第42話


 ロード弟が笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀をする。


「オレたちが本物ってものを見せてあげましょう。まあ、立場的には聖騎士ではありませんが……スカウトしたければいつでも声をかけてくださいね?」


 にこりと整った顔でそんなことを言っていた。

 ロード兄弟はその美貌もあり、聖女たちからは聖騎士にしたいランキング上位にいることもあった。


 その時だった。外で教会騎士の悲鳴が聞こえ、何かが折れ、咀嚼される音が響きわたった。

 視線を向けると、扉の奥から三人の魔族が姿を見せた。

 登場した姿は凄惨なもので、人の腕を食べながら歩いてきたものだから、講堂内はたちまちにざわつきだす。


 講堂内の警備にあたっていたアクリルを含めた教会騎士たちが、すぐに警戒態勢をとる中、ロード兄弟が前へと歩いていく。

 先ほどまでのどこか落ち着いた雰囲気から険しい表情を浮かべる。

 切り替えの早さは、序列上位の騎士ゆえだ。


「貴様たちが魔族か」

「わざわざ、教会本部に乗り込んでくるとは……やはり魔族はバカな連中だな」


 三人の魔族たちが視線をロード兄弟へ視線を向ける。


「ランスドさん、なんか生意気なやつがいますよ」

「オレたちでやっちまっていいですか?」


 一番奥、ランスドと呼ばれた魔族に声をかけた二人の魔族の言葉に、ロード兄弟がぴくりと反応する。

 アレクシアは、そのランスドから目を離せなかった。


 これまでに対峙してきた誰よりも、強いということを一目で理解していた。

 それと同じものを感じたことが、アレクシアには一度だけあった。

 スチルと出会った時だ。


 もはや、アレクシアでは正確に力を把握できない領域。

 どちらが格上かは分からない。だが、どちらも自分よりも格上の存在であることだけは、理解できていた。

 だからこそ、アレクシアは――冷酷に、冷静に判断を下す。


「やってみろよ……!」

「所詮は魔物みてぇなもんだろうが!」


 ロード兄弟が笑みを浮かべ、ランスドへと斬りかかる。

 本人たちの態度はともかくとして、実力があるのは本物だ。貴族たちの歓声を追い風に、一気にランスドへと迫る。


 二人が振り抜いた剣はしかし、ランスドの振り抜いた尻尾に弾かれる。

 体勢を崩したロード兄弟は、すぐに体を戻し、攻撃を仕掛けようと向き直る。

 だが、ランスドの放った魔法が二人の体を射抜き、吹き飛ばした。


 ロード兄弟は……動かない。倒れたままの彼らの体へ、魔族が笑顔とともに向かう。

 ロード兄弟が一撃でやられた。

 そのことを理解した講堂内の人々は完全に静まり返っていた。


 そして魔族たちがロード兄弟へと近づく様を見て、ようやくすべてを理解した彼らが悲鳴をあげる。

 それまで以上にパニックに陥った彼らの声に、魔族たちが煩わしそうに耳を押さえる。

 その瞬間だった。アレクシアは溜めていた魔力を一気に放出した。


 ランスドと魔族二人を狙って放った砲撃のような魔法は、彼らすべてを飲み込み、講堂の壁ごと吹き飛ばした。

 アレクシアはさらに魔力を高めたあと、講堂の背後の壁に穴をあけ、叫ぶ。


「教会騎士、並びに聖女たちはすぐに民間人を避難させてください! ここは私が引き受けます!」


 アレクシアがそう叫んだ瞬間、先ほどの攻撃で生まれていた砂煙の中から、アレクシアへ向けてランスドの尻尾が伸びる。

 アレクシアは結界魔法を展開し、尻尾を弾きかえし、ランスドへ光の弾を放つ。

 ランスドは硬化した体を使い、突進によってそれらの攻撃を弾き返し、アレクシアへ接近する。


「おお、さすがブルーナル家の聖女様だ!」

「頑張れ! そんな魔族やっちまえ!」


 貴族たちが、歓声を上げる。アレクシアは苛立ちながら、ランスドを弾き飛ばし、魔法を放つ。

 アレクシアは未だ避難せず見ていた彼らへ、怒りの声をあげる。


「これは見せ物ではありません! すぐに、避難してください!」


 そう叫んだ瞬間だった。ランスドが地面を蹴り真っ直ぐにアレクシアへと向かう。

 即座に結界魔法で周囲を守ったが、その結界ごと殴り飛ばされる。

 アレクシアは壁に張り付くように魔力を展開し、ランスドへ視線を向ける。


 一瞬で距離をつめたランスドの攻撃をギリギリでかわし、アレクシアは空中へと飛び上がる。光の翼を作り出し、空で反転しながら光の矢を放つ。

 しかし、ランスドは全てをかわす。


 翼を大きく広げたランスドは狂気の笑みとともに、拳を振り抜いた。

 アレクシアが展開した結界魔法が破られ、その胸に拳が突き刺さる。


 放っておけば死ぬような大怪我を負いながらも、アレクシアはすぐに魔力を纏ってランスドの体を蹴り飛ばし、距離を取る。

 自身の全身の傷を一瞬で治療したが、大幅に魔力を消費する。


「……はぁ……はぁ……。早く、逃げなさい!」


 アレクシアが再びどなり周囲を睨みつける。

 そこで、ようやく貴族たちでさえ、状況に気づいた。

 自分たちが、安全域にいるわけではないということを。

 アレクシアが、ギリギリの戦いをしていることに。



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