第35話




 クラフィたちが魔族と戦っていた時。

 巡回を務めていた兵士たちが、怪しい男の姿をみつけていた。


「お、おまえ……そこで何をしている!?」

「んあ?」


 騎士の声に反応して顔をあげる。

 口からはだらりと血が垂れ、こちらを見る両目には狂気でそめられていた。

 その頭からは立派なツノがあり、背中には翼があった。

 額には一つの魔石があり、その特徴的な見た目に、騎士たちが悲鳴をあげた。


「お、おまえは……っ」

「ま、まさか……魔族……!!」

「……見られたんじゃ、仕方ないな」


 魔族はぽつりと呟き、それから笑顔を浮かべる。

 騎士たちは恐怖しながらも、すぐに迎え撃つために剣の柄を握る。

 だが、その剣が鞘から抜かれることはなかった。


 猫背気味の魔族が地面を蹴ると、一瞬でその姿が消えた。

 そして、その両腕が振り抜かれる。ぶんっと風を切る音が響いた時だった。

 今まさに剣を抜こうとしていた騎士二名の首が吹き飛んだ。

 驚いたように見開かれた両者の首が地面へと落ちると、体が後を追うように崩れていく。


 それから、魔族は笑みを浮かべて転がっていた騎士たちの死体を食べ始める。

 人間は魔物の肉を食べることで強くなる。魔族は、その逆。

 人間を食べることで、強くなる。


 食事を楽しんでいた魔族の耳に、いくつもの悲鳴が聞こえ、口元を緩める。

 別の場所でも、悲鳴が上がり、魔族は視線を向けた。


「……おっ、やっと始まったか。早くしねぇと、メインディッシュの聖女どもが奪われちまうな」


 笑みを浮かべた魔族は、それからもっていた魔石を地面に落とし、踏みつける。

 その瞬間、足元に魔法陣が広がり、そこから魔物たちが生み出される。

 魔物たちは咆哮をあげると同時、周囲の建物を破壊しながら、新たな悲鳴を生み出しに街へと消えていった。



「起きてください!」


 ゆさゆさと体を揺さぶられ、俺は軽く伸びをする。

 眠りについてからまたあまり時間は経っていないと思うが、目覚めは悪くない。いい感じに眠れたのかもしれない。


「ん? もう朝か? あれ? 暗いな」

「……朝ではありません。外が騒がしいです」

「おっ、祭りか?」

「お祭り、でしたらよかったのですが。すぐに着替えてください。出撃の必要があるかもしれません」


 だろうな。外が騒がしい。

 アレクシアはすでに着替えを終えていて、俺は外套を羽織り、仮面を身につける。


「何があったんだ?」

「魔族が、出現したそうでそれはもう大パニックですよ。それに合わせて、街中に魔物も召喚されてしまったようです」

「街の結界は……内側からは弱かったなそういえば」

「ええ。重要な拠点にも結界は張られていますので、すぐに何かあるということはないと思いますが……」


 魔族、か。

 ということは邪教集団の連中だろうか?

 俺たちが部屋の外に出ると、怯えた様子のグランドが姿を見せた。


「あ、アレクシア様! スチル様! 大変です! すぐに講堂に集まってください!」

「分かりました」


 グランドに頷き、俺たちはすぐに講堂へと向かう。

 ……慌ただしいな。

 ちらと視線を外の方に向けると、避難してきたと思われる街の人たちの姿も見られた。


 教会は大聖女が張った結界がある。だから、緊急時の避難先として使われている。

 移動しながら、グランドが状況の説明を行ってくれる。


「魔族たちが召喚した魔物と、恐らくそれに付き従っていると思われる邪教集団の者たちも街で暴れてるみたいなんです……」

「魔族と魔物、か。結構いるのか?」

「かなりの数です……騎士団の方で対応に動いていますが、遠征などで人手も足りてなくて……教会騎士も戦いに向かわないといけない状況です」

「……なるほどな」

「……それでは、僕はこれから仲間たちと合流して避難誘導に当たります。気をつけてください」

「ああ、そっちも気をつけてくれな」


 グランドはこくりと頷いてから、駆け足で去っていった。

 ……こういう時に、平民は優先して危険な場所に駆り出されるんだよな。

 何もなければいいんだが、少し心配ではある。


「俺たちも街に向かうのか?」

「恐らくはそうなるかと、思います。講堂に行けば、大司教が指示を出してくれるはずですので、急ぎましょう」


 街にどれだけ魔物がいるのか分からないが、大きな被害にならなければいいのだが。

 講堂へと到着すると、同じように聖女や教会騎士たちも集まっている。

 俺たちが入ってからもゾロゾロとやってくる。あちこちで聖女や教会騎士たちの心配する声が聞こえてくる。

 そして、こちらに気づいてやってきたのは避難民と思われる貴族たちだ。

 皆、落ち着き払った雰囲気だ。


「おお……ブルーナル家の聖女様……っ」

「お久しぶりです。こうして出会えて光栄です」


 ここは、貴族の姿が多いな。

 特に重要な人物が、ここに集められているのかもしれない。

 教会騎士、聖女も集められているため、ここの防御はかなりのものだしな。

 貴族たちは、パーティー会場での雰囲気とあまり変わらない。

 …………平和ボケ、してんだな。



―――――――――――

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