第25話
「……まったく、お前何やってんだよ」
「……いや、なんだかその真面目な話をしていただろう? その中で出ていくのも失礼だと思って……後半、あまりよく覚えていないが」
「そっちの方が失礼だボケ。ったく、ちょっと休んでろ」
俺は服を着替えたあと、彼にアイテムボックスから取り出した飲み物を渡す。
水筒に入ってたそれを、アクリルは朦朧とした様子でごくごくと飲んでいく。
それから彼は横になりながら着替えを行っていく。
なんでこんなことになってんだかな。ため息を吐いていると、
「スチル、お風呂まだですか?」
外から、アレクシアの声が聞こえてきた。……俺たちの声が聞こえてきたからか、外から聞いてきた。
俺が外に出ると、アレクシアが笑顔を浮かべた。その後ろには大聖女の姿もあった。
どうやらアレクシアと大聖女は共に行動していたようだ。聖女たちから嫉妬される理由は、たぶんそういうところもあるんだと思うぞ?
「おっ、ちょうどいいな」
「え? 何かしら?」
大聖女と目が合ったため、彼女が首をかしげる。
「中にいるアクリルがのぼせた。部屋に運びたいんだが案内してもらってもいいか?」
俺の言葉を受けた大聖女が「え?」と驚いたようにした後、苦笑する。
「のぼせたって……何をしていたのよ?」
「色々と話をしてたら、盛り上がったもんで、風呂から出るタイミングを逃したらしい」
「バカなの?」
「バカだと思う」
俺がそういうと、大聖女は苦笑とともにため息を吐いていた。
俺はもう一度脱衣所へ戻り、気持ちよさそうに眠っているアクリルを担ぐ。
なんでこいつ寝てんだよ……足でも持って引きずってってやろうか。
「……まったく。最近色々と仕事も溜まっていたし、疲れもあったのでしょうね。部屋まで案内するわ」
「ああ」
「アレクシア、そういうわけでちょっとの間だけ彼を借りるわね」
「……はーい。分かりました。変なことしたら怒りますからね」
アレクシアがそう言ってから、歩いていく。
俺は大聖女とともに、アクリルの部屋へと向かい扉を開ける。
アクリルをベッドに放り投げたが、彼が起きる気配はない。
大聖女は気持ちよさそうに眠っているアクリルを見て、満足げな表情を向けている。
さすが義母だな。完全に親の顔だ。
俺と大聖女はアクリルの部屋を出て、
「色々と迷惑をかけてしまったわね」
「いや、別に気にしなくてもいい」
「まあでも、あなたとの話が盛り上がったっていうのは気になるわね。アクリル、友人を作るのって苦手なのよ?」
「そうなのか?」
「真面目すぎるし、まあそもそも貴族ばかりのこの教会騎士の中じゃね」
……そういうことか。
「ああ。まさにその話をしていたときにこいつのぼせてたんだ。アクリルが騎士として頑張っている理由とかな」
「……へぇ。アクリルはあまり話したがらないのに、よく話したわね」
「俺が先に自分のことを話したからかもな」
相手の話を聞く前に、自分のことを話した方が相手も話してくれやすくなるともいうし。
あるいは、のぼせて判断力が鈍っていたのかもな。
「あなたのこと?」
「ああ。俺は貴族に捨てられたってこととかな。そうしたらアクリルも似たような経験があるってことで話してくれたんだよ」
「……あら、そうだったのね。あなたが貴族だったっていうこと……アレクシアは知っているの?」
「まあな。詳しいことが知りたかったらアレクシアにでも聞けば教えてくれると思うぞ?」
「別に、あなたの過去を詮索するつもりはないわ。アレクシアが自分で認めた聖騎士なんだから、それでいいと思っているわ」
「アレクシアのこと、評価してるんだな」
「ええ、しているし、お気に入りだわ。だから、はっきり言って大聖女にはなってほしくないとも思っているのよ」
「それ大聖女が言っていいのか?」
「大聖女、だから言っているのよ」
彼女は小さく息を吐いてから、こちらを見る。
「この仕事、面倒で大変なのよ。国全体でみて、男尊女卑が強いでしょ? 聖女とはいっても、所詮は女っていう考えをしている教皇側が面倒なのよ。意外とその派閥が多いっていうのもね」
「……まあ、なんとなく分かるな」
「それに、教会も国も、すべてが綺麗事だけで片付けられる世界でもないし」
「……」
わりと現代の人がみたらドン引きするような男尊女卑の場面もある。
特にそれは、組織の上の方で顕著らしく、彼らにとってはあくまで女性は道具のように見ている部分があるようで、大聖女といってもそういう対象からはそう見られてしまうのだろう。
綺麗事だけで片付けられない、か。
やっぱり、この時代も色々と裏で動いているのかもしれない。
大聖女は、どっち側なんだろうな。
「教会には馬鹿な考えを持った人も多いわ。教会を金儲けの道具として考えている連中とかね」
「そりゃあまた。一応、聖女様たちの扱いは神の代行者だろ? それを使って金稼ぎなんて罰当たりだな」
「そうよね。でも、実際いるのよ。一部では邪教集団と結託している裏切り者の話もあるほどだわ」
邪教集団といえば、聖女とは完全に敵対する組織だ。
「そんなことして何になるんだ?」
「聖女の立場をより神格化するため、とかじゃない?」
大聖女がぽつりとそう言って、俺はすぐにその言葉の意味を理解する。
「魔族とか邪神を蘇らせて、それを聖女が討伐しているところを見せるってか?」
「ええ。聖女や聖騎士は今も人気だわ。でも、昔に比べてそれらが必要なほどの脅威はない。だから、脅威を作り出し、それを排除する、ってこと。市民からの支持はより集まり、募金、支援金はウッハウハ……になったらいいわね、って話よ」
「マッチポンプにもほどがあるな」
「でも、いるのよ。そんな能天気な馬鹿が。戦争って金になるって言うでしょ? 魔族と聖女の戦争も、金になるのよ……。ほんと、カイン様に申し訳がたたないわ」
聞きなれたカイン、という言葉。突然名前を出されてどきりとしたのだが、それ以上に大聖女の声音が気になった。
明らかに、カイン様と呼ぶときの声や雰囲気が違ったのだ。
「……か、カイン様?」
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