第6話 バイト探し
カポーン……
「ふぅ〜……」
身体を洗ってからお湯に浸かり、一息つく、浴室内は、昔ながらの銭湯って感じで、タイル張りの洗い場に広い浴槽が用意されていた。
ただ、前世と違ったのは、蛇口の使い方だった。洗い場にはシャワーヘッドはあってもひねる場所がなかったのだ。
さっきのちょっと恥ずかしい出来事を思い出す。
わたしは、蛇口の使い方がわからずキョロキョロしていた。
隣の犬耳おばさんが使っているのを見ると、手のひらを水晶みたいな石にかざすと、しばらくお湯が出るみたいだったので真似してみる。
「つめた!?」
「あんた……なにしてるんだい……」
ついさっき、ナルシストと言った手前気まずいのか、でも、ほっとけないようで声をかけてくれる。
「えっと……田舎から出てきて……使い方がわからなくて……」
「あったかいお湯よ出ろー、って念じるだけだよ」
「そうなんですね、やってみます」
犬耳おばさんの言う通りに、手のひらを水晶にかざした後、『あったかいお湯でろー』と念じてみる。すると、適温のお湯がシャワーヘッドから出てきた。
「わぁー!すごい!」
「どんな田舎から来たんだい……ちなみに、微妙性するときは、ちょっと冷たくーとか、ちょっとあったかくーって考えるだけだよ」
「ありがとうございます!助かりました!」
わたしは、ニコッと笑顔を返して頭を下げた。
「ま、なんか聞きたいことがあったら聞きな、ナルシストお嬢ちゃん」
「あっ、ははは……」
最後にからかわれてしまった。
わたしはそれから、備え付けのボディーソープとシャンプーで身体と髪を洗ってから、湯船に浸かり、今に至る。
「あったか〜い……」
銭湯の壁には山に寝そべるドラゴンが描かれていた。そのドラゴンの口から水が出ていて、山を伝わり、川になっている。
「この世界には……こんな生物、いるのかなぁ……」
「ははは!ホントに面白い田舎娘だね!いるわけないだろ!」
独り言だったのだが、隣の犬耳おばさんが面白そうに話しかけてきた。
「そうなんですか?」
「これに似た小さい生き物はいるけど、こんな馬鹿でかいドラゴンなんていやしないよ!」
「ほへ〜……つまりドラゴンはいるんですね~」
「ドラゴンは希少だけどね。シードラゴンってのがマーレルのレストランで食べれる最高級料理さ」
「ドラゴン……食べちゃうんだ……」
山みたいなドラゴンはいないけど、小さいドラゴンはいて、それを食べる。なんだか、イメージしていたファンタジー世界と違った。わたしが知ってる世界では、冒険者はみんなドラゴンと戦って倒すことを夢見ていたような気がする。
だから、世間話ついで質問してみた。
「ちなみに、この町に冒険者ギルドってあります?」
「冒険者?はは!あんた漫画の読みすぎじゃないかい!」
やっぱりか、そういう職業もないらしい。
わたしが町中を探し回ったときにも、それらしいものは見つからなかった。これで確信が持てた。
んー……でも、困った。冒険者ギルドがないとすると、お金を稼ぐアテがない。RPGゲームのお約束が通じない世界のようだ。
「じゃ!わたしは先に出るよ!またね!お嬢ちゃん!」
「あ、はい、おやすみなさい」
「おやすみ!」
犬耳おばさんに手を振って見送る。もうちょっと色々聞きたかったけど、しょうがない。
冒険者になれないなら、地道にバイト探しを頑張るしかないわね、と考える。
明日起きたら、商店街をまわって、一軒一軒バイトさせてくださいって声をかけてみることにしよう。
♢
-翌朝-
宿屋の硬いベッドで目が覚める。
「よし、いくわよ。今日中に生きていく術を見つけないと!」
そう意気込んで、わたしは宿屋を後にした。
♢
まずは、昨日も訪れた商店街だ。朝から開いているお店に突撃していく。
「こんにちは〜」
「へい!らっしゃい!」
キリンの耳を生やしたおじちゃんがエプロンと長靴を履いて近づいてきた。
ここは魚屋さんだ。見たこともないお魚が所狭しと並んでいる。
「あの〜、アルバイトって探してないですかー?」
「アルバイト?働きたいってことかい?お嬢ちゃんが?」
「ええ、田舎から出てきて働き口を探していて……」
「んー……今はおっちゃんと女房で人手は足りてるかなー」
「そうですか、お仕事中にすみませんでした」
「いいってことよ!どこかいい店が見つかるといいな!」
「ありがとうございます」
ふむ、1軒目はダメか。まぁ、最初から上手くいくなんてことはないって思ってた。
よし!次よ!次!
そして、10軒目。
「ごめんねー!うちは家族経営だから!」
「あはは……ですよねー……」
全滅だ……
いや、まだ朝から開いてる店しか当たってない。もう少ししたら、他の店も開くはず、まだまだがんばるわよ!
気合を入れていると、新聞らしいものをもった人間のおじさんと、馬みたいな耳をつけた髭面のおじさんが通りがかった。楽しそうに騒いでいる。
「今日は誰が勝つかなー!」
「どうだろな!ガルームとかいいんじゃないか!調子上げてきてるしよ!」
「いやいや!あいつの相棒は夏に弱いんだ!もう少し水温が下がらないとよー!」
ふむ?なんの会話だろう?勝ち負けの話に新聞、なんとなく、競馬に行くロクでなしオッサンに見える、風貌的にも。
「賭け事……ギャンブルか……」
わたしはふと、先見の目のことを思い出した。あの力があれば……
いやいや!ダメよダメ!まじめに生きるのよ!わたし!
そう言い聞かせて、考えかけたことを振り払い、次の店へと向かった。
バイト探しをはじめて、25軒目。
おわった……全滅だ……
商店街の開いている店、すべて回ったと思う。
みなさん、とても親切そうではあったが、人手は足りてるということだ。
わたし、明日から宿なしなのかな……ぐすん……
希望をたたれて、目に涙が浮かんでくる。
「今日は第6レースが熱いって聞いたぜ!いっみよーぜ!なぁ!」
「いや、おまえ金ないだろ……」
「見るだけ!見るだけだからよ!」
「そう言ってこの前もかけて負けただろ……」
「うっせーな!暇なんだろ!いくぞ!」
「へいへい……俺はかけねーぞー」
……ギャンブル……これしか……ないのか……生きるためには……
だ、だって……宿無しなんて……耐えれないし……
サポートしてくれない、ゲバ爺が悪いんだし……べつに……犯罪じゃないし??
わたしは、ひたすら言い訳しながら、楽しそうに話すにいちゃんたちの後を追いかけた。
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