第46話



 


 教会へと戻ってくると、酷い状況だった。

 魔物と交戦したようで、あちこちで傷を負った教会騎士たちがいた。

 ……それよりも、今はアレクシアか。


「…………遅いですよ」


 笑顔でそう言ってきた彼女に、俺は取り出したアイテムボックスからエリクサーを取り出し、その体にかけた。


「これは……?」

「エリクサーだ。傷を回復することはできるが、完全復活には時間がかかるからちょっと休んでてくれ」

「……はい、分かりました」


 アレクシアは体を起こし、ぺたりと地面に座る。

 講堂の方へ視線を向けると、こちらにデカブツが歩いてきていた。


 あっ、こいつランスドか。

 邪神の手下の一人であるランスドは、そのドロップアイテムがゴミなことで有名だ。


 十柱戦では、レアドロップの伝説武器が確定ドロップになっているのだが、なぜかランスドだけはレアドロップとノーマルドロップの設定が入れ替わっていて、初期バージョンでは絶対に伝説武器が手に入らないというバグがあった。


 アプデされて直ってはいるのだが、それまでは最弱武器の普通の槍をドロップするので、それはもうバカにされていたものだ。


「なんだおまえは?」


 ランスドはしかし、俺には気づいていないようだ。

 まあ、俺は転生してしまっているし、そりゃあそうか。

 ランスドが俺の前にたち、じっと見てくる。

 ……ていうか、こいつ第二形態になっているのか。

 つまり、アレクシアがここまでダメージを削ったってことか。


 ……いや、やっぱすげぇわ。

 原作のキャラクターたちが四人で倒すのを一人で、おまけにゲーム知識ゼロでここまでやるんだもんな。

 現役最強の聖女、っていうのは間違いではないんだろうな。

 ……そして、ラスボス並みのスペックってことも、な。


「俺は、アレクシアの聖騎士、スチルっていうんだ。お前の名前は?」


 俺がアレクシアを指差しながら、念の為に問いかける。


「オレの名は、ランスドだ。邪神様の抱える十柱の一人だ」

「でもそれって昔滅ぼされなかったか?」

「我ら魔族に寿命などない。時間はかかるが、肉体は再生する」

「……なるほどな」


 そういえば、魔族にはそんな設定があったな。

 だから、その関係の設定で続編とかも作られるかもしれない、とか言われていたが……まさか、ボスを流用なんてそんなことはないよな?


「アレクシアの聖騎士ということは、おまえも多少は戦える、ということか」

「まあ、多少はな」

「そうかそうか。面白い、面白いぞ! オレは強者との戦いが大好きだ!」

「嘘つけ。おまえ、一撃でやられたとき泣きながら命乞いしてただろうが」

「……は? 何を言っている?」

「何って……昔、倒した時に必死に命乞いしてただろうが『か、カイン様の靴でもなんでも舐めますー!』って」

「な!? な、なぜそれを貴様知っている!?」


 俺がそう言って、アイテムボックスから刀を取り出すと、ランスドは警戒するように後退する。

 同時に、彼の呼吸が乱れ始める。

 明らかに狼狽えたランスドは、青ざめさせていた顔で何かを思い出したのか、はっとなって声を上げる。


「ま、まさか……貴様は……」


 俺が地面を蹴りつけ、ランスドへと刀を振り抜く。

 ランスドは俺の一撃に、驚きながらも尻尾を振り抜いて合わせてきた。

 硬質化した尻尾は、かなり頑丈だ。一度距離を取ると、ランスドは震えながら、後退する。


「憎々しい、聖騎士カイン……っ! その子孫か!」


 あっ、そうなるのか。



―――――――――――

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