第47話
もしもまた英雄カインと対面したらどんな反応になるのかを期待していたが、少し違うものになったな。
「……」
ランスドは俺の攻撃をかわしきると、それまで恐怖に支配されていた顔から一転、笑みを浮かべる。
「かわせる! かわせるぞ! 今のオレ様のスペックなら、貴様の攻撃も見切れる!」
「……」
「あ、あの時の恨みを……ずっと晴らしたいと思っていた……! このオレ様を、あれだけコケにしたものはいなかったからなぁ!」
「……そうか」
千五百年も恨み続けていたってことか……。
それは、かなり呪われそうだな。まさかこいつの恨みが原因で俺が転生したとかじゃないだろうな?
「オレは貴様の攻撃を、見切った! 前は、一撃で死んだオレだが、いまは耐えきったぞ! カインの子孫! 貴様の今の力はカインと並ぶほどあるかもしれないが、オレの力はあの時を遥かに凌駕している!」
「そうだな。確かに前よりは強くなってるな」
自信に溢れた様子で地面を蹴り、ランスドが迫る。
拳を固めた彼へ、俺はじっと視線をむける。
「ただ、それでもまだまだ弱いよ、お前」
「へ?」
俺はさっきよりも力を入れて刀を振り下ろす。
まったく反応できなかったランスドの肉体が両断され、ランスドは驚いたように目を見開く。
「なっ!?」
心臓は潰した。残るは額の魔石。
ランスドは、第一形態、第二形態、第三形態とあるのだが、その総HPは同じだ。HPが一定値まで減ると、次の形態へと変化するのだが……例えば、第一形態の状態でゼロまで削ることもできる。
今の俺なら、一撃で第一形態から第三形態まで削り切ることも造作ではない。
「き、き、さま……っ」
「次また会うかはわからないが、それまでにもっと強くなっとけよ?」
「や、やめ! やだやだ! また封印されてるなんて――!」
俺はランスドの頭めがけて、握った拳を叩きつけた。
戦場はようやく静かになった。
……全員すでにこの場からは離脱しているため、アレクシアとアクリルくらいしかいないな。
倒れていたアクリルに近づく。息はあるようだ。ほっと胸を撫で下ろしながらアレクシアに問いかける。
「……アクリル、大丈夫だよな?」
「ええ。私の方で治療は行っていますので、あとはゆっくり休んでいただければ」
「それなら良かった」
俺はそう返事をしてから、アクリルをこの場に寝かしておくわけにもいかないため、彼を担ぎ上げる。
「それよりも、街のほうは大丈夫でしょうか?」
「街は……大丈夫だと思うぞ」
ここに来る途中、俺は教会へと向かっていたクラフィたちと合流していた。
彼女らもランスドたちが教会を目指しているという情報を手に入れていたらしく、討伐へ向かうために動いていた。
そこで俺が教会に行き、クラフィたちには街を任せてきた。
クラフィたちも魔族を倒していて、彼女らが把握している限りでは残りは教会にいる魔族たちのみだったらしく、それは先ほど俺が倒したので、これですべてのはずだ。
あとは、残っている魔物たちを狩ればいいが、それは騎士やクラフィたちに任せておけばいいだろう。
「そっちに転がってるのって……あの大司教の護衛じゃないのか?」
俺が視線を向けた先には、気絶した様子の二人の護衛が転がっていた。
アレクシアは近づき、その心臓に手を当て魔力を込める。
「そうですね。二人ともまだ息はあるようですので、これで問題ないかと思います」
とりあえず、教会に入った魔物たちもすべて鎮圧できているようだ。
めでたしめでたし……だな。
俺たちが軽く伸びをしていると、アレクシアが問いかけてきた。
「あなたに確認したいことが……あります」
そうアレクシアがこちらをみてきたときだった。
「せ、聖女様!」
アレクシアを呼ぶ声が響き、視線を向けると大司教が慌てた様子で駆け寄ってきていた。
教会騎士たちも数名連れている。
「ま、魔族を討伐してくれたのですね!?」
「い、いや……私ではなく――」
「さすが、次期大聖女様筆頭ですね!」
「いや、あのだから私ではなくわたしの聖騎士が――」
「かなり怪我をしているようですね! すぐに、治療を開始してください!」
……大司教と教会騎士たちが慌てた様子でアレクシアへの治療を開始する。
騒がしくなりそうだな。
「……アレクシア。俺はアクリルを部屋まで運んでくるわ」
「いや、ちょっと! ……ああ、もう!」
アレクシアは大きな声を上げたが、アクリルがいるからかいつもみたいに強引に止めてくることはなかった。
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