第10話




 アレクシアとともにフードと仮面を購入した俺は、早速それを身に着けていった。

 外套のような服だが、動きづらさはない。

 なんなら、フードだけでもそれなりに顔は隠れるな。


 仮面をつけてみて、様子を見る。

 視界も問題ないな。これなら、口を開かなければ性別さえも分からないかもしれない。

 裾などを軽く調整してから、俺はアレクシアとともに歩いていく。

 ここでの代金はアレクシアの奢りだ。あまりお世話になりたくはないので、このときの代金に関しては脳の記憶から抹消して処理。


「さて……それでは早速教会へ行きましょうか」

「今から行っても大丈夫なのか?」

「ええ。すでに教会には私の聖騎士を連れてくると伝えてありますから」

「……勝手すぎやしないか?」

「おかげで、私が嘘つきにならずに済みました。行きましょう」


 アレクシアはかなり強引な聖女様だ。さすが、ラスボス。

 俺が知る聖女たちとはずいぶんと違うな。


 聖女も聖騎士も、誰かのために自分の身を削るようなお人好しばかりだからな。俺には信じられない奴らだ。


 教会にはすぐに着いた。到着したところでアレクシアがフードを外し、入口を守る騎士へと挨拶を行う。

 ……教会所属の教会騎士か。年齢は随分と若く、中性的な顔たちをしている。

 まだ、教会騎士になったばかりの子だろうな。


「お疲れ様です」

「聖女様……っ! 夜遅くまでお疲れ様です……。そちらの方は……聖女様のお知り合いでしょうか?」

「ええ。私の聖騎士となる人です。ただ、人に姿を見せるのは好きではないそうですので、このままとなりますが」

「……そ、そうでしたか……かしこまりました!」


 教会騎士は俺にも丁寧に敬礼を返してきたが、アレクシアの聖騎士となればそれ以上の追及もできないのだろう。

 アレクシアとともに教会内を進んでいき、一つの部屋の前で足を止める。

 凄まじいな。


 扉の外からでも感じるほどの威圧感があった。

 アレクシアに聞かなくても、この先に待つ人がなんとなく分かってしまう。

 ……面倒なことを聞かれなければいいんだがな。


 アレクシアがノックすると、ゆっくりと扉が開いた。


「アレクシア様。お待ちしていました」


 白を基調とした煌びやかな鎧に身を包んだ男性。

 年齢は俺と同じくらいだろうか? 感じられる力はかなり強大なものだ。

 彼も聖騎士……なのだろうか?

 そして、その奥には――彼と同じかそれ以上の魔力を持つ女性が座っていた。


「大聖女様。お待たせしてしまって申し訳ありません」


 大聖女。

 英雄カインの時代にはなかった聖女たちを管理する立場の人だ。

 すべての聖女たちをまとめる聖女たちのトップなのだから、その力が絶大な理由もわかる。

 間違いなく、ゲームでは最高評価のSランクを獲得できる戦闘力だろうな。


「あなたが昔から時間にルーズなのは知っているから気にしなくていいわ」


 両肘をつき、合わせた手の甲に顎をのせながらこちらを見る女性。

 さっきの教会騎士と、恐らくは同い年くらいだろう。

 恐らく、ほとんどの人が目を奪われるであろう美しい容姿を持った大聖女様が、こちらをじっと観察してくる。


「……その方が、あなたの聖騎士候補かしら?」

「はい、そうです。名前はスチルです……あっ」


 アレクシアがそこで少し迷った様子を見せたあと、しまったという顔を作る。

 おい。普通に本名を言うんじゃない、馬鹿。


「スチルベルトという名前だ。親しい人間はスチル、と呼んでいる」

「ということは、私もスチルって呼んでいいかしら?」

「親しくなった覚えはないんだが」

「よろしく、スチル」


 にこっと微笑む大聖女。

 聖女様ってのはどいつもこいつも距離の詰め方おかしくないか?

 ミハエルはもっと奥ゆかしかったぞ?

 現代の聖女たちはどうなってんだか。


 とりあえず、誤魔化すことはできたのでよしとしよう。


「顔は見せてもらえないのかしら?」


 大聖女からの問いかけに俺は反応せず、アレクシアを見る。

 さっきの無茶振りされたのだから、ここからはアレクシアにお願いするつもりだ。

 ちらと視線を向けると、彼女は任せてとばかりに胸を張り、ポニーテールを揺らす。


「彼は自分の正体を明かしたくはないんです。目立つことが嫌いで、少なくとも私生活まで聖騎士として関わられたくないということです」


 アレクシアがそういうと、傍に立っていた騎士がじろりとこちらを睨んでくる。


「……聖騎士は国民の象徴だ。その場にいるだけで人々に安心感を与える存在とならなければならないんだぞ? それが正体を隠す? ……それはさすがに認められない」

「まあまあ、待ちなさいアクリル。別に正体を明かすことが義務付けられているわけでもないわ」


 こいつ、アクリルっていうのか。見た目はかなり整った顔たちをしている。

 だが、真面目そうな奴ってのは表情からも分かる。

 大聖女はそこで言葉を区切ってから、俺を見てきた。





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