第50話


「何がですか?」

「いや、あの時のことだ」


 最後に泣きそうな顔で手を伸ばしてきた彼女の姿を思い出す。……あの時、俺は彼女を逃すために無理やりアイテムを使用した。


「別に……怒ってはいませんよ」


 頬を膨らませながらそう言われても……な。


「……あの後、どうなったんだ?」

「私は、必死に逃げました。……でも、すぐに捕まって……殺されちゃいました。……そして、気づいたらこうして可愛い私に転生していました」


 アレクシアが俺から離れるとアピールするように両手を広げ、くるりと回ってみせた。


「私、前世ではあまりちゃんと生活できていなかったので、毎日が新鮮でした。……そんな時です。私は、あなたを見つけました」


 アレクシアは俺を見て、ゆっくりと口元を緩めた。


「……もしかしたら、って思って。でも、違かったらどうしようって思っていたんですけど、あなたに声をかけました」

「……よく、分かったな」

「なんとなく、ですよ。私も、確信までは持てませんでした。でも……あそこで一目見た時……なんだか、懐かしさと優しさを感じたんです」


 それが、ランスドとの戦いで分かったってことか。

 俺の方へゆっくりと近づいてきた彼女が頭を下げる。


「助けてくれて、ありがとうございました。私のこと大事にしてくれて、ありがとうございました」

「やめてくれ。……守りきれなかったんだ。その言葉を受け取る権利は俺にはねぇよ」


 俺にその感謝をもらう権利はない。


「でも、助けてもらったから、私はきっとここにいるんです」

「……まあ、死んじゃったってことだろ?」

「そういう意味ではありません。……どうして私が転生したのか、私はずっと考えていました。転生について色々と調べてみたら、魔族についての転生について、面白い推測がありました」

「どんなものだ?」

「十柱の魔族たちは、強い思念を持っていて、それが輪廻転生を歪ませているって。何かしらの、強い希望を持ち、それを達成するために彼らは何度も何度も再生する、と……」


 ……十柱の魔族のみが、輪廻転生をする。

 それは邪神の直属の部下だからだと俺は考えていたが、この世界の人たちはそういう風に思っていたのか。

 ただ、もしもアレクシアの言うことが正しいなら、確かに彼女も前世では魔族だったのだから、その推測が当てはまる可能性がある。


「アレクシアが……いや、アパルがそういう希望を持っていたってことか?」

「はい。……私は、次は、普通の人生を歩んでみたいって。普通に寝られて、普通に起きられて、普通に食事ができて……普通に……恋をして。そんな普通を、たくさん、いっぱい経験したいって。……できれば、あなたと一緒に」

「……まさか、お前の希望を叶えるために俺も巻き込まれたってか?」

「かもしれませんね」


 くすり、といつもの調子で笑うアレクシアに俺は苦笑を返す。

 ……普通の人生を歩んでみたいっていうわりには、公爵家に生まれて、聖女の力も持っているなんて欲張りセットもいいところだ。


 いや、案外そうでもないのか?

 普通だって、一つだけを見れば普通でも、すべて普通を満たせる人間というのは高スペックになることだってある。


 彼女が先ほど求めた普通を得るには……どれか一つを求める分には生活の仕方でいくらでもできるかもしれないが、すべてを満たすにはそれなりの立場が必要だろう。

 ……確かに、この世界で、アレクシアの求めたアレクシアの考える普通を手に入れるには、彼女くらいのスペックがなければダメなのかもしれないな。


「スチル……試用期間はもうそろそろ終わりです」


 そういったアレクシアはこちらをじっと上目遣いに見てくる。


「改めて、です。私の聖騎士になって、今度は私のことを守ってくれませんか?」


 ……その言い方は、ずるいな。

 それを拒否すれば、俺は前世のことで責められるかもしれないじゃないか。

 あるいは、優しさか。

 俺の引っかかっていた思いに気づいて、あえて彼女はそういってくれたのか。

 ……俺は小さく息を吐いてから、彼女の優しさに、甘えさせてもらう。


「……まあ、給料はいいしな。もうしばらくは付き合ってやるよ」

「ありがとうございます」

「もう、絶対、ぜーったい。この手は放しませんからね」


 アレクシアはそう言って、いたずらっぽく笑いながら俺の手を握りしめた。




―――――――――――

第一章終了となります。

第二章に関してはゆっくりとですが書いていきますので、しばらくお待ちください。



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ラスボス聖女様の聖騎士 〜転生した俺は、強くてニューゲームで続編世界のラスボスに好かれてしまったようです〜 木嶋隆太 @nakajinn

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