第2章 いぬ耳と金投資

第26話 採掘の町ベルルク

「やっと次の町ね〜」


「なのです〜」


 わたしたちは、馬車の荷台から、前方に広がる町並みを眺めていた。


 今、馬車が進んでいるのは草原だが、町に近づくにつれて緑がなくなっていくのがわかる。


 緑がなくなった先は山脈だ。その山に寄り添うように、いや、その山そのものが町となっていた。


 山沿いに建物が立ち並び、ところどころに洞窟の入り口のようなものがある。その入り口は立派な鉄の門で作られていて、開いているものが多かった。きっとあそこから採掘場に向かうのだろう。


 あそこは、採掘の町、ベルルク、豊富な鉱石が眠る山脈に寄り添って建設された町だと聞いている。


 町のところどころから白い煙が上がっており、鉱石を加工する鍛冶屋なんかもあるのだろうか、と想像させてくれる町並みだった。


「あそこについたら、また新しい儲け話を考えないとね〜」


「違うのです!アウルムは魔法を広める旅をしているのです!」


「あっ、そっかそっか、それもあったわね」


「それが目的なのです!お金も大切ですが!それよりも大事なものがあるのです!」


 幼女に説教されてしまった。お金儲けのことばかり考えている自分が恥ずかしくなる。でも、考えるのはやめないけど。


 だって、わたしの異世界での目標は、お金持ちになって悠々自適に暮らすことだから。まぁ、アウルムちゃんが満足するまで定住はできなそうだけど、それは今後考えていこうと思う。


 わたしは、ぷんぷんしているアウルムちゃんを撫で撫でしながら、採掘の町ベルルクで、どうお金を儲けるか考え始めていた。



「ついたのです!」


 アウルムちゃんが嬉しそうに馬車から飛び降りた。わたしもその後に続く。


「長旅だったわね〜」


「ですです!でも!アウルムは村から歩いてきたので、楽ちんだったのです!」


 ……ああ……不憫な子……わたしの中でまた、アウルムちゃんに一人旅をさせた族長へのギルティレベルが上昇した。族長、あんたはいつかしばく。


「えっと、まずは宿の確保ね。いきましょ」


「はいなのです!」


「ああ!待って!迷子になったらいけないから手を繋ぎましょう!」


「アウルム、子どもじゃないから迷子にならないのです!」


「えっと、じゃあ、お姉さんがアウルムちゃんと手を繋ぎたいから。それならいい?」


「ん〜、それならいいのです!」


 素直でいい子だ。小さいお手手は柔らかくて、自然と笑顔になる。わたしは、ニコニコでベルルクの町を探索しはじめた。



 ほどなくして宿は見つかり、わたしたちは3日分、部屋を取った。1泊銀貨4枚だ。マーレルでいうそこそこの宿と同じくらいの部屋で、ベルルクは物価が少し安いのだろうかと予想する。


「それじゃあ次は職探しね」


「はいなのです!お金は大事なのです!」


「だよね。アウルムちゃんのおかげで貯金はあるとはいえ、まだまだ心許ないし」


 結局、わたしたちの所持金は聖金貨2枚と金貨20枚くらい、つまり220万円くらいとなっている。


 一瞬でも億万長者になった人間の見る影もない。しょんぼり……


 いやいや!でも!半年くらいで1億稼げたんだから!わたしにはそれくらいのポテンシャルがあるってことよ!ベルルクでも大儲けしてやるんだから!

 そう意気込んで、わたしたちは、街へと繰り出した。



 ベルルクの町は、山沿いに建てられているため、そこら中に階段が設置されていた。隣の店に入るにも階段を数段登らないといけなくて不便で仕方がない。


 町全体の道路が石畳で覆われていて、建物も石積みのものがほとんどだ。家によっては、山の中に食い込むようになってるものもある。洞窟ハウスというのだろうか。


 そして、町行く人たちにも、ベルルク特有の特徴があった。


「ピッケルを持ってる人が多いのです」


 そう、人族と亜人が入り乱れてるのはマーレルと同じなのだが、多くの人が片手にピッケルを持っていた。


 それに……わたしとしては、もっと気になることがある。


「もふもふ……いえ、みんな、わんちゃん?を連れてるわね」


 そう、なんとピッケル片手の人には、必ず相棒のようなお犬様が付き従っているのだ。みんな、首輪なんかつけておらず、お行儀よく主人の横を歩いている。


「あれは魔獣なのです」


「魔獣?」


 アウルムちゃんが、お犬様について説明してくれるらしい。


「はいなのです。あの犬っぽいのは、オーダーウルフという魔獣で、主人の求めたものを探してくれるらしいのです」


「へー?物知りね、アウルムちゃん」


「マーレルにいるときに勉強したのです!」


「偉いわ、よしよし」


 頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに笑顔を向けてくれた。


「でも、オーダーウルフ?さんたちって、見た目がずいぶん違うのね?」


 周りを見ると、その子たちは多種多様な犬種がいるように見えた。芝犬っぽい子もいれば、ダックスみたいな子もいる。


「でも、ぜんぶオーダーウルフなのです」


「へ〜」


 アウルムちゃんがそう言うのなら、そうなのだろう。


「んー、でも、なんでみんなオーダーちゃんたちを連れてるのかしら?」


「採掘のためのパートナーだと思うのです」


「ふむふむ?」


「ベルルクでは、オーダーウルフと一緒に採掘場に潜って、レアな鉱石を探す人が沢山いるって聞いたのです!」


「へー!それは面白そうね!わたしたちもできるのかしら?」


「それは知らないのです!」


「そっか!じゃあ!採掘場まで行ってみましょ!誰か教えてくれるかも!」


「はいなのです!」


 ということで、わたしたちは、近くに見える採掘場の入り口を目指すことにした。大きい鉄の扉なので一目瞭然だ。



 階段を何段も上がって、鉄の扉の前に到着した。


「デッカいのです……」


「ホントねぇ……」


 2人して扉を見上げているのだが、わたしたちの10倍か、もっと大きい扉が開け放たれていた。横幅も同じくらいあり、ピッケルを持った人たちが、受付らしき人に何かを見せてから中に入っていく。


 オーダーちゃんたちもその人たちについていった。かわいい、もふもふしたい。


 いやいや、それよりも、採掘について情報を仕入れなければ。


「あの〜」


 わたしたちは、受付をしていたメガネの女性に近づき、話しかける。頭には牛っぽいケモ耳、なんだかおっぱいも大きい気がする。むむむ……


「はい、採掘場への入場ですか?許可証をお願いします」


「許可証?」


「あ、違いましたか?」


「えっと、わたしたち、旅の者なんですが、許可証って発行してもらえるんでしょうか?」


「はい、オーダーウルフと契約してから、採掘ギルドでお金を払えば発行してもらえますよ?」


「ふむふむ」


「すみません。こちらだと後ろが詰まりますので、ギルドの方で聞いていただいても大丈夫ですか?」


「あ、はい、そうですよね、すみません」


 後ろをみると、この一瞬で5人も並んでいた。

 申し訳ない。すぐに横にどく。


「採掘ギルドは、町の1番上ですのでー」


 牛乳受付姉さんが、受付業務をこなしつつ、わたしを見ながら教えてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げてから、その場を離れる。


「よし!じゃあ採掘ギルドへレッツゴー!」


「なのです!」


 元気いっぱいのアウルムちゃんを従えて、採掘ギルドへと階段を上り出した。

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