第49話



 俺は、それに対しての回答はすでに用意していた。

 ……そうでなければ、あの場でランスドに俺の正体を明かすような発言はしなかったからな。

 俺があの場で彼女にあんな発言をした理由は簡単だ。


 いつまでも、正体を隠していたくはなかったからだ。

 ランスドが復活した以上、いずれは他の十柱たちも復活してくるはずだ。

 どうせ、どこかで俺のことに気づくやつは出てくるわけで……その時までに、味方を作っておきたかった。


「ああ、そうだ」


 俺の言葉に焦った様子で、ぎゅっと力強く掴んだアレクシアは俺の顔をじっと見てくる。


「……あなたに、一つだけ、聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「……カインは、どうして魔族たちのために戦ったのですか?」

「……」


 それは、予想していなかった質問だった。アレクシアはじっと、俺の目を見てくる。


「……どういうことだ?」


 アレクシアの質問は、おかしい。

 俺がカインかどうか、それについて問いかけてくるものだとばかりに、俺は考えていた。

 だが、彼女がいざ口にした言葉は、俺の存在について問うもの。


 とはいえ、英雄カインが魔族たちのために戦ったという事実を知る人間は、当時生きていた者たちか俺くらいしか知らないだろう。


 だって、カインを英雄として捏造したのは教会なんだからな。

 大聖女もグランドも憧れの存在だと語っていたから、その事実は間違いないだろう。

 そこまで考えて、俺は少し悩んだあとで……アレクシアをじっと見る。


 ……俺は、特別な人間なんだとばかりに思っていた。

 実際、主人公に転生し、今もこうして強くてニューゲームになっているのだから、それは間違いではないだろう。

 だが、その特別な人間が俺だけではなかったとしたら?


「……アレクシア。お前も、昔を知る人なのか?」

「……」


 アレクシアは俺の問いかけに、ゆっくりと頷いた。

 ……誰、だ?


 咄嗟に浮かんだのは、ミハエル、サーヤ、フォースの三人たちだった。

 だからこそ、警戒する。……さすがに、千五百年前のことを引っ張りだして殺してくる様なやつはいないだろうとは思っていたが、それでも可能性がないとも限らない。


 それに、アレクシアは続編のラスボスだ。……例えば、仮に前作主人公が仲間に加えていた人間の一人が転生した姿だとすれば、今の彼女の強さに関しても、分からないではない。


 ぐっと唇を噛んでから、彼女は俺の方へ一歩歩いてくると、俺の手をゆっくりと掴んだ。


「おじさん」


 アレクシアは俺の手を握りながらからかうように笑う。

 俺は彼女のその言葉に、自分の最後の記憶を思い出す。


「……アパル、か?」

「……見て、分かりませんか?」


 いや、分からねぇよ。

 アレクシアは少し不満そうに頬を膨らませてから、俺の方に抱きついてくる。

 彼女の体を受け止めた俺は、


「……悪かった」


 短く、そう伝えるしかなかった。

 しかし、俺の言葉が意外だったのか、アレクシアは不思議そうに首を傾げていた。




―――――――――――

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