちの列ができていたのでそれに並ぶ。わたしたちの順番がやってくると、


「お疲れ様です!採掘許可証を拝見します!」


 と言われたので、先程もらった許可証を見せた。すると、それを受け取った受付のお兄さんは、測りのようなものに宝石の許可証を置いて台帳にメモを残していた。


「フランさんですね!あ!今日ははじめての採掘ですか?」


「ええ、そうです」


 ほう?あの測りに乗せると、そんなことまでわかるのか、USBメモリ的な機能があるらしい。


「一応の注意なのですが!同じ位置で鉱石を採掘し続けていると!ミニゴーレムが現れて鉱石を奪い返そうとしてくるのでご注意ください!」


「ミニゴーレム?」


「はい!いわゆるモンスター的な存在なのですが、小人くらいのサイズでピッケルで叩けばすぐに倒せるので危険性はありません!ただ!パンチされるとそれなりに痛いので気をつけてください!」


「え……な、なにそれ、こわい……」


「大丈夫です!もし出てきても雑魚なので!ということでご武運を!次の方どうぞ!」


「あ……ええ……?」


 ざっくりな説明で次の人の対応に移ってしまった。


 ミニゴーレム、一体なんなのよそれ、冒険者がいない世界観のはずなのに、この前のシードラゴンといい、結構モンスターが身近にいる世界だ。


 また大群に襲われなければいいけど……そう思いながら、わたしたちは採掘場に潜っていった。



「へ〜、中は意外と明るいのね?」


「なのです。あの石から魔力を感じるのです」


「そうなんだ?」


 アウルムちゃんが指を指す方には、洞窟を照らしている光源があった。


 頭の上くらいの岩壁に青白い水晶が埋め込まれている。採掘ギルドで使われていた氷柱型の水晶をゴツゴツにしたような、加工前の原石のようにも見えた。同じ水晶なのだろうか?


 とにかく、その青白い水晶が一定間隔に埋め込まれているので、洞窟内というのに先が見えないほど暗い、という感じはない。足元もしっかり見えて、危なげなく歩ける。


「わたし、結構暗いところ怖……苦手だから、これくらい明るいならやっていけそうかも」


「フランお姉さんかわいいのです!アウルムは平気なのです!」


「わふん!」


 頼れるもふもふちゃんたちだ。この子たちがいれば怖くないかも、なんて考える。


「そういえば、鉱石ってどうやって探すんだっけ?ドルチェに任せればいいの?」


 今までの話ではオーダーウルフちゃんが探し物を探してくれる、鉱石採掘には必須パートナーだ、みたいな話だったはずだ。


「わんわん!」


「おぉ〜、任せていいの?」


「わん!」


 いいらしい。わたしのことをジッと見てから尻尾を振って先陣をきってトコトコ歩いていった。


「ゴーゴーなのです!」


 それにアウルムちゃんも続く。


 わたしもニコニコしながらもふもふたたちに続くことにした。



 15分くらい歩いただろうか、大きな洞窟の一本道をまっすぐ進んできたところで分かれ道を見つける。5本の小道に分かれていた。


「なんだか……迷いそうで怖いわ……」


 わたしが不安そうにすると、ドルチェが声をあげてくれる。


「わんわん!わふん!」


 安心させるような、大丈夫だよ、と言われている気がした。なんて頼もしいのだろう。


「えーっと、ドルチェが帰り道を覚えてるの?」


「わん!」


 覚えてるらしい。よ、よし……ちょっと不安だが信じることとしよう。


「くんくん……わん!」


 そして、ドルチェが右から2番目の道を選んで歩き出した。わたしたちも後に続く。


 さっきまでの通路は、身長の5倍近くの広さがあって、岩壁の左右に光る水晶が埋まっていたのだが、分かれ道に入ったら急に狭くなった。高さは身長の2倍ないくらいで、光る水晶も天井だけにポツポツと存在するだけだ。


 わたしが少し不安に思っていると、


「わん!わんわんわん!」


 ドルチェが足を止めて、岩壁の方を見て吠え出した。


「ここ掘れわんわん?」


「わん!」


 そうらしい。


「よーし!任せなさい!」


 わたしは腕まくりしてからピッケルを握った。


「危ないから離れててね」


「はいなのです!」


「わん!」


 2人が離れるのを確認してからピッケルを振り下ろす。


 カーン!


 岩壁とピッケルがぶつかる。小気味いい音が鳴ったと思うと、音とは全く一致しないほど岩壁が削れた。


 ゴリゴリ!!メキッ!!


 それくらいの効果音が合うはずだ。だって一振りしただけでバランスボールの大きさくらい大きく削れたんだもの。


「なにこれ……すごっ……」


「ふむふむなのです……この魔法陣の力なのです……」


 わたしが呆然としてると、アウルムちゃんがピッケルを覗き込んでいた。

 どうやら、ピッケルの鉄の部分の真ん中、持ち手の木材との合流地点に描かれている魔法陣に岩壁を削る魔法がかけられているらしい。


「なんだか、この世界って魔道具は発展してるのに、魔法を使ってる人はあんまりいないわよね」


「なのです。だから、アウルムが魔法のすごさをみんなに広めるのです!」


「ふむふむ、あ、まだ鉱石出てきてないから、もっと掘らないとだよね?」


「わん!」


「わかったわ。アウルムちゃん、離れて?」


「はいなのです!」


 そしてわたしはまたピッケルを振り下ろす。10回ほど振ったが、全然疲れない。


 そして、11回目くらい振り下ろしたら……


「あ!これ!これ宝石よね!」


 緑色のキラキラ光る宝石のようなものが現れた。


「わんわん!」


 ドルチェが近づいてきて、宝石をみて嬉しそうに尻尾を振る。


「すごいわドルチェ!ありがとう!」


 ここぞとばかりに頭を撫でた。成果を出したら褒めないと!それになにより、もふりたい!


