第25話 うさ耳幼女と仲良し(意味深)
「そういえば!アウルムちゃんがなんでもしてくれるって約束!まだやってもらってない!」
「はわ!?なんのことなのです!?」
わたしは、テントの中で寝袋からガバッと起き上がった。
マーレルから旅立った、その日の夜のことだ。
わたしたちは、次の町を目指し、乗り合いの馬車に乗ってここまで来た。次の町までは1週間くらいの旅になるということで、夜になったら、馬車は適当な草原に停車し、乗客はそれぞれのテントで寝ることになる。
わたしたちも、慣れないキャンプ道具を組み立てて、さっき寝る準備ができたところだった。
キャンプ道具とかは、アウルムちゃんの宝箱に入れてもらっているので、手荷物はなく、身軽な旅をさせてもらっている。
アウルムちゃん様様だ。
うん、様様は様様なのだが、それはそれ、これはこれ。あのときの約束を果たしてもらわねばならない。だって、ずっと楽しみに用意していたんだから。
「い、いいよね?アウルムちゃん……ごくり……」
わたしは、隣で寝袋にくるまり、ミノムシみたいになってるうさ耳幼女に語りかける。
「い、いいのです……けど……なにをする気なのです?」
アウルムちゃんは、わたしの様子がおかしいことから、少し警戒していた。
大丈夫!大丈夫よ!そんな怖いことじゃないから!気持ちいいことだから!はぁはぁ!
なんて口走りそうになったけど、ギリギリ口を閉じる。
「……えっとね……グルーミングを少々……」
「ぐ、ぐるーみんぐ?なのです?」
「そうそう、ちょっとブラッシングとか……マッサージとか……をさせてもらいたくって?だめかな?」
「キュ?でも、それだとアウルムが気持ちいいだけなのです。それがフランお姉さんがしてほしいことなのです?」
「そうなの!すごくしたいことなの!なんでもしてくれるって言ったよね!ね!?」
なんだか勢いで押しきれそうだったので、興奮気味にアウルムちゃんに迫り寄る。
「キュ!?わ、わかったのです。フランお姉さんがそれでいいのなら……」
「ありがとう!なら!とりあえず寝袋から出て、寝袋の上に寝転がってくれるかしら!?」
「わ、わかったのです……」
アウルムちゃんはもぞもぞと寝袋の中から出てきてくれた。
アウルムちゃんが着ているのは、白とピンクの太いボーダーのモフモフパジャマだ。上着は長袖で、下は短パンになっている。何度見ても可愛い、もちろんわたしが選んだ。
上着には、フードが付いていて、うさ耳を出せるように穴が空いている。こっちの世界では亜人が多いので、無料でアウルムちゃんの耳に合うように穴の大きさを調整してもらうことができた。短パンの方も同様だ。
「これでいいのです?」
「そうそう、いい感じ」
寝袋の上に、仰向けに寝転んだアウルムちゃんを見ながら、わたしはリュックの中からグルーミンググッズを取り出した。
このグッズは、通訳のお給料をつかって、ひっそりと、揃えたものだった。取り出したのは、ブラシ、爪切り、爪とぎ、リップクリーム、それと音叉という楽器だ。
音叉というのは、細いU字型の金属製の楽器で、対になってるゴムハンマーで叩くと、ボーン、という低い音が鳴る。本来は楽器のチューニングに使うらしいが、今回はリラックス用途で用いさせてもらう。
前世ではペットを飼う余裕がなかったけど、YouTubeでひたすら見ていたペット動画で、グルーミングのやり方は熟知していたのだ。それをずっとやってみたかった。
「それじゃあ、始めるわね?」
「はいなのです」
わたしは、アウルムちゃんの横に正座で座ってグルーミングを開始しようとしている。
アウルムちゃんは、何が始まるのか、不思議そうにしながら、目をくりくりさせて、わたしのことを見ていた。可愛い。気持ちよくさせてあげなきゃ、そしてわたしも癒されるのよ!
