第38話
グランドは仲間たちとともに街へと向かい、魔物と戦っていた。
実戦での経験は何度もあったし、ここ最近はスチルと戦い、身のこなしも上達していた。
問題なく魔物の体を切り裂いたグランドは、まだ動こうとした魔物の首へ剣を振り下ろし、トドメをさした。
そして、震えて動けなくなっていた少年とその母親へ、笑顔とともに声をかける。
「はぁ……はぁ……! 良かった、大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとうございます……!」
「教会へ、避難してください。そちらには聖女や聖騎士の方もいますから」
できる限りの笑顔を浮かべ、グランドは彼女たちを元気づけた。
二人が走り去っていく方には、他の騎士や教会騎士も道を作るために戦っている。
グランドは改めて気合を入れ直し、魔物と戦うために走り出す。
それに合わせるように、グランドの同期であるボーデンが並んだ。
「調子いいじゃねぇか」
「……まあね」
「もしかして、スチルベルトさんとの訓練のおかげか?」
「それも、あるかな?」
グランドはこれまで、戦うときに余裕がないことが多かったが、スチルと何度か戦った時にそこを指摘されてからは戦闘前に深呼吸をするようにしていた。
それで、前よりも万全の状態で挑めるようになったので、グランドはスチルに大きく感謝していた。
「あの人、平民出身なんだろ? 周りから色々絡まれて大変そうだよなぁ……」
「そうだと、思うよ。本人は気にしてなさそうだけどね」
「ほんと、色々凄い人だよな。聖騎士目指すなら、あのくらいの胆力はないとな。平民への差別はないとか言ってるけどさ、めちゃくちゃあるしよー」
「そうだね」
この作戦でもそうだった。
今回、街での戦闘を任されている教会騎士はほとんどが平民だ。
貴族出身の者たちは、教会の結界内で待機している。
もちろん、街のほうが危険だからだ。
「……結局、命賭けさせられるのは俺たち平民なんだな」
そう言ったボーデンが魔物へ向けた火魔法を放ち、焼き尽くした。
グランドも剣を強く握り、魔物たちを切り裂いていく。
「……だとしても、だよ。僕たちのおかげで救われる命もあるんだし、頑張らないとね」
「……だな。運が良かったら聖女様に気にいられるかもしれないしな!」
下心100%の笑顔で、ボーデンが走り出す。発見した魔物へ魔法を放ち、その体を燃やす。
スチルも負けじと剣を振り抜き、魔物を狩る。
その時だった。人間の悲鳴が響き渡り、二人はその方角へ視線を向ける。
「向こうからかっ。急ぐぞ!」
「うん……っ」
悲鳴をあげた人を助けるために、そちらへと駆け出す。
細い道を抜けた先。そこに到着した二人は想像もしていなかった光景に顔を顰める。
「た、助けてくれ!」
「に、逃げろ! こ、こんな化け物に勝てるわけがねぇ!」
騎士たちが悲鳴をあげ、必死に逃げ出していた。
だが、それを嘲笑うかのように飛び上がった男が、先回りし騎士の頭を殴り飛ばした。
それから、その飛び上がった男は左手に持った人間の腕を頬張るように口へ運んだ。
にやり、と笑みを浮かべた魔族に、逃げようとしていたもう一人の騎士は腰を抜かしていた。
呆然と立ち尽くしてしまったグランドだったが、その体がすぐに物陰へと引っ張られる。
ボーデンだ。
彼もまた、ガタガタと震え、顔面蒼白にしながらも咄嗟に隠れるために動いたのだ。
「はっはっはっ! これが人間たちの騎士かよ。弱すぎんだろ!」
バカにするように笑った魔族が、倒れていた騎士たちを食べていく。
その中には、グランドの知り合いもいて、思わず息を呑んだ。
名前までは知らないまでも、見知った仲間たち。
グランドは口を押さえ、共に聖騎士を夢見て訓練したことのある命が目の前で失われていく様を見て、込み上げてきた吐き気を必死にこらえていた。
グランドたちは、一目見た瞬間に理解させられた。
魔族との絶望的な戦力差を――。
「……無理だ。戦うのは……報告に、戻るんだ……っ」
ボーデンの提案に、グランドも同じ意見だった。
がたがたと震えてしまっている足を必死に押さえつけるようにして、二人はその場から離れようとした。
だが、二人が魔族とは反対方向へと歩き出そうとした瞬間だった。
「ひいい!?」
「きゃあ!?」
悲鳴が二つ、ふえた。
グランドとボーデンは反射的に振り返る。そこには、二人の少年がいた。
必死に教会を目指して逃げてきたのだろう。二人は、死体が転がるその場所を見て、大きな悲鳴をあげて尻餅をついていた。
食事中だった魔族の視線も、そちらへと向けられる。
「……ほお、大人よりもガキのほうが肉自体はうまいんだよなぁ。肉体が強化されることはねぇが……これでも、オレは美食家でなぁ」
ニタニタと笑いながら、魔族が子どもたちに近づいていく。
震えた様子の子どもたちに、グランドは奥歯をぐっと噛み締める。
――助けなければ。
グランドは震える手で剣の柄を握りしめる。
―――――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しかった! 続きが気になる! という方で、☆☆☆やフォローをしていない方はしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます