第44話



「……ちっ!」


 ランスドは厄介そうにアクリルへと回し蹴りを放つが、アクリルは斬撃を放ちながら、アレクシアを抱え、後退する。

 その間に、アレクシアは緊急用に持っていた唯一の魔力回復ポーションを口に運びながら、アクリルの肉体を強化するための支援魔法を展開する。

 ランスドが追撃を放つため、アレクシアへ迫るがアクリルが正面から剣で受け止める。


「くっ……!?」

「正面からやれば、貴様など造作もない!」


 ランスドがアクリルの体を弾き飛ばそうとしたが、アクリルは剣を返し攻撃を逸らす。

 だが、即座にランスドは体勢を戻し、アクリルが殴り飛ばされる。


 アレクシアも魔法を放つが、ランスドの一撃に弾かれ、二人は地面を転がる。

 ランスドの攻撃の手は緩まない。二人は、致命傷を避けるように動くので精一杯で、反撃することができずにいた。


 二人がかりでギリギリで耐えていたその均衡。

 しかし、それは、ランスドの振り抜いた尻尾の一撃によって崩れる。

 ランスドの尻尾がアレクシアへと迫る。

 それまでのダメージによって反応が遅れてしまったアレクシアの回避が間に合わない。


 咄嗟にアクリルが動き、アレクシアを突き飛ばしたが、アクリルの腹部に尻尾が深く突き刺さる。

 ランスドがアクリルの体を放り投げ、アレクシアの近くに転がる。


「アクリルさん……っ」


 呼吸があることを確認したアレクシアはアクリルの傷を治療する。

 それでも、ダメージは残っている。よろよろと立ち上がった彼は、アレクシアへ声をかける。


「……支援魔法の威力をあげることは可能ですか?」

「可能……ではあります。ただ、引き上げた力は肉体に大きな負担を与えることになります。ですから……これ以上威力をあげますと、アクリルさんの体が危険です」

「それなら、お願いします」

「……アクリルさん」


 アレクシアはまだ迷いがあった。

 今の状態でアクリルの体の限界を越える強化を施せば、それこそアクリルの肉体に大きな負荷がかかることはわかっていたからだ。

 だが、アクリルの決意は固く、苦笑まじりにぽつりと呟く。


「私、あまり友人はいないんです」

「知ってます。大聖女様が心配していましたよ」

「……。で、ですが、最近友人ができたんですよ」

「……そうなんですね」


 慌てた様子で返してきたアクリルは、それからランスドを睨みつける。


「せっかくの、友人の頼みなんです。それを守るために、力を貸してください」


 アレクシアはじっとアクリルを見てから、こくりと頷いた。

 それから、彼の体に支援魔法を施し、アレクシアも自分の肉体を強化する。


「アクリルさん。短期決戦で一気に片付けます」

「……分かり、ました」


 二人がランスドへと視線を向けると、彼は余裕そうに笑みを浮かべ、拳を構える。


「それが、お前たちの奥の手だな? いいぞ、いいぞ! まだまだ楽しめそうだ!」


 アクリルは小さく息を吐き、それから一気に地面を蹴る。

 アクリルがランスドを弾き飛ばし、アレクシアが魔法を展開してそれを援護する。

 連撃を叩き込まれたランスドの表情が、みるみる笑顔になっていく。

 ――時間がない。


 アレクシアは自分とアクリルの支援魔法の限界が近づいていることを理解していた。

 だからこそ、次の一撃にすべてを込めるため、動き出す。

 アクリルが地面を踏み込み、さらに加速しランスドの背後から一閃を放つ。


「うぐ!?」


 膨れ上がった頑丈な筋肉で受け止めたランスドだが、ダメージはあったのか顔が引き攣る。

 そこへ、アレクシアが光の砲撃を放った。

 まっすぐに伸びた柱のような光の一撃は、ランスドの体へとあたりその肉体を飲み込み、吹き飛ばした。


「ぐっ、おおおお!?」

「いいかげん、くたばってください!」


 アレクシアは普段ならば絶対に口にしないような言葉とともに、さらに魔力を放出してランスドを吹き飛ばした。


「……はあ、はあ……っ!」


 アレクシアは何度も荒い呼吸をついてから、地面に膝をついた。



―――――――――――

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