第7話
これからの生き方は……色々と考えていたがどうするかねぇ……。
クラフィたちとともに行動するのも……ありっちゃありか?
俺が助けてあげた子たち同士で集まって、なんか色々やっているみたいなので、合流すれば養ってくれるかもしれないが……やめておくか。
さすがに妹のような彼女たちのヒモになるとか、それは良くないだろう。
だとしたら、やっぱり冒険者とかかねぇ。ソロで活動して、日銭を稼ぐ分には、目立つこともないだろう。
すでに夕方だ。これから旅に出ると間違いなく夜になる。
今日は宿に泊まろう。裕福とは言えないが金もないわけではないしな。
路地を通って宿へと目指していた俺だったが、その道の先を一人のフードをかぶった人間に塞がれた。
……フードをはぐ必要はない。
俺は彼女の横を抜けようとしたが、腕を掴まれる。
「お待ちください、スチル」
落ち着いて凛とした声。
アレクシアのものだ。もう俺は貴族ではないので、彼女を気にかける必要もない。
「アレクシア……なんだよ? ていうか、なんで俺の居場所が的確に分かるんだよ?」
「聖女というのは、相手にマーキングすることが可能です。取り逃がした魔物を追うためのものですが……もちろん人相手にも使えます」
「つまり、ストーカーってことだよな……? 騎士に言いつけちゃうぞ?」
……能力の高い聖女がそんな魔法を持っているのは知っている。
うちのミハエルも、一人限定ではあるが使えていたからな。
その対象は、俺であり、どうやら俺は聖女にストーカーされる運命なのかもしれない。
「騎士たちであれば私の命令を聞いてくれますので、無駄だと思いますよ?」
フードに隠れてはいるが口元が緩んでいるのは見えた。
……俺は掴まれた腕をはぐようにして、彼女と向き合う。
マーキングされている以上、どこに行っても逃げられはしないだろう。
ならば、アレクシアの話を聞き、二度と関わらないでくれとお願いしてしまったほうがもう面倒なことにもならないはずだ。
「あなたの家へ面会に行ったところ、すでにあなたはいないと聞きました」
「ああ。さっき誕生日だったからな」
「レクナ、でしたか? どうやら私が面会しにいった理由を誤解されてしまったようで、脱出にずいぶんと時間がかかってしまいましたよ」
……レクナや父、母のことだ。
きっとアレクシアにアピールしまくっていたんだろう。その光景は容易に想像できた。
「誕生日にあなたがいなくなるというのはどういうことでしょうか?」
「俺は今年で18歳だ。貴族が成人を迎えたらあとは分からないか?」
「……なるほど、そういうことですか。モスクリア家も、他家と同じ、ということですか」
短い話で理解してくれたようだ。
「殺されなかっただけマシかもしれないけどな」
「それは、そうですが……あなたなら、もしも殺されそうになっていれば逃げていたでしょう?」
「買いかぶらないでくれ。俺はただの一般人だ」
アレクシアのどこか期待した瞳から視線を外す。
「ただの一般人さんに質問です。本日、お婆さんを襲った強盗はDランク冒険者だったそうです」
「それがどうしたんだ? 一番いるランクの冒険者だろ?」
「それは確かにそうですね。ですが、Dランク冒険者に一般人が勝てるでしょうか?」
「人間ってのは脆いんだ。不意打ちを受ければどんな奴だって死ぬ」
俺が体験済みだ。
……まあ、あの場でも抵抗しようとすれば抵抗はできた。
ただ、逃げたところでそこからは逃亡生活の始まりだ。
そんなだるい生活はしたくない。
「それはそうかもしれませんが、犯人は逃亡中でした。決して、油断はしていなかったと思いますが」
「路地まで逃げきれた時点で多少は気がぬけていたんじゃないか?」
「ああいえばこういいますね」
「話を終わらせたがっているのに、無理やり繋げられているもんだからな。話はそれだけ
か? 俺は早いところ宿を見つけて休みたいんだよ。明日からは一人で生きていかないといけないもんでな」
俺がそういうと、アレクシアは笑顔を浮かべた。なんか、嫌な予感がする。
「それでしたらいい宿がありますよ」
「聖女様が泊まる宿だろ? 高いんじゃないか?」
「大丈夫です。衣食住のすべてを管理しますし、さらには毎月給与も支払われます。活躍に応じて特別報酬も与えられる。そんな素晴らしい仕事の斡旋に来ました」
「……」
その先の問いかけはしなかった。
アレクシアは俺の変化に気づいた様子もなく、笑顔とともに問いかけてきた。
「私の聖騎士になりませんか?」
「……」
「私の聖騎士になれば、衣食住はもちろん。先ほど話をされていた一人で生きていく、という問題も解決しますよ」
「……」
聖騎士。
あちこちで冒険者の真似事のようなことをし、おまけに聖女の面倒もみる。
面倒な貴族との顔合わせもあれば、他にも貴族がたくさんいる世界で活動をしていく仕事だ。
「断る」
俺が両手でバツを作ってやると、アレクシアは笑みを浮かべた。
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