「わんわん!くぅーん♪」


 嬉しそうにしているので、抱き上げてお腹をさすったら気持ちよさそうにしてくれた。


「むむむ……アウルムもアウルムも……アウルムにはできないのです……ドルチェはすごいのです……」


 言いながら、しゅんとしたアウルムちゃんも近づいてきてドルチェをひと撫でする。


「……わふん……」

 ぷいっ。


 アウルムちゃんに撫でられたドルチェはぷいっとそっぽを向く。


「……」


 アウルムちゃんが、しゅん顔からキレ顔にゆっくりと移行していく。


「アウルムちゃん?えーっと、照れてるのよ、きっと」


「そ、そうなのですね……アウルムは大人だから……怒らないのです……犬っころと違って!」


「グルル……」


「はいはい、ケンカしないの。仲直りするって約束したでしょ?よし、じゃあこの原石とっちゃうから、2人とも離れてね」


 ドルチェを下ろし、再度ピッケルを振って緑色の宝石を削り落とした。ゴロンと地面に転がり落ちる。


「デッカいわね、サッカーボールくらいかしら」


「重そうなのです」


「だよねぇ、これを運んで今きた道を戻るのはちょっとしんどそう」


「ふふふー、ここでアウルムの出番なのです!」


 隣のうさ耳幼女が腰に手を当てていた。ドヤ顔だ。


「おぉぉ、アウルムちゃん、あれをやるのね?」


「はいなのです!ドルチェ!しっかり見てるのですよ!」


「わふん?」


「やー!」


 アウルムちゃんが気合を入れて両手を上げるとそこに宝箱が現れた。ミミックが入ってそうな大きな宝箱だ。


 その宝箱を軽々と扱い、蓋をあけて原石の方に向ける。すると、


 キュポンっ、

 そんな音と共にデッカい原石が吸い込まれた。アウルムちゃんの収納魔法である。


「わふん!?わんわん!」


 ドルチェが驚いた表情を見せて、宝箱のまわりをぐるぐる回った。

 さっきの鉱石どこいった!?と言わんばかりだ。


「どうなのです!すごいでしょう!アウルムはすごい魔法使いなのです!」


「わんわん!」


 ドルチェも関心したようだ。宝箱の匂いをくんくん嗅いで、興味深そうにしてる。


「むふふー……ドルチェもアウルムのことを見直したようなのです!撫でてやってもいいのですよ?」


「……わふん……」


 それはいいや、そんな感じの声だった。


「……」


「えーっと!もうちょっと掘ってみましょうか!じゃんじゃん稼ぐわよー!」


 またケンカが始まりそうだったので、明るい声を出して空気を変える。


「ゴーゴー!」


 そして、今度はわたしが先陣を切って歩き出した。2人がついてくるのを確認して、もうちょっと奥まで歩いていくことにする。



 結局あれから、10分ほど奥に進み、ドルチェが言うままに引き返して、別の分かれ道にも入った。


 緑の宝石を採掘すること5回ほど、そろそろ帰ろうかな、と考えながらピッケルを振り下ろしたら、今までと違う鉱石が現れた。


「わぁぁ……綺麗……透き通った水色ね……それに、なんだかキラキラしてる……」


「これはミスリルなのです!高級なのです!」


「へぇ〜、これがミスリル……」


「わふわふ!」


 ドルチェは得意気だ。たしか、ミスリルは買取表で1番高い鉱石だったはず。そう思い出して、これはすごいことだと思い当たる。


「ドルチェはすごいわ!天才!神!」


「わんわん!」


 両手で撫でると向こうからも顔を寄せてきた。


 ああ……かわいい……ずっと撫でていたい……


「……フランお姉さん、はやく掘るのです」


「あ、はい……」


 キレ顔のアウルムちゃんが怖かったので、そそくさと掘ってから、また宝箱に収納してもらい、今日は帰ることにした。



 採掘場の外にでるとき、もう一度受付のお兄さんに採掘許可証を渡し、なにかを記録された。


「あー、今日はあんまり掘れませんでしたか〜」


 わたしたちが身軽なのをみて、同情するような顔をされてしまう。


「違うのです!大量なのです!」


 それをみたアウルムちゃんが宝箱からどさどさと鉱石を取り出す。


「すごい!大量じゃないですか!それになんですかその魔法!魔法ってはじめて見ました!」


「アウルムは天才魔法使いなのです!もっと褒めてほしいのです!」


「あはは、ここだと邪魔になっちゃうから、ね?アウルムちゃん」


 わたしはドヤ顔のうさ耳幼女をなだめながら、散らかった鉱石をまた宝箱にしまってもらった。


「採掘した鉱石って採掘ギルドに持っていけばいいんですよね?」


「はい!その通りです!」


「わかりました。ありがとうございます」


 採掘許可証を受け取ってから、採掘場を後にする。


 空を見上げると、すっかり赤くなっていた。


「はぁー!疲れたー!そういえばお腹すいたわね!」


「なのです!」


「わん!」


「さっさと買い取ってもらって、ご飯にしましょ!」


 ということで、本日の成果がいくらになるのか楽しみにしながら、採掘ギルドへと向かうことにした。

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