第37話


 クラフィたちが俺の元に何の報告にもきていないのも気になっていたし、街を見にいくのもいいか。

 グランドも戦いに参加しているだろうし、彼らが死なないように手を貸したいとは思っている。

 二人は俺に紙を押し付けると、さっさとどこかへと言っていく。

 アレクシアは怪訝げにその命令が書かれた紙を見ていた。


「……先ほどの作戦と、明らかにおかしいです。なぜ、スチルを街に出撃させるのでしょうか?」

「俺の実力が認められたってことじゃないか?」

「いや、そうではないと思います」

「そんな簡単に否定されると寂しいな」

「教会が、スチルを評価していないこと二対して、信頼はあるんです。もしも本当にスチルを評価していたら、教会を防衛拠点にするための指示を出しているんですからそこにスチルを配置しないのは明らかに矛盾しています」

「そこまで評価されても、逆に困るな」


 俺が照れるように頭をかいていると、アレクシアは納得のいく答えが出たのか、ため息をついた。


「……恐らくですが、上の人たちがこんなときにもバカなことを考えているんでしょう」

「バカなこととは?」

「大司教たちは貴族との関わりもあります。もしかしたら、この機会に私の聖騎士に無理な作戦を命じて、死ねばラッキー、とかですよ」

「なるほど。そうしたら、聖騎士の再抽選が行われるってわけか。賢いな」

「能天気な、バカですよ……平民が聖騎士に指名された場合に無理な仕事の依頼を振って肉体はもちろん、精神的にも追い詰めるというのはよくあることです。これまでは、何もありませんでしたが……大聖女様が街にいないとなるとこれですか……」


 ため息を吐いたアレクシアが、ちらとこちらを見てくる。


「……スチル。今は大聖女様がいないため、命令は絶対ですが……無理はしないでください。あなたに死なれるのが……一番私は困りますから」


 困る、か。アレクシアは本気で俺を心配しているように見える。

 俺はアレクシアがラスボスだということは、知識としては持っていた。

 ……だが、どの時点で彼女がラスボスなのかは分からなかった。

 少なくとも、今はまだ、ラスボスにはなっていないようだ。

 心配そうなアレクシアの頭をぽんぽんと叩いた。


「安心しろ。おまえの聖騎士は案外楽しいからな。こんなところで死ぬつもりはない。それより、俺がいない間に何があるか分からないんだから気をつけろよ?」

「……はい。もちろんです」


 アレクシアはわずかに頬を染めながら、深く頷いた。

 俺はアレクシアと別れ、教会の外へと向かって歩いていく。

 教会内で待機命令が出ていると思われる教会騎士たちの、小馬鹿にしたような視線がこちらに向けられる。


 ……アレクシアが言っていた通り、まじで俺を聖騎士の立場から失脚させるために、こんな緊急事態にあんな命令を出したのだろうか?

 そんなことを考えていると、アクリルがこちらへきた。

 少し慌てた様子で駆け寄ってきた彼が、俺の前で足を止めた。


「……作戦の指示を受けたのか?」

「ああ、受けたぞ。魔族を狩ってこいって」


 俺は先ほど受け取った紙をアクリルに見せると、彼は最後に書かれていた大司教の文字を見て、不愉快そうに眉を寄せる。


「やはり、か。……前から、お前のことを好ましく思っていない連中がいてな。そいつらが大司教に指示を出した作戦だ。そんなもの無視しても構わない」

「無視したらそれを理由に聖騎士を辞めさせられるかもしれないんだろ?」

「それは、大丈夫……だと思う。大聖女様が戻ってくればこの命令もなかったことにできるはずだ。だから、わざわざ危険を冒す必要はない」

「でも、何かしらイチャモンをつけられる可能性はあるんだろ? だったら、何体か魔族狩ってきて、誰にも文句を言われないようにしたらいいだけだろ?」


 俺がそういうと、アクリルは驚いたようにこちらを見てくる。


「なんだよ。俺が魔族相手に勝てないと思われてるのか?」

「……それは、もちろん不安はあるが……。おまえが聖騎士に……そこまでこだわりがあるとも思っていなかったんだ」

「別になかったんだけどな」


 アレクシアのことを思い出し、俺は腰に手を当てて軽く空を見る。


「あんだけ色々抱えているアレクシアを、助けてやりたいって気持ちはある。俺が近くにいれば、ちょっとは負担も減るみたいだしな」


 俺はそう言ってからアクリルを見て、肩を叩いた。


「そういうわけで、俺がいない間のアレクシアの子守は頼んだぞ」

「……分かった。そちらは、気にするな。私が命を賭けても守る」

「聖女を守るために、命なんて賭けるなよ。お前に死なれても嫌なんだからな」


 そう言ってから、俺は教会に張られた結界の外へと歩いていった。



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