第2話
……強くてニューゲーム、という言葉がある。
これは、ゲームによって多少の違いはあると思うが、基本的には、ゲームクリア時の能力だったり、アイテムだったりを次のニューゲームの際に引き継げるというものだ。
無双プレイをするためだったり、一周目では見られなかったイベントを見るために行うものだ。
なぜこんな話をしているのかというと。
俺はどうやら、ちょっと特殊な強くてニューゲームに成功してしまったらしい。
『バラリティワールド1』の時代から千五百年が過ぎた世界で、俺は聖騎士カインの能力を持ったまま、また転生してしまったのだ。
とはいえ、今度の俺の立場は貴族とはいえ、次男。
おまけに、家での扱いは――。
「おい、ゴミ」
――最悪だ。
完全に、主人公ではなく、どこにでもいるモブ。ありがとうございます。
俺を呼んだのはレクナ様。
別に、ゴミというのは俺の名前ではない。
俺には立派な、スチルという名前があるのだが、俺のことを家族たちはゴミと呼んでいる。
「はいなんでしょうか」
今更、ゴミ、呼びに怒りなどはない。相手していても面倒だからだ。
貴族であり、俺の兄であるレクナ様に、すっとお辞儀をすると、彼は苛立ったように床を指差した。
「今日は貴様がこの部屋の掃除を担当したらしいな? なんだこの散らかった部屋は?」
レクナ様の部屋には、脱ぎ捨てられたような服が散らばっていた。
……今朝、レクナ様が食事に行っている間に彼の私室の掃除を行っていた。
その仕事はちゃんとやっている。
完璧に片づけた。
ではなぜ汚れているのかというと、レクナ様が俺を叱りつけるためだけに、わざとぐちゃぐちゃにしたのだろう。
これはもう何度も経験している。
口答えをしたところで俺に勝ち目はないので、深く頭を下げる。
「申し訳ございません。今すぐに片づけますね」
俺は床に転がった衣服を片づけるためにしゃがむと、その頭をレクナ様に踏みつけられた。
ごりごりと頭に床を擦り付けられることになる。
「なあ、スチル? おまえ本当なんで死なないんだよ?」
「……それは――」
日本であれば「自殺教唆!」としてあちこちに訴えかけることもできるのかもしれないが、ここは異世界でありまあ、そんな縛るようなものはない。
「毎日、こんだけ扱われたら普通死にたくなるものなんじゃねぇか? ……てめぇみたいな無能な双子がいるせいで、オレの評価にまで傷がついたんだよ? 分かってんのか? さっさと死んでくれないか?」
「……申し訳ございません」
俺はもう一度そう言うしかない。
俺が生まれなおした先は、モスクリア侯爵家。
国内でも有名らしく、優秀な魔法使いを何人も排出してきた家らしい。
この時代にも魔物という存在は当たり前にいて、それらを討伐できる優秀な魔法を持った存在の価値は高い。
そして、ここからが問題だ。
……このモスクリア侯爵家では約18年前。双子が生まれた。
長男であるレクナ・モスクリアと次男である俺……スチル・モスクリアだ。
男の跡継ぎが生まれたことでモスクリア家はさぞ喜んだそうで、すぐに能力の測定が行われた。
その結果。
レクナ・モスクリアはSランクの評価を受け、スチル・モスクリアは……測定不能の評価を受けた。
最低評価はGランク。……測定不能というのは、弱すぎる無能者、だからだ。
なぜ俺の能力がGランクになったのかは、恐らくゲームであったバグじゃね? と勝手に判断しておいた。
ゲームにもあったのだが、強くてニューゲームをした場合、なぜか能力の総合評価の表示がGランクのままになっていたことがあった。
これは、強くてニューゲームをしたときの能力が高すぎた場合に、うまく数値として反映されなくてバグってしまうらしい。
ゲームではすぐに修正されたのだが、この世界はまだ修正されていないようだ。あるいは、修正されることはないのかも。
そういうわけで、侯爵家で生まれたにも関わらず、俺は家族からゴミ同然の扱いを受けている。
まあ、別にいいんだけど。あんまり強すぎる力を持ってても、怯えられて殺されるだけだし。
俺としては、のんびり自堕落な生活ができればそれでよく、この貴族の家での生活はまさにそれに近い状況なので大満足だ。
まあ……この生活も、もうすぐ終わっちゃうんだけどな。
「さっさと、誕生日になってくれればな! 成人になれば、家からの追放も認められるもんな!」
ああ、もううっせぇ! もうすぐ追い出されるんだから、顔色を伺う必要もないだろう。
レクナが苛立ったように俺の頭を踏みつけてくる。
ただし、ダメージはすべてゼロだ。今の俺はラスボスだって一撃で仕留められる能力なんだから、当然だ。
それでも、頭に汚れがつくので、できればやめてほしいんだけど。
レクナが言う通り、俺はもうすぐ十八歳になり、成人するので家を追い出されてしまう。
殺されることもあるそうだが、俺の場合皆の前で能力測定をしているからな。この国では能力による間引きは大罪として定められているため、人前で能力測定した俺は殺されない、というこおだ。
というわけで、有名な家では無能が生まれても、成人まで育てて追放するようなことが多いそうだ。
まあ、俺ほどの無能でなければ、大体の場合は政略結婚の道具になるのだが、俺は永遠のGランクなせいでどこにも貰い手がいない状況だった。
俺とレクナの誕生日も、もうすぐだ。
そうなれば、俺はこの家から追放されてしまう。
……嫌だなぁ。
最低限の仕事をしていればダラダラできる生活がなくなるんだもんなぁ……。
家を追放された後は生活費を稼がないといけないわけで、とてもとても面倒である。能力がいくら優秀であっても、金を稼ぎにいく、という行為自体が面倒なのだ。
レクナが満足げに踏みつけた後で、俺はノーダメージの体を確認し、あくびをする。
「……どっかにラクで暇な仕事、転がってねぇかねぇ」
そんなことを、真面目に考えていた。
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