ということで、はじめよう。
「まずは爪切りからね」
まず、タオルをアウルムちゃんのお腹にのせてから、アウルムちゃんのお手手をそこにのせる。
パチ、パチ、と音を立てながらアウルムちゃんの小さい爪を切った。
「なんだか、王様になった気分なのです」
アウルムちゃんが嬉しそうな微笑みを見せてくれた。
「うふふ♪そのままリラックスしてね?」
「はいなのです♪」
爪を切り終わったら、爪研ぎだ。
爪研ぎ専用の道具に持ち替えて、シャリシャリ、と爪を研ぐ。
終わったら、濡れたタオルで拭いてあげて、お腹のタオルは脇によける。
そして、小さなお手手を持って、手のひらをマッサージした。
「ふみゅ〜……気持ちいいのです……」
「んふふ……」
目の前のうさ耳幼女は、なんだか眠そうな顔をしながらうっとりしていた。
よし!動画だけでの知識だったが、リラックスさせられてるみたいね!
「じゃあ、次は足ね」
「はいなのです……」
眠そうにしてるアウルムちゃん見てから足の方に移動する。
正座して、自分の膝の上にタオルをひき、そこにアウルムちゃんの足をのっける。
それから、お手手と同じように、爪の手入れをした。
「どうかな?」
足のマッサージが終わったら、アウルムちゃんの顔の近くまで移動してきて問いかける。
「気持ちいいのです……フランお姉さん、マッサージ上手なのです……」
おぉぉ……なんだかすでにトロトロである。
可愛い!もっと!もっとよ!
「じゃあ、ちょっと音がするからね」
「はいなのです……」
わたしは音叉を手に取って、アウルムちゃんの頭の上で音を鳴らした。
ゴムハンマーで叩くと、「ボーーン……」という、間伸びした低音が鳴り響く。
音が鳴っている間に、それをアウルムちゃん長いうさ耳の左側から右側にかけて移動させた。
「ふわわわ……ぞくぞくするのです……」
音を鳴らしたとき、少しビクッとして、そして音叉が移動するにかけて、ピクピクと震えるうさ耳ちゃん。
音叉にはリラックス効果があるらしい。詳しくは知らないけど。
「それじゃあ、ブラッシングを」
わたしは囁くように呟いてから、アウルムちゃんのうさ耳に手を伸ばす。
ふさふさのブラシで、丁寧に丁寧にブラッシングした。
「……うと……うと……するのです……」
あら可愛い、うとうと言いながら、うとうとしてるわ。
「寝てもいいけど、最後にリップ塗るからね?」
「リップー?」
「そうそう、これ」
キュポッ。
わたしはリップクリームの蓋を開け、アウルムちゃんの顔の前に持っていった。
「……」
そこで悪いことを思いつく。
「り、リップ塗るから……んーって唇すぼめて?こんな感じ、んー」
わたしは自分の唇をすぼめて、同じようにして欲しいと伝える。
「……?こうなのです?……んー……」
ピシャーン!!
わたしは、あまりの罪深い光景を目の当たりにして、硬直した。
そう、これは、この、「んー」は、キス顔だ。紛れもないキス顔だった……
うさ耳幼女に……なんてことを……
こんなの犯罪よ!!
「ふみゅ?……フランお姉さん?」
アウルムちゃんが片目だけあけて、「塗らないのです?」と聞いてくる。
ああ……その表情も可愛すぎ……
「い、今塗るからね……」
そしてわたしは、無垢な幼女にリップクリームを塗り塗りした。
塗り塗りしてやった。
塗り塗りしちゃった。
……ふぅ……これが、癒し……癒しなんだ……
「プルプルになったのですぅ……」
正気を失いかけていたわたしは、なんとか意識を取り戻し、気持ちよさそうにしているアウルムちゃんの肩を揉み揉みしはじめた。
すると、マッサージをはじめてすぐに、わたしの天使は目をつむってしまった。すぅすぅと寝息が聞こえてくる。
このままだと冷えるので、ゆっくり体勢を変え、足から寝袋を入れてあげる。それから、隣に寄り添って、天使の寝顔を改めて眺めた。
「……んふふ……異世界転生って、最高ね……」
こうして、フラン・ペソは、異世界にして、謎の欲望を叶えるのに成功したのだった。
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