第18話



「聖女ってのは相手の力量とかを正確に測ることもできるのか?」

「正確にてまではできませんが、強者というのは同じく強者がわかるものではないですか?」

「どうだろうなぁ……」


 分かるものなのだろうか?

 俺は仮にラスボスや裏ボスと対峙したときも、強者とは見抜けなかった。

 ……どちらも一撃で仕留めてしまったので、そもそも俺にとってはもう強者とさえ認識されていないのかもしれない。


「まあ、私には分かったんですよ。とりあえず、次の階層に行きましょうか」

「了解」


 階段を見つけた俺たちは、特に問題なく迷宮を攻略していった。



 迷宮の最深部。現れたオーガがじろりとこちらを睨みつけてくる。

 この魔物たちは、迷宮によって生み出された存在だ。すべては、迷宮が俺たちを排除するために。

 だから、この世界では迷宮は生き物とされていて、意志をもち、明確に俺たち部外者を敵として見ている。

 こちらをじっと睨んできたオーガは笑みを浮かべる。


「たかが、人間二人でここにくるとは……いい度胸をしているな」


 ボスモンスターたちは、言葉を喋る。それがボスモンスターの意志なのか、迷宮の声を代弁しているのかは分からない。

 ただ、迷宮の声を代弁していたとしたら、少なくともこの発言は出ないはずだ。

 ここまで、俺とアレクシアはどちらも魔物を一方的に倒して進んできている。

 もしも、迷宮の代弁者なら、怯えた叫びをあげていたはずだ。


「男に興味はねぇな。さっさと殺して……女は……へへ、なかなかいい女じゃねぇか。楽しませてもらおうか」

「アレクシア、指名入ったぞ」

「それでは、魔法をプレゼントしましょうか」


 ダラダラと話している間に、アレクシアの魔法の準備が終わったようだ。

 ぶっ放されたのは光のレーザー。……レーザーというにはあまりにも規模の大きな一撃がオーガの全身を飲み込んで吹き飛ばした。


 もう、素材しか残っていない。

 ……聖女の中でもアレクシアの力はずば抜けている。


 たぶんだが、ゲームの使用キャラでもアレクシアはトップクラスだ。

 ドーピング込みなら、アレクシアくらい強くなれると思うが、ドーピングなしだったらアレクシアがダントツの一位だ。

 やっぱ、こいつラスボスだよ、絶対。


 アレクシアはふふんっと自信に溢れた様子で胸を張っている。


「人のこと化け物みたいに言っていたけど、お前も十分化け物だからな?」


 少なくとも、俺は大勢の敵を倒すようなスキルは持っていない。

 単体最強になるために、能力を強化していったからな。


「私が驚いていたのは、スチルの力ではなく、聖属性武器を持っていたことです。ほら、迷宮の心臓部に行きますよ」


 迷宮はボスモンスターを倒した奥の部屋に迷宮の心臓部と呼ばれる部屋がある。

 アレクシアに続いて中へと入ると、そこは小さな正方形の部屋となっている。

 中央には台座のようなものがあり、赤い魔石が浮かんでいる。


「やはり、結界が弱まっていますね。結界を張りなおしていますので、スチルはゆっくりしていてください」

「了解」

「だからといって一人だけパンを食べ始めるというのはずるいです。私にもください」


 俺がアイテムボックスからふわふわパンを取り出すと、アレクシアは両手を魔石に向けたまま口を大きく開けた。

 俺が一口サイズにちぎって運ぶと、ぱくりと食べて目を細めた。


「うん、美味しいです。こちらのパンはどこで購入したのですか?」

「俺の知り合いが運営している店だ」

「それは、素晴らしいですね。ぜひまた購入しておいてください」


 クラフィたちは、それぞれの得意分野を活かして色々と店を持っている。

 なので、暇があるときなどにパンをまとめて作ってもらって、こうしてアイテムボックスにしまっておいてある。


 パンだけではなく、米を使った料理も色々とある。

 おにぎりなどもアイテムボックスにいくつかしまったままだ。

 パンを一口食べると、アレクシアが一口要求してくる。

 とても幸せそうに食べるアレクシアの顔をみている分には、悪いきはしなかった。


 そんなペースで食事をしていると、結界魔法が完成したようだ。

 魔石に向けていた手を下ろしたアレクシアが、ふうと息を吐いて額を拭う。


「こんなところですね。これで、こちらの迷宮に出現する魔物の弱体化に成功しました」

「……まあ、それはいいんだけど。結界かけたら、色々と問題もあるだろ?」

「問題……ですか? 特に聞いたことはありませんが……何か知っているのですか?」


 え? そうなのか?

 ……ゲーム時代もこうやって結界をかけることはあった。

 ただ、結界をかけた迷宮はもらえる経験値はそのままなのだが、ドロップアイテムが弱くなる。


 だから、レベル上げをしたい場合はいいのだが、素材集めをする場合は結界をかけないのだが普通だった。


「いや……まあ、いっか」

「いやいや、気になるじゃないですか。教えてくださいよ」


 俺の腕を掴んでぶらぶらと振り回してくる彼女にため息を返す。

 子どもみたいに甘えてくるなこいつは……。


「別にそんなに大きな問題じゃないからな。ほら、次また仕事あるんだろ?」

「次はもう簡単ですよ。街に戻って結界の確認を行うだけですから。これに関してはすべての聖女の基本業務ですので、前の人がちゃんと見ているか次の人がみるから問題ありませんよ」

「そうやって皆考えて見逃す可能性はないのか?」

「大聖女を目指している人たちですよ? そんな適当な仕事はしませんよ」


 自分のことならまだしも、他の聖女たちのことで胸を張るんじゃない。

 アレクシアが言うように、聖女たちなら大丈夫なんだろうな。

 前の人が見てるから、ヨシ! とかそんなことにはならないんだろう。


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