第2話 前世の記憶
「がはは!また5000万も儲かってしまったよ!結衣ちゃんも投資はじめたらどうかね!がはは!」
「は、はぁ……おめでとうございます……」
わたしは、今、銀行員として、資金融資を行なっている会社の社長さんと会っていた。営業の外回りの仕事だ。
大豪邸の客間に通されて、居心地悪く自慢話を聞いているところだった。
「成宮様、今回はどんな方法で利益をあげたんですか?」
あんまり興味はないけど、聞いて欲しそうにしてるので聞いてみることにした。
「がはは!それはもちろん株だよ!新しいシェアサービスをはじめた会社の株に投資していたんだが、この前その会社が上場してね!上がりに上がって株価は30倍さ!まだ上がる可能性はあったけど、安全第一でここで利確したんだよ!」
早口でまくしたてられる。
内心、「へーすごいっすね」と思いながら、精一杯の愛想笑いで褒めることにした。
「なるほど、成宮様は先見の明があられますものね。さすがです」
「がはは!それほどでも……あるかな!がはは!」
「ところで、そんな先見の明がある成宮様に、オススメの投資商品があってご案内に参りました」
「………んー?また、投資信託ぅ?」
一気にテンションがさがる小太りのオッサン。
「そうでございます」
「えー?おたくの銀行で投資信託やってるよ?月いくらだっけ?」
「毎月2万円分ですね」
「えー?十分やってるよねぇ~?」
「どうか、これからのお取引のためにも、追加で申し込んでいただけないでしょうか?」
「んー……じゃあ!5000万儲かったから!5千円ね!」
「……ありがとうございます……では、こちらの申込用紙に……」
ガチャ。
「本日はありがとうございました」
「結衣ちゃんも投資のこと知りたかったら、俺に聞いてねー!手取り足取り教えてあげるから!がはは!」
「……」
わたしは豪邸から早足に退散し、コインパーキングに止めていた営業車に乗り込んだ。
エンジンをかけ、冷房のボタンを押す。車内の暑さがわたしをさらに苛立たせた。
「はぁー!!」
クソデカため息である。
「結衣ちゃん結衣ちゃんって!セクハラだろ!ちゃん付けやめろ!
てか!こちとら30億融資しとんねん!投資信託2万円とか少なすぎるやろ!しかも追加で5000円って!ケチケチ!……ふぅー……」
いかんいかん、深呼吸しよう。
あれくらい、そんなにひどい方じゃない。
もっと露骨に、枕を求めてくる変態オヤジもいるんだ。
成宮のオッサンはまだマシな方、まだマシな方……
「よし……落ち着いたわ。帰ろ」
わたしは、ひとりごとをつぶやいてからコインパーキングの料金を支払い、働いている銀行の店舗に戻ることにした。
車を走らせる。
海沿いの道で窓を開けると、気持ちいい風が吹き込んできた。塩の匂いがする。
「んーー!田舎に派遣されちゃったけど、この景色は最高ねー!」
わたしは、地方銀行の銀行員、島村結衣。
先月まで東京の本店で働いていたのだが、営業中に尻を触ってきた社長をビンタしたら、田舎に飛ばされたのだった。
わたしは悪くないのに……そう思ったけど、しょうがない。世の中、お金を持ってる人が強いのだ。
わたしが勤めている銀行は、わたしがビンタした社長に200億融資してるとかで、支店長から「警察は勘弁してくれ!」と土下座されたのを覚えている。
警察沙汰にでもなって、事業が傾いて融資資金が回収できなくなると困るのだろう。嫌な世の中だ。
少し抵抗してやろうと思ったが、妥協案として、わたしの給料をアップしつつ、平和な田舎の支店で働く、という条件を提示された。
「田舎は平和って聞いてたけど、どこの地域でもお金持ちはロクな人いないわねー」
わたしはまた、独り言を呟きながら、勤務先まで戻ってきた。
安っぽい軽自動車を銀行の車庫に止めて、背伸びをして外に出る。
カンカン!
金属を叩くような音を聞いて建物を見上げると、お店の外壁塗装のために足場を組んでいるところだった。最近のミーティングで話は聞いていたので、「そっか、今日からだもんね」と、感想を呟き、お店に入ろうとする。
建物に近づき、裏口の扉に手をかけたところ、
「あぶなーい!!」
「え?」
ガラガラガラ!
わたしの頭上に鉄骨の雨がせまってきていた。
スローモーションに見える。不思議な時間だ。なんで?覚えがある。こういうのって、人間、ピンチのときに起きるやつだ。死ぬかも、大怪我するかも、っていうときに起こるスローモーション。もう、鉄骨は目の前だ。
………わたしの人生、こんなとこでゲームオーバーなの!?
グシャリンコ。
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