第30話
「……いえ、スチル様のお手を煩わせることなどないようにします。これは、私たちの使命ですから」
「まあ、そういうならいいんだけど……お前らにもしものことがあるような場合は必ず言うように。誰かに死なれるようなことは嫌だからな? 命を賭けるようなことはしないこと。いいな?」
俺としても、クラフィらは良い友人だと思っている。
彼女らがそれぞれやりたいことをやっているのは構わないが、死なれたら悲しい。
「……スチル様。分かっています」
「よし、話は以上か?」
「はい」
「なら、後ろからどいてくれ」
尿が出ないから。
俺がじとりと見ると、彼女は残念そうに姿を消した。
次の日。
アレクシアの用事は夕方からとはいうが、一日ダラダラと教会内で時間を潰していた。
やっていたことといえば、グランドの自主トレに付き添ったり、アクリルも誘って一緒に訓練をしたりだ。
そんなこんなで夕方になり、俺はアレクシアとともに街を歩いていた。
どこで美味しいディナーが頂けるんだろうな? 楽しみで仕方ないぜ。
アレクシアとともに歩いていたのが、向かっている方角は貴族街だ。
別に明確な名称があるわけではないのだが、貴族たちが多く住み、治安が良いとされるこの区画は貴族街と呼ばれている。
もしや、これはかなりの高級食品を食べられるのではないだろうか?
アレクシアも貴族だからな。貴族御用達の美味しいお店というのがあるのかもしれない。
とはいえ、この辺りにはモスクリア家も住んでいるわけだ。
家族たちとばったり会ってしまう可能性もあるわけで、用心しておかなければならない。
そんなことを考えながらついていった先は、ひときわ大きな建物だ。
「ここが、うまい店なのか?」
「さて、どうでしょうか」
どこかで、見覚えがある屋敷だ。
……さて、どこだったか。これでも、たまに家族に連れられ、屋敷でのパーティーに参加することがあったので、恐らくそのどこかだろう。
あれ? なんだか嫌な気がしてきたぞ?
ここまでの屋敷となると、恐らくはそれなりの立場の人のものだろう。
そんなことを考えていると、入り口にいた兵士たちが門を押し開けた。
アレクシアは一礼を返して、中へと進み、俺もその後に続く。
広い庭だ。一体何試合分のサッカーができるのやら。
周囲を眺めながら歩いていくと、やがて屋敷に辿り着いた。
門から玄関までを往復するだけでも軽い運動になりそうだ。
アレクシアが扉を開けるより先に、扉が自動で開いた。
自動ドアではない。中にいた兵士が開けてくれたようだ。
屋敷の中へと入ると、早速広い空間があり、待機していた執事や兵士たちが頭を下げてくる。
その奥にいた二人の男女が笑顔とともにこちらへと近づいてきた。
「久しぶりだ、アレクシア」
「久しぶりね、アレクシア」
「お久しぶりです、お父様、お母様」
結構太めの男女は……どうやらアレクシアの両親らしい。
確かに顔に面影はある。アレクシアも太ったらこうなるのかもしれない。
……おいこらちょっと待て。
ここ、ブルーナル家の屋敷じゃないか。
「帰っていいか?」
「ダメです」
アレクシアが俺の腕をぎゅっと握ってくる。
逃げるように背中を向けても、くいくいと引っ張られる。
……これではまるで病院を嫌がるワンコのようじゃないか、俺が。
事実、俺としては大変面倒な状況なのは理解した。
「一応確認するが、ここはどこだ?」
「私の家です。今夜、パーティーがありますので参加して欲しいと言われていたので」
「美味しい料理……奢りの話はどうなったんだ?」
「立食形式でのパーティーですので、楽しめると思いますよ?」
……どうしても、参加させる気のようだ。
アレクシアの顔に近づき、小さな声で問いかける。
「……下手したら、モスクリア家もいるんじゃないか?」
「参加していると思います。気をつけてくださいね」
「呼ぶんじゃねぇよ、俺かそっちを」
「仕方ありません。家族たちから……一度顔をみせろと言われていたんです。私としても、面倒ではありましたが……一応立場的に断りづらいんです。今後も会うことになるかはあなた次第ですよ」
「……ってことは、俺が原因で二度目はなくてもいいんだな?」
「それは、構いませんよ」
アレクシアもあまり本人もあまり行きたくはない様子だ。
まあ、彼女も貴族だし仕方ないのかもしれない。両親はニコニコと微笑を浮かべたままこちらを見てきている。
周囲には執事や兵士を含め、かなりの人数がいて、俺たちの様子を窺っている。
「ようこそ、スチルベルトくん。キミがアレクシアの聖騎士、なんだね?」
偉そうにこちらをじっと観察してくるアレクシア父。
……完全に立場としては彼の方が上なんだろうが、それでもどうにも格下の人間を見るかのような視線。
あまり好きじゃないんだよな、こういうの。
「ああ、そうだが。アレクシアの聖騎士ではあるが、あんたの私兵じゃない。部下のように接するのはやめてくれ」
冷たく突き放すように言うと、周囲の空気がぴりついた。
アレクシア父も、もちろん眉尻を吊り上げてはいたが、まだ笑顔は浮かべている。
彼はそれから、アレクシアへと視線を向ける。
「……アレクシア。彼は平民の出身か?」
「いえ、貴族の出身です。ただ、かなり昔に家とは縁が切れていますので、今の立場は平民とは変わりません」
「だが、元貴族ならば、当然ブルーナル家も知っているだろう?」
アレクシア父は、それを誇らしげに語る。別にアレクシア父の力で公爵の爵位を与えられたわけでもないだろうになんと自慢げなんだろうか。
アレクシア父だけではなく、アレクシア母もその立場を自慢するように胸を張っている。
「公爵家、だろう? で、それがなんだ?」
俺が特に気にも留めていない様子でアレクシア父に投げかけると、彼はまた苛立った様子で頬を引きつかせ
―――――――――――
新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。
俺の召喚魔法がおかしい 〜雑魚すぎると追放された召喚魔法使いの俺は、現代兵器を召喚して無双する〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます