第48話



 魔族襲撃から、数日が経過した。

 魔法の力もあって、教会はすっかり元通りだ。

 例の魔族襲撃に関しても、やはり邪教集団が関わっていることが判明し、生き残っていた者たちから現在も情報を聞き出しているとのことだ。


 ……といっても、あまりにも後手後手すぎるけどな。

 クラフィたちは邪教集団が動いていることを把握していたわけだし、騎士団含めてもっと頑張ってもらいたいものだ。


 そんな俺たちは今、大聖女の部屋に呼ばれていた。

 部屋に入ると、アクリルと大聖女がこちらをみていた。

 大聖女は一枚の新聞を見ながら、楽しそうに微笑んでいる。


「アレクシア、大活躍だったわね」


 そう言って彼女は新聞をテーブルに置き、トントンと叩いた。

 そこには、魔族たちを撃破したというアレクシアのインタビュー記事があった。

 アレクシアは、とても不服そうで、頬を膨らませる。


「私へのインタビュー意味ありましたか?」

「そんなに、スチルに関する部分がすべてカットされているのが不満かしら?」

「ええ、不満しかありませんよ」


 アレクシアはすぐに新聞社からインタビューの依頼があり、本人は断ったが教会が強制的に組み込んだ。

 今回、教会側としてはなかなかに被害を出してしまった。

 聖女や聖騎士たちがいて、なんたるざまだ、ということでお叱りを受けたらしく、そのお茶濁しのためにアレクシアの戦果を新聞で発表したのだ。

 まあ、かなり捏造されているが。


 新聞に関しては俺も見せてもらったが、アレクシアの記事のみだ。

 俺に関しての話題は一切なく、すべての魔族をアレクシアが倒したということになっている。

 おまけに、アレクシアがまったく発言していない内容も作られており、インタビューをしました、ということくらいしか事実はないらしい。

 この世界にネットとかテレビとかがあったら、証拠も残せるのかもしれないが……まあ、どうしようもないな。

 アレクシアは膨らませた頬から絞るように、不満を吐き出す。


「スチルがいなければ、私も下手をすれば多くの貴族も聖女も死んでいましたよ?」

「これが、教会としての判断、というわけよ。アレクシアの聖騎士は金になる。なんとしても、貴族の人になってほしい……それが、皆の答えよ。何より、あなたの両親のね」

「……」


 アレクシアがとても不満そうではある。俺としては、目立たなくてラッキー程度のものだ。


「スチルは不満はないのかしら?」

「俺? この格好でで歩いても問題ない今のほうがいいと思ってるぞ」

「だそうよ」

「……私としては、自分の手柄ではないのに私の手柄になっているのが嫌なんですが」

「でも、聖騎士が活躍したら聖女の手柄みたいなもんだろ?」

「そうね」


 俺と大聖女が納得していると、アレクシアはより不満そうに口をつんとする。


「……はあ、分かりましたよ。とりあえず、今日の仕事に行きましょう」


 アレクシアは諦めるようにそう言って、歩き出した。

 俺たちも聖女の部屋を出て、廊下を歩いていく。


「最近、色々あってあなたに聞く時間がありませんでしたが、聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「英雄カイン様についてです」


 彼女の言葉に、俺は小さく頷いた。

 まあ、ランスドとの戦いで聞いていただろうから、察しの良い彼女なら気づいているだろう。


「……ランスドとの戦いで、話していた内容を考えればわかることですが」


 アレクシアはそこで言葉を一度区切ってから、こちらを見てくる。


「……あなたは、英雄カイン様の生まれ変わりなのですか?」


 彼女の問いかけ。

 期待だろうか? それとも不安? 今の彼女の表情からは、何を考えているのかは分からなかった。



―――――――――――

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