第40話


 


 俺は周囲にいた魔物たちを一掃しながら、街を進んでいた。


「……い、一撃で」

「こ、これが……聖騎士の力……っ」


 俺が援護した教会騎士たちが、驚いたようにこちらを見てくる。


「おまえら、さっさと避難誘導しろ」

「は、はい! 分かりました!」


 俺の戦いに呆気に取られていた者たちに指示を飛ばし、俺は次の魔物たちを探して街を歩いていく。

 教会を出発して結構経つんだが、魔族を未だ見つけることができていない。

 もう全部狩られてしまったのかね? そんなことを考えながら、魔物たちを排除していく。


「……それにしても、酷い状況だな」


 耳を澄ませる必要もなく、街のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 魔物のうめき声はもちろん、火の手もあるようでそれを消火するための声や避難誘導を行う人々の声。

 ……まあ、俺の役目は魔族の討伐。今は避難誘導などは教会騎士たちに任せていけばいいだろう。

 そんなことを考えている時だった。

 涙を流しながら走ってきた二人の子どもたちが、魔物に追われていた。

 教会騎士たちがすぐに反応して助けようとするが、間に合わないだろう。


「ひいい!」


 悲鳴が聞こえ、魔物が地面を蹴った次の瞬間。

 俺は一瞬で距離をつめ、取り出した刀で魔物を両断した。

 さらに二体。ウルフたちが飛びかかってきたのだが、一太刀で切り伏せる。


「大丈夫か?」

「う、うん……っ!」

「避難所の教会はあっちだ。教会騎士たちがいる道を使って避難するようにな」

「お、おじさん!」

「誰がおじさんだ!」

「ひっ!?」


 いつもの調子で声を上げたら、ビビられてしまった。

 ……いや、でもおじさんじゃないのは事実だぞ?

 こほんと咳払いをしてから、問いかける。


「……どうした?」

「ぼ、僕たちを助けてくれたお兄さんたちが……人に襲われているんだ……! た、助けに行かないと……死んじゃいそうで……!」

「人……魔族かね?」


 俺に与えられた命令は魔族の討伐だったからな。

 さっさとそいつでもぶっ潰してやろうか。

 子どもたちと入れ替わるように俺は目的の方へと小走りで向かう。


 ……酷い光景だ。騎士たちが倒れていて、すでに死んでいる者もいる。

 体のあちこちで食い破られていて、見るに堪えない姿だ。

 すでに息はない、か。死んでしまっては、エリクサーも意味はない。


 治せるのは、瀕死まで。死亡、ではダメだ。

 魔族、さっさと倒したほうがいいな。

 その道を抜けていった先。少し開けた空間では、今まさに二人の教会騎士が倒れていた。


「……」


 倒れていたのは――グランドと、見知らぬ騎士。

 俺が一歩その戦場へと踏み込むと、魔族の視線がこちらへと向いた。

 煩わしそうに振り返った魔族はそれから吐き捨てるように叫んだ。


「また、新しい餌が増えたのかよ?」

「魔族だな?」

「ああ、そうだぜ? んでもって、また弱そうな奴がきたな? 聖女か聖騎士クラスのやつと戦いたいもんだぜ」

「それなら、ちょうどよかったな。俺はアレクシアの聖騎士だ」

「……ん? アレクシア……? ああっ! そいつって今回の目玉の食糧聖女じゃねぇか!」

「目玉?」

「ああ、そうだよ。うちのリーダーが狙ってんだよ。アレクシアってのがかなりいい聖女なんだろ?」


 魔族の間でも有名人なのかよ。

 普段ならアレクシアに冗談の一つでも飛ばしていたことだろうけど、今は一人だしな。

 さっさとこいつを仕留めて、教会に戻った方がよさそうだ。


「べらべらと作戦内容を話してしまっていいのか?」

「あ? 別に問題ねぇだろ……。だってよぉ、ここでてめぇは死ぬんだからなぁ!」


 魔族は狂気の笑みを浮かべ、地面を蹴る。

 一瞬でこちらへと迫ってきた彼が拳を構えるのを、じっと睨む。


「……てめっ!?」


 動きを完璧に見られたことで、ようやくそこで理解したようだ。

 俺は、彼が拳を振り抜くより先に、刀を振るう。

 俺の一閃から逃れようとした魔族だったが、避け切れるはずがない。

 その体を両断し、心臓と額の魔石を真っ二つに切り裂き、俺は返り血を浴びないようさっさとグランドたちの方へと移動する。


「ば、バカ……な……。この、オレ……さ、ま……が……」


 途切れ途切れの言葉を吐き出しながら、死んだ魔族を確認した俺はすぐにエリクサーを取り出し、まだ息のある二人の体にかけた。



 すぐに、体を起こしたのはグランドだ。


「……はっ!? こ、ここは天国……!?」

「俺が天使に見えるか?」

「……あっ、スチルさん!? いてて……」

「傷を塞いだだけだ。完全に回復するまでは安静にしてろ」

「は、はい……。も、もしかして……スチルさんがあの魔族を倒してくれたんですか?」

「まあな」


 答えながら、転がっていた魔族の頭へ視線を向ける。グランドは少し表情を険しくしながら、すぐに立ち上がる。


「……ありがとうございます。あっ、ぼ、ボーデンは……どうですか!?」

「こいつか? 大丈夫だ。意識は失ってるみたいだけどな」


 脈は正常に戻っている。俺の言葉に安堵した様子のグランドはすぐに立ちあがろうとしたのだが、体はふらついている。


「まだ、傷を塞いで少し体が回復しただけだ。もうこれ以上戦うのは難しいはずだ」

「……で、でも急がないと……っ! 教会が狙われているみたいなんですよ!」


 俺はボーデンを担ぎ、近くの建物へと運んでいく。

 入り口の扉は閉まっていたが、蹴りあけて、中に入り、そこにあったソファにボーデンを寝かせる。


「らしい、な。お前たち二人は、ここで待機していてくれ。俺は教会に戻って状況を確認してくるから」

「わ、分かりました……っ。無理、しないでくださいね」

「ああ、大丈夫だ」


 そう返事をした俺は、教会へと向かって走り出した。



―――――――――――

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