第27話
アレクシアとともに大聖女の部屋へと向かうと、アクリルが今日は警備を行っているようで部屋の入り口に立っていた。
こちらに気づいた彼が少し警戒した様子で俺たちをみてきた。
「なんだよ、そんな面倒臭い奴らがきたって顔は」
「……最近、何かしらの問題を運んでくるからだ。それで、どうされましたか?」
アクリルの視線がアレクシアへと向く。
「ある魔道具の使用許可が欲しいので、大聖女様にその許可をいただきに来ました」
「……分かりました。中にお入りください」
アクリルが扉を開け、俺たちは中へと入る。
書類に視線を向けていた大聖女が、こちらをちらと見てくる。
「どうしたのかしら?」
「魔導バイクを移動のために使いたいのですが、よろしいですよね?」
「魔導バイク……確か最近、クラフィ商会から発売されたものね。馬に比べてかなり移動しやすいとは聞いているけど、まだ使用事例がないのよねぇ」
「というわけで、私が率先して使用感を調べてみたいと思っています」
アレクシアはワクワクした様子で手を挙げている。大聖女は呆れた様子で問いかける。
「……あなた、そう言って乗りたいだけでしょう? 確か、あれって二人乗りとかできるのよね? 二台借りるのかしら? それとも、二人で乗るの?」
「二人乗りの方がいいですね。デートっぽいですし」
「デートじゃないが?」
まあ、運転に慣れるまでは難しいだろうから、二人乗りでいいとは思うけど。
「まあ、どちらでもいいわ。使用感に関して、報告書を一緒にあげてくれれば、使っても問題ないわ。上は、『使ってみないことには分からない』って言うくせに、使用許可をおろさないんだから、勝手に使うしかないし」
新しいことが嫌いなんだろう。新しいことをすると、面倒な仕事とか増えるかもしれないからな。
「ありがとうございます。それでは、行きましょうか」
アレクシアがぺこりと頭を下げ、俺たちは仕事を始めるために南門へと向かった。
クラフィ商会。
俺のよく知っているクラフィが商会の会長を務めている。
俺がバイクについて話したことがあるのだが、それを魔道具として再現したというのは最近聞いた。
一度、乗らせてもらったこともあり、使用感はほとんどバイクと変わらない。
まあ、異世界特有の感じはあったが。
魔導バイクを借りに来た俺は、早速一台準備してもらうため、店へと入ったのだが見慣れたクラフィの姿があった。
「初めまして。こちらの店を管理しているクラフィと申します」
「……あっ、クラフィさん。もしかして、クラフィ商会の会長を務めている方ですか?」
「ええ。お会いできて光栄です、聖女様、騎士様」
クラフィがちょうど店の見回りにでも来ていたようで、俺たちの相手をしてくれることになった。
彼女の視線はずっと俺とアレクシアの繋がれた腕へと向けられている。
いやいや、これに深い意味はない。アレクシアが勝手に腕を組んでくるだけだ。
彼女はまったくアレクシアを見ておらず、俺をジっと責めるように見てばかりだ。
ちゃんと仕事してくれないか?
「私もお会いできて光栄です。早速ですが二人乗り用の魔導バイクを一台お借りしてもよろしいですか?」
「……ふ、二人乗り用ですか。分かり、ました……っ」
そんな血反吐でも吐きながらみたいに返事をするほどのことか?
笑顔ではあるが、露骨に引き攣っている。だからなんで俺を責めるように見てくる?
アレクシアは黒と青の混ざった魔導バイクを見て、目を輝かせている。
……俺が一つもらった試供品のタイプと同じ奴だな。今もアイテムボックスに眠っている。
それを使ってもいいが、アレクシアから色々お金の出所などを疑われる可能性もあるので、最初の給料をもらうまでは使わない方がいいだろう。
魔導バイクを門の外まで運んだところで、ヘルメットを装備する。
「運転はできますか?」
「話題になった後に一度、乗ったことがあるから問題ない」
「そうでしたか。ありがとうございます」
クラフィと俺は、外で出会った時は他人のふりをするようにしている。
外、というのは忍者の格好をしていないときだ。忍者の格好をしているときであれば、街中であっても話をするかもしれないが、今のところそんな自体に遭遇したことはないので分からない。
「乗ったことあったんですか?」
「新しいもの好きでな」
俺が魔力を込めると、魔導バイクのエンジンが入った。
同時に、バイクがわずかに浮かび上がり、アレクシアが俺の背中にぎゅっと抱きついてくる。
隣に並んでいたクラフィは、吹き出した風で揺れる髪を押さえながら、憎々しげにアレクシアを睨んでいる。
魔導バイクは、俺の知っているバイクとは少し違い、地面に接着せず、わずかに空中を浮いている。内臓された魔道具によって風を作り出し、わずかに浮かせているらしい。
これによって、常に少し浮いているため、荒れた道などでも問題なく移動できるそうだ。
軽くアクセルを捻ると、魔導バイクが動き出す。
その場で軽く円を描くように運転してみると、アレクシアが俺に抱きつきながら嬉しそうな声をあげる。
「これ凄いですねっ。速いし、お尻も痛くなりません!」
「だな。それじゃあ、クラフィ。これ借りていくから」
「はい。街中での運転はまだ禁止されていますので、返却の際はそこだけお気をつけください」
ぺこり、と頭を下げたクラフィから視線を前に向け、俺はアクセルを捻った。
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