第34話
仮面をずらし、バクバクと食事をかき込んでいくと、それだけで周りの視線が集まる。
「アレクシア。これ、この大皿ごと食べてもいいか?」
ペペロンチーノだろうか? 正式名称はおそらく違うのだろうが、それに似た味のパスタがあったため、俺は大変満足して食べまくっていた。
「ちょっと待ってください。あの、まだ準備してありますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「だそうですので、どうぞ自由に食べてください」
アレクシアが笑顔でそういってくれたので、俺はテーブルに乗っていた大皿を片手でもちあげ、食べ始めた。
すぐに新しい料理が運ばれてきているので、迷惑になることもないだろうが……それにしたって視線が集まるな。
これでも、食事の量はともかく、綺麗に食べているのだから文句を言われる筋合いはないと思うが。
そもそも、今日の俺は食事のために連れ出されているんだからな。
美味いものを腹一杯食べて何が悪いというのだろうか。
アレクシアはケーキなどのデザート類を皿にとって食べ始めていた。
それはそれで美味そうだ。ショートケーキやチョコレートケーキなど、色々なものがある。
平民だとたまのご褒美のときくらいにしか食えないような料理が並んでいるのだから、貴族のパーティーも悪くない。
フードロスに協力するということで、パーティーが終わった後だけ参加したいものだ。
俺も皿に食事をとっていくと、見慣れないケーキがあった。
見た目がどろりと崩れている。ショートケーキを落として崩れさせてしまいました、という感じの見た目だ。
誰か間違えてスライムの死体でも持ってきたんじゃないだろうな。
「アレクシア、これうまかったか?」
「美味しいですよ。食べてみますか?」
ちょうど今アレクシアが食べていたものがそうらしい。こちらに一口分を向けてきたので、食べてみる。
うん、美味いな。ゼリーっぽいケーキ、不思議な食感だ。
そんなやりとりをしていたからか、周りからはますます視線が集まってくる。
……男性陣の嫉妬まみれの視線。そんな中学生じゃないんだから、食べさせてもらったくらいで怒るんじゃねぇよ。
レクナが特に恨めしそうに俺を睨んでいやがる。
アレクシアの両親も、アレクシアに驚いたような視線を向けているのが気になるな。
「……おまえの両親なんかずっと驚いたような顔してないか?」
「してますね。面白いです。聖女として、完璧である私以外を両親はみたことありませんからね。たぶん、部屋でだらしない格好でゴロゴロしている姿なんてみたら、気絶すると思いますよ?」
「……なるほどな」
逆に言えば、それだけアレクシアは我慢してきたということか。
そして、俺を聖騎士にして、そのリミッターを解除した、と。
アレクシアはふっと遠くを見るような目とともに口を開いた。
「今の私は、たぶん皆の求めていた聖女から外れてしまったと思いますね」
「元の道に戻ったほうがいいんじゃないか?」
「あなたが自由にしたらいいって言ったんですよ? これはつまり、あなたの責任ですよ、スチル」
……いや、さすがにここまで自由にされるとは思っていなかったんだけどな。
まあでも、心の底から笑っているアレクシアは、少なくとも楽しそうだ。
まだまだ若いんだからこのくらい素直に生きてもいいとは思うんだけど。
それに俺を巻き込まないでくれないかね?
アレクシアたちがパーティーを終えてから数日が経過した。
――夜。闇に紛れ込むようにしてクラフィ、アリン、メロニーの三人は、発見していた魔族の後を追っていた。
そして、その魔族が周囲を警戒するように動き、懐から何かを取り出した瞬間――三人は地面を蹴った。
魔族も即座に反応したが、メロニーが右腕を切り落とし、アリンが左腕を切り落とす。
そして、クラフィがその首元に剣を突きつける。
「……あなたは、邪教集団の魔族ですね」
「……て、てめぇらは。ハイルをやりやがった奴らだな?」
「前にやった魔族ですか? 名前を覚えてはいませんが……そうかもしれませんね」
魔族の切られた腕がゆっくりと再生し始める。
魔族は額の魔石と心臓、その二つを破壊しない限り死なない。
魔力さえあれば無限に再生する力を持っている。
それを、スチルから教えられていたので、三人は特に驚くことはなかった。
なぜそれをスチルが知っているのかについても、疑問を持っていない。
三人はスチルのことが大好きで信頼している狂信者だからだ。
邪教集団が邪神を崇めるのだとすれば、クラフィたちはスチルを崇めている。
スチルが無防備に出しておいた服などが消失するのは、すべてこの三人の誰かしらが原因だ。
「よくも、俺の仲間たちをやりやがったな……っ!」
そう言って彼が動こうとしたところで、クラフィが剣を振り抜いた。
頭だけになった魔族だが、まだそれでも死なない。
クラフィは頭を掴みながら、じっと睨む。
「あなたたちからみて、私たち人間が敵であるように、私たちから見ればあなたは敵なんです。復讐心で動くのは結構ですが、狩られることも頭に入れておいてください」
正義と悪、というものはない、ともスチルからは聞いていた。
人間から見れば正義でも、魔族側から見れば人間は悪だ。
だから、戦う時は自分の信念に従った方がいい、と。
迷ったまま敵対すれば、命を落とすことになる、と。
それがスチルから教えられたことであり、クラフィたちは子供たちを人体実験に使う邪教集団のやり方が許せないため、こうして彼らにくみするものを狩っている。
「こんな、ガキの女どもに……」
「私たちが聞きたいことはただ一つです。邪教集団はこの街で何をしようとしているのですか?」
「はっ、そんなことを話すと思ったのか?」
「話さないのであれば、他の者に聞くだけですから――」
クラフィがそう言って額の魔石を破壊しようとした瞬間だった。
夜の街の中から、悲鳴が上がった。同時に、熱風が周囲を吹き抜ける。
「……これは」
「はっ! 始まったようだな! 何をするって? オレたち魔族が聖女を喰らって力をつけるために暴れるんだよ! 今日は大聖女もいねぇらしいからなぁ!?」
ケラケラと笑いながら叫んだ魔族の額の魔石を、クラフィは即座に破壊した。
心臓の部分はアリンとメロニーが破壊し、その魔族を仕留めたところで、クラフィはすぐに指示を飛ばす。
「街の様子を確認します。皆で別れましょう」
「……スチル様への報告は?」
「いえ……街での騒ぎとなれば教会にも伝わるはずです。今は被害者を減らすために動きましょう」
「分かった」
「それでは、わたくしは南エリアにむかいますわね」
メロニーの言葉に頷き、三人は別々に別れて行動を開始した。
―――――――――――
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