第17話



「……あ、あれ? な、なぜ倒せたのですか!?」

「武器に属性がついているのは知っているか?」

「え、ええ……火、水、風、土の四属性。さらに魔族は闇属性を使い、聖女の魔法は聖属性……ですよね?」

「つまり、聖属性の武器であれば狩れるとは思わないか?」

「……い、いやそうですが。聖属性の武器なんて聞いたことないのですが」


 聖属性の武器であれば、こいつらを狩れる。まあ、聖属性武器を作ること自体が大変なのでゲームではクリア後のやり込み要素の一つだ。

 もちろん俺は何セットか用意するために、世界中の迷宮を回っては魔物たちを倒しまくる日々を送っていた。


「俺の刀は聖属性が付与されてるんだ。まあ、そういうわけであのくらいの魔物ならどうとでもなる。必要があれば、今後は時間稼ぎに徹底させてもらうが……俺も戦うのは好きなんでな。あんまり待てばかりだとストレス溜まるから、そこは考慮してくれ」

「……」


 俺は刀をアイテムボックスにしまうと、じっとアレクシアはこちらを見てきた。

 そうして、しばらく考えていた彼女の顔がぱっと明るくなった。


「それでは、これからはもっとお任せしますね!」


 嬉しそうだ。

 とりあえず、問題なさそうだな。

 どうせ聖騎士をやるのなら、俺としてもストレスの溜まる職場環境は嫌だからな。


「おう、了解だ。次は迷宮か? 結界のほうに行くか?」

「迷宮に行きましょう」


 アレクシアは弾んだ声とともに、俺の手を掴み歩き出した。



 目的の迷宮に到着した。小山のような迷宮の入り口へ視線を向けたアレクシアは、それから結界魔法を展開した。


「とりあえずこれで、魔物が外に出ることは防ぎましたので……あとは中に入って迷宮の状態を確認しましょう」

「了解」


 アレクシアとともに階段を降りると、暗い洞窟のような通路が続いていた。

 俺はアイテムボックスにライトなどの魔道具を持っていたが、アレクシアが魔法を展開してくれたので明かりは問題なさそうだ。


 俺たちの周囲と道の先を照らすように光の玉は動いていく。


「スチルは迷宮探索の経験は結構あるほうですか?」

「何度かあるな」


 冒険者たちはこの迷宮から生み出される素材を売り捌いて、生活費を稼いでいる。俺は元々貴族だから、アレクシアは聞いてきたんだろう。

 この時代になってからは数えるほどだが、まあ別に前世基準で話しても大きく問題はないだろう。


「それなら細かい説明は必要なさそうですね。魔物がたまに足元から出てきたりするので、それだけ気をつけてくださいね」

「了解」


 かつかつと二人で歩いていく。

 本来迷宮というのはもっと大人数で攻略するものだ。

 ただ、今回は別に戦うためにきたわけじゃない。アレクシアが地図をみながら、指差す。


「あっ、そちら真っ直ぐですね。足元から魔物が出現しますので対応お願いします」


 迷宮から出現する魔物まで正確に把握できるなんて、俺の知っている聖女よりもかなり能力高いな。

 ……ま、まあミハエルは聖女としての能力はかなり低い方だった。


 この世界が元になったゲームでは、何人かのパーティーメンバー候補がいて、自由に仲間を決めて冒険できるものだった。


 俺は、どうせ自分が最前線で戦いまくるので、縛りプレイ気味に遊んでいたので、皆の基本性能はそこまで高くない。


 普通にレベルを上げているだけでは、そこまで強くならないのだが、そこからはドーピングアイテムで強化している。

 どのキャラクターもすべてのステータスを限界まで上げきってはいたのだが、各キャラクターたちには成長限界があり、主人公に比べれば低かった。


 そんなことを考えながら、現れた魔物が攻撃体制を整える前に刀を振り抜いて仕留める。


「あっ、次は天井から降りてきます」

「……モグラ叩きみたいだな」


 すっと頭が出たばかりの魔物の首を刎ねる。

 迷宮内の魔物が死んだ場合は素材のみがドロップする。

 なので、解体とかの必要がないので非常にラクだ。


 あと、迷宮内の魔物しかドロップしないアイテムの方が多いので、基本的に素材集めは迷宮で行うほうがいいとされている。

 この時代の迷宮や魔物は……見たことがないやつもいる。


 ……新しい図鑑、どこかで手に入らないものだろうか?

 カイン時代の魔物図鑑はすべて埋め切ってあるので、また新しいものが欲しいところだった。


「そういえば、スチル。戦闘のときに武器を取り出していますが、収納魔法を持っていますよね?」

「まあな」


 この世界には収納魔法というものがある。俺のアイテムボックスとは違い、入れられる量には制限があるのだが似たようなものなので俺も収納魔法として名乗っている。


「事前に、あなたのことは調べたのですが……スチルは才能なしという評価を受けていましたよね? 特に目立った魔法なども持たず、能力も低かったはずです。何か、能力測定において問題があったのですか?」

「理由は分からないが、俺の測定結果だけ微妙なことになるんだよ」

「そうなんですね。ですが、それだけの力を見せれば、家から追い出されることもなかったのではないのですか?」


 アレクシアが言う通り、ではある。

 俺の力を使えば、おそらくモスクリア家の面々は手のひらを返して俺を受け入れていたはずだ。

 ただ、その道は考えているよりも面倒だろう。


 聖騎士や騎士団を目指すために騎士学園に入れられ、さまざまな貴族たちの顔色を伺い、伺われつつの生活。

 下手をすれば、俺の能力測定の結果が正しく出ないことについての研究なども行われるかもしれない。

 

 あれこれと面倒事に巻き込まれるはずで、のんびり自堕落に生活というのからは限りなく遠くなるはずだ。


「めんどくね? 貴族」


 色々な理由を一言にまとめると、アレクシアは笑顔を浮かべた。


「めんどいですね、貴族」

「だろ? ……ていうか、そこまで能力ないの分かっててよくスカウトしたな」


 アレクシアは俺の指摘に少し慌てた様子を見せた後、ぽつりと口を開いた。。


「あなたに才能を感じたのは事実です。ですから、能力測定の結果について聞いた時は驚きましたよ」

「でも、結局スカウトはした、と」

「女の勘、って結構当たるんですよ? 結果は大正解でしたし」


 厄介だな、女の勘ってのは。

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