第43話




「う、うわあああああ!」

「なんでえええええ!?」

「皆さん、落ち着いてください!」

「こちらです! 焦らず移動してください!」


 教会騎士と聖女たちが先導して走り出し、皆を講堂の外へと連れていく。


「ちっ、餌に逃げられるのは面倒だが、貴様は……他の聖女とは格が違うな……貴様が、アレクシアか?」


 不意にランスドに名前を呼ばれたアレクシアはぴくりと眉尻をあげつつ、首を傾げた。


「どうでしょうか?」

「まあ、なんでもいいか。これだけの聖女ならば、オレの糧にするには十分だ。喜べ」

「なるつもりはありませんが?」


 アレクシアは魔法で作り出した光の翼を広げながら、周囲に光の玉を展開する。

 アレクシアが視線を向けた瞬間、その光の玉がランスドめがけて放たれていく。


 ランスドは空中へと飛び上がり、即座に回避したが、それより先にアレクシアが動き、ランスドの体を蹴り飛ばした。


「ほお、さっきまではまだ本気じゃなかったか」

「周囲に流れ弾がいかないよう、結界魔法を展開しながら戦っていましたからね」


 アレクシアは思い切り光の剣を振り抜いたが、ランスドにはあっさりとかわされる。

 ランスドが背後に回ったのを見切ったアレクシアは即座に結界魔法を展開すると、ランスドが拳を構える。


「悪いな。オレもまだ、本気ではなかったんだ」


 展開した結界魔法は、派手な音を上げながら破られ、アレクシアは地面へと叩きつけられる。

 それでも、アレクシアは即座に光の玉を作り出し、砂埃に紛れるようにして攻撃を放つ。


「この程度、何度きたところで弾かれるだけだぞ!」

「それは、どうでしょうか」


 ランスドへと向かっていた光の玉は、ランスドの攻撃に合わせてひょいとかわし、光が分裂する。その光は線へと変化し、糸のようにランスドの体へとまきつく。


「ぐっ!?」


 即座にランスドがそれを破こうと力を入れるが、地面を蹴って距離をつめたアレクシアが巨大化させた光の手を作り出し、ランスドの体を握りつぶす。


「ぐ、おおおお!?」


 高熱が生み出される光の手に握られながらも、ランスドは笑みを浮かべていた。

 アレクシアがさらに魔力を込め、その全身を握り潰そうとするが、ランスドが力を込めて抵抗する。


「さっさと、潰れてくれません……か!」


 だが、アレクシアが力を込めていったが、ランスドがさらに力を込めて弾き飛ばした。

 衝撃に吹き飛ばされたアレクシアはすぐに態勢を立て直し、息を吐く。


「これだけ心踊る戦いは久しぶりだ! オレが貴様のことは生涯にわたって語り継いでやろう。貴様は、過去含め、歴代最強の聖女だ」

「……そうですか。それはどうも、ありがとうございます」


 ランスドが空中から急降下し、アレクシアはそれを横に飛んでかわす。

 光の翼を動かし、空へと飛びあったアレクシアは距離をとりながら魔法で攻撃していく。


 だが、高速で移動するランスドには当たらない。

 一気に距離を詰められてしまい、避けきれなかったアレクシアの足が掴まれる。

 アレクシアが逃れようと力を込めるが、それを上回る力でランスドがアレクシアを地面へと放り投げる。

 勢いを殺しきれなかったアレクシアが地面に叩きつけられ、悲鳴をもらす。


「ぐっ!?」


 アレクシアは血を吐きながらも、さらに迫ってきたランスドの尻尾の一撃を魔法の衝撃波で吹き飛ばす。

 だが、アレクシアは自分の鼻から垂れてきた血を押さえるように手をやる。

 その変化に、ランスドの笑みが濃くなる。


「そろそろ、魔力も少なくなってきたんじゃないか?」

「……さて、どうでしょうかね」


 魔力を一気に多く使うと、体に異常が出る。アレクシアは、これまでここまで連発して大技を繰り出したことがなかった。


 正確に言えば、繰り出す必要がない相手としか戦ったことがなかった。

 体に高負荷をかけ続けることに慣れていなく、アレクシアの体力は限界に近かった。


「残念だ……楽しい戦いだったが、もう終わりそうか」

「勝った気でいますが……まだまだ戦えますよ」


 魔法で吹き飛ばすが、ランスドは即座に体勢を立て直し、アレクシアへと迫る。

 アレクシアは寸前で回避したが、伸びてきた尻尾の反撃への対応が間に合わない。


 その瞬間、アレクシアは視界の端で動いたそれに、支援魔法を放った。

 一気に加速した彼が、ランスドへと迫り、その背中を斬りつける。

 ずっと機を窺っていたアクリルによる一閃だ。


―――――――――――

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