第33話



「本当ですか?」

「ああ、本当だ。そういうお前はないのか?」

「……私も、ないですね。いえ……正確に言えば、あの時は……」


 アレクシアはカーテンの奥に顔を引っ込め、再びぶつぶつと何かを言っていた。

 それから、しばらくして、着替えを終えたドレス姿のアレクシアが姿を見せた。

 ふっと、ポニーテールをかきあげるようにして、アレクシアが微笑を浮かべた。


「どうでしょうか? 似合いますか?」

「ああ、似合ってる。そんじゃあ、あとは飯を食って終わりだな」

「一応、顔合わせになりますので、その点は忘れないでください」


 アレクシアが笑顔とともに俺の隣に並ぶ。

 部屋の外に出ると、どうやら警備していたと思われる近衛兵の一人がこちらに頭を下げてきた。

 ……視線が鋭いんだけど。


「アレクシアさん」

「なんですか、そんな改まって」

「俺、教会騎士だけじゃなくて、屋敷にも敵作ってない?」

「安心してください。あれくらいやっておけば必要以上に向こうも干渉してくることはないでしょうから」

「俺の疑問への返答になってないぞ? 俺の敵が増えたことにかわりはないよね?」

「これでもう、しばらく家の集まりに呼ばれることもないでしょう。ありがとうございます」


 強引に話をまとめやがって。

 それから俺たちはパーティーが始まるまで、用意してもらった部屋で時間を潰していった。



 しばらくして、パーティー開始の時間となった。

 俺とアレクシアは並ぶようにして会場へと向かって歩いていく。

 新鮮な感覚である。俺とアレクシアに気づいた貴族たちは、すぐに慌てた様子で頭を下げてくる。

 ……それと同時に向けられるのは、俺に対して伺うような視線。


「あいつは一体何者なんだ……という目が多いですね」

「そりゃあ俺だって逆の立場なら同じように考えてただろうしな」

「本当ですか? 今だって食事にしか興味なさそうに見えますけど」


 アレクシアがからかうように見てきたので、俺は並べられていた食事から視線を逸らした。

 アレクシアはくすくすと微笑みながら、周りの貴族たちに挨拶をしていく。


「お久しぶりです、レートンさん」

「こ、これはこれは……聖女様。お久しぶりです。本日は聖騎士の方が決まったということで、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 レートンという男性は視線をこちらへ向けてきたが、俺は仮面の奥からじっと視線を向けるだけで特に返事はしなかった。

 ここまできて問題起こしてあそこに並ぶ飯にありつけなかったら困るからな。


 俺が口を開いたら問題発生することは自覚しているからな。

 そんな感じでアレクシアと挨拶をして回っていく。といっても、アレクシアがメインで話をし、俺は視線を向けるくらいで一言も発さない。

 これはラクでいい。ラクではいいのだが、時々腕を組んできて変なアピールを挟むのはやめてほしい。


「腕組んでくる時があるが、あれは何か意味あるのか?」

「私に縁談の申し込みをしてきたことがある人に向けて行っていますね」

「それで俺が睨まれるの理不尽じゃね?」

「それは、仕方ありませんね」


 仕方なくないからな? ほんと、仮面つけておいてよかったぜ。

 そんなことを呑気に話しているときだった。


「せ、聖女様……お久しぶりです」


 ……見慣れた顔の男が姿を見せた。

 おお、お兄ちゃんではないか。レクナが引き攣ったような笑みを浮かべた後、頭を下げてくる。

 元父と元母も元気そうで、大きなお腹を揺らしている。


「あら、お久しぶりですね。……本日は、スチルさんはいないのですね」


 分かってて言ったよな? 意地の悪いやつ。


「え? はい。彼は18歳になりまして、自分のやりたいことがあるということで家を出ていってしまったんです。……家族として、彼については応援していますよ」


 レクナは一瞬不満そうな表情を浮かべた。……たぶん、レクナの顔を見て真っ先に取り上げられた話題が俺のことだったからだろう。


「そうですか。そういえば、彼は教会騎士になりたいということで、今は教会で仕事をしていましたね」

「……そ、そうなのですか?」

「はい。今は私のもとで仕事をしてもらっているので、頑張ってほしいですね」


 おいこら。何捏造してんだ?

 まあ、事実も混ざってはいるんだが、そんな熱心な姿勢を見せたことはないからな。

 アレクシアが照れたような演技をして見せると、レクナが驚いたような悔しそうな表情を浮かべている。

 しかし、彼はすぐに表情を引き締め直すと、笑顔を浮かべた。


「聖女様! オレも、あなたの聖騎士を目指して学園で頑張っています! 卒業した暁には、教会騎士になって――」

「あっ、そうなんですね。私はもう聖騎士を決めてしまっていますので、誰か、他の聖女の方に気に入られるといいですね」


 にこり、と微笑みアレクシアが俺の腕を掴んで歩いていく。

 後ろを見ると、レクナがへなへなと崩れ落ち、それから悔しそうに俺を睨んでくる。


「アレクシア、アレクシア」

「なんですか?」

「なんでアレクシアが何かするたび、憎まれるのは俺になるんだ?」

「日頃の行いでしょうかね?」


 んなわけあるかボケ。

 そんなこんなで一通り皆に挨拶をしていった。




―――――――――――

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