第28話
南の村に到着するまで、それほど時間はかからなかった。
ただまあ、これをもしも徒歩で移動していたらとは考えたくないな。
村近くで魔導バイクから降り、ヘルメットを外す。
魔導バイクを置いておく場所に困った俺は、ヘルメットとともにアイテムボックスへと収納し、村へと入っていく。
アレクシアが村へと入ると、すぐに村の人たちがこちらに気づいて反応する。
「おお……! 聖女様……っ! わざわざ村まで来ていただいて、ありがとうございます」
村長だろうか? 腰の曲がった老人が嬉しそうな声をあげ、頭を下げている。
聖女、を一目見たいという人たちも多くいるようで、視線を向ければ大人、子ども問わず集まってきている。
男の子、女の子のどちらともがキラキラとした表情を向けてくるに、やっぱり聖騎士、聖女って憧れるものなんだろうな。
こういった純粋な視線は悪くないな。
「気にしないでください。結界の効果が薄くなっていると聞いて駆けつけました。すぐに結界を張り直しますね」
「お願いいたします」
村長が深く頭を下げると、アレクシアがすぐに片手を胸に当て目を閉じた。
彼女の足元が大きな魔法陣が出現すると、周囲の空気が揺れる。
……結界魔法を展開しているようだ。
結界魔法にはいくつか種類があり、魔物の侵入を完全に防ぐものから、魔物が嫌がる魔力の壁を作り、それによって魔物を遠ざけるものとがある。
村や街に使う場合は、この二つを使うことが多い。
どちらか片方だけだと、どちらかをすり抜ける魔物も出てくるそうだ。
魔法を使わなければ魔力の感知などはできないのだが、それでも今こうして対面するアレクシアからは膨大な魔力が溢れ出している。
……聖女としての力は、やはりずば抜けているな。ミハエルも何度か結界を作っていたことがあったが、ここまでのものはできていなかった。
そんなことを考えていた時だった。
「ギシャアアアアアアア!」
「うわああ!?」
「お、おいあれって……ワイバーンか!?」
「な、なんでこんなところにいるんだよ!?」
空から魔物の雄叫びが聞こえた。村の人たちからも悲鳴があがり、アレクシアはゆっくりと目を開ける。
空を見上げると、確かにワイバーンがいる。
アレクシアの魔力にでも気づいて、襲いかかってきたのかね? 聖女の肉体は魔物や魔族からすると美味しい、らしいからな。
まだ結界が展開されていないため、嬉しそうな様子で急降下をしてきたワイバーン。
聖女という、魔物からしたら極上霜降りのような肉があるのだから、そりゃあ夢中にもなるか。
アレクシアがちらとこちらを見てきたので、俺はゆっくりとアレクシアの方へと歩いていく。
「せい、聖女様! お逃げくださいいいい!」
村人の悲鳴が聞こえる中、俺はアイテムボックスから取り出した刀を振り抜き、ワイバーンの体を両断した。
血が吹き出したが、アレクシアが展開した小さな結界魔法がすべて弾く。
ワイバーンの死体が地面に落ちたところで、準備が終わったようだ。
アレクシアは、何事もなかったように結界魔法を展開し、村全体を温かな魔力が包んでいった。
俺も刀をしまい、代わりに取り出したパンを食べ始めると、アレクシアが服の裾を引っ張ってくる。
「私も食べたいです」
……だ、そうだ。
俺は仕方なくパンを食べてさせていく。
村人たちは、俺たちの様子を見て圧倒されていた。
「……わ、ワイバーンを一撃って」
「……聖女様も凄いが、聖騎士様も……凄いんだなぁ」
村人たちの驚きの声に混ざるように、子どもたちの嬉しそうな声があがる。
……ますます、聖女聖騎士の志望者数が増えるかもしれないな。
臨時収入を要求してもいいかもしれない。
結界魔法を展開してから十分ほどが経ったところで、アレクシアは大きく息を吐いた。
彼女の足元に展開されていた魔法陣は消え、村長の方へと歩いていく。
村長の前にたどり着くと、笑顔とともに頭を下げる。
「これで、結界はできましたので、また一ヶ月ほどは大丈夫なはずです。時期が来ましたらまた誰かしらの聖女が来ますので、よろしくお願いいたします」
「あっ、ありがとうございます」
「いえ。それと、村を汚してしまいましたし、ワイバーンの素材は村で好きに使ってください。それでは、スチル。戻りましょうか」
「了解だ」
アレクシアが軽く伸びをしてから、村人たちに改めて頭を下げた。
……その場にいた老若男女を虜にさせたアレクシアとともに、俺は村を出て魔導バイクを取り出す。
ヘルメットを投げ渡すと、アレクシアがすぐに装着する。俺が座ると、行きと同じように俺にくっついてくる。
「それじゃあ、行きましょう!」
「了解」
俺が魔力を込めてアクセルを捻ると、魔導バイクが動き出した。
「それにしても、ワイバーンが現れるなんて……下手な人が派遣されていたら大問題でしたね」
「やっぱり珍しいのか?」
「ええ。住処があるなんて聞いたこともなかったので、どこかで餌を取れなくなって移動してきたのか、あるいは誰かが意図的にワイバーンを連れてきたのか……」
「意図的、って可能性もあるのか?」
「はい。邪教集団の中には魔物を操る力をもっている人もいると聞きます。ですので、彼らが例えば聖女を狙ってけしかけた、という可能性もあるかもしれません」
「……なるほどな。まあ、面倒事にならなくてよかったな」
「スチルのおかげですね。ワイバーンを一撃、だなんて教会騎士たちには信じてもらえないでしょうね」
くすくすと笑いながら、アレクシアが俺の背中に改めてぎゅっと抱きつく。
「それにしても、この魔導バイクは良いですね。馬上デート、というのもありますがそれよりも落ち着く気がします」
「また勝手にデートにしやがって。教会に戻ったらちゃんと報告書をあげとけよ」
「大変良かったです、と伝えないといけませんね」
「運転に慣れるまでは使うの難しいともちゃんと書いとくんだぞ」
「はーい」
そういってアレクシアがまたぎゅっ、ぎゅっと胸を押し付けてくる。
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