第13話
……まあ、そこらの教会騎士が束になってもアリンには勝てないからな。仕方ない。
「そういうわけだから、今期待のアレクシア様も狙われる可能性はある。何かあるかもしれないから気をつけて」
「了解だ。そっちも、まあなんか色々やってるみたいだけど気をつけてな」
「もちろん」
「力が必要なときは言ってくれ。手を貸すから」
「……うん、ありがと」
すっと体を寄せてきたので、頭を撫でてやると満足そうにアリンは姿を消した。
……あいつも、そろそろ俺離れをしてほしいものだ。皆、困っているところを助けてあげたからか、俺に懐きすぎてるんだよな。
そろそろ、それぞれの人生を歩んでほしいものだ。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
アレクシアだ。聖女の服の上からパーカーのような大きな服を身につけ、ポニーテールに髪を結んでいる。
「お待たせしました。それでは、食事に行きましょうか」
「了解だ」
「そういえば、仮面をつけたままで食事はどうしますか?」
「ちょっとずらして食べる」
「そこは、ちゃんと食べるんですね」
当たり前だ。うまいもんを食べるために俺は生きてるんだからな。
そんな話をしながら、俺たちは食堂へと向かった。
食堂には他の聖女や教会騎士もいたため、めちゃくちゃ視線を集める形にはなったが、無事食べられた。
俺たちは朝礼に参加するため、祈りの部屋へと向かう。
俺とアレクシアが到着すると、聖女たちの視線が一斉にこちらへと向いた。
……数は結構いる。これが、現在の現役聖女様たちだ。
出張などでここにはいない人たちもいるそうだが、それでも結構な数だ。
聖女たちは……皆能力がありそうだな。
対面してみると、ある程度能力というのはわかるものだ。
……確実に、カイン時代の聖女たちよりも強いな。
ただ、それでもアレクシアが数歩抜けているのも確かだ。
さすがラスボス聖女様。
アレクシアは自分のことを優秀、とは言っていたが自己評価が高いとかそういうわけではないようだ。
彼女らは、友でありライバル、って感じか。皆、大聖女の座を目指し、頑張っているのだろう。
皆の視線は、アレクシアに向けられたあと……俺へと移る。
部屋の奥には女神像があり、大聖女もその近くにいて、視線があうとやほー、と言った様子で片手をあげる。
相変わらず、適当な人だ。
聖女たちは列を作っていたのだが、聖騎士たちは周囲の壁際に移動している。
アクリルの姿もそこにはあったので、おっすー、と俺が片手をあげると向こうはふんっとそっぽを向いた。
「よっ、久しぶり」
「……」
「おっ、耳くそでも詰まってるのか? どれどれ……」
「み、耳を触ろうとするな! 無視してるの、わからないのか?」
「えっ……無視していたのか……。そうか……せっかく知り合いがいたから……」
「あっ、いや……その……そ、そこまで落ち込まなくても……すまない。昨日の今日で……少し苛立っていて……」
「あっ、演技だから気にすんな」
「こ、こいつ……!」
アクリルがわなわなと震え出したので、俺はすっと彼の隣に並ぶ。
他の聖騎士や教会騎士たちが睨んできたため、俺もアクリルも口を閉ざすと、すぐに祈りが始まった。
女神像の前に並んだ聖女たちが両手を合わせて祈りを捧げている。
毎朝、これをやっているそうだ。……俺の時代もそういえばやっていたなぁ。
面倒臭い、としか思っていなかったものだ。
「アクリル、ここにいる聖女は皆、聖騎士をつけているのか?」
小さな声で問いかけると、アクリルはじとりと睨んできたが……それでも押さえた声で返してきた。
「聖女様と呼べ。まだほとんどの聖女様は決めかねている状況だ」
「じゃあ、今隣に並んでいるこの人たちはなんなんだ?」
「私たち教会騎士が、持ち回りで聖女様の護衛を行っているところだ。場合によっては、その中から聖騎士に任命される者もいるがな」
「なるほどな。アクリルは大聖女の聖騎士なのか?」
「大聖女様は、数名で護衛を行っている。専属の者はいない」
だいたい、俺の時代とシステム的には同じだな。
大聖女だけは、ちょっと特別なんだな。
まあ、俺の時代の聖女たちは、教会の基本方針で仕事を行ってはいたがまとまりがなかった。
そして、時代は進み、邪教集団が現れたことでより聖女を組織的にまとめる立場の者が必要になったとかで、大聖女という役割ができた、というのは歴史で学んだ。
祈りを捧げ終わったところで、そろそろ部屋に戻れるか……とか考えていると、大聖女がちょいちょいと手招きしてくる。
「呼んでるぞアクリル」
「おまえだおまえ。一応、聖騎士になったんだ。皆に一度紹介するつもりなんだろう。行ってこい」
えー、面倒臭いな……。
とん、と背中を叩かれたので、仕方なく大聖女の隣に歩いて行く。
大聖女はこちらを見てから、にこりと微笑み、聖女たちに向けて口を開いた。
「聖女アレクシアが、聖騎士を決めたわ。軽く自己紹介をしてあげて」
「了解」
俺がそう返事をすると、大聖女の周囲にいた教会騎士たちがむっとした表情になる。
大聖女に、敬語を使わなかったことが気に食わなかったようだ。
教会騎士の多くは、貴族だからな。
俺のお兄ちゃんこと、レクナも教会騎士になるために学園に通い、今年卒業したら正式に教会騎士になるとかなんとか。
教会騎士になるにはいくつかのルートがあるが、貴族たちの多くは確実になれる学園卒業からのルートを使っていることが多い。
家の跡継ぎに関しても色々とあるのだが、少なくとも両親が生きている間は聖騎士を目指して挑戦する貴族というのも少なくないのがこの世界だ。
それだけ、聖騎士という立場は貴族たちにとっても自慢できるものなんだよな。
例えば、仮にレクナが教会騎士となり、聖騎士に任命されたとしよう。
それからすぐに家を継ぐ必要になったときなど、場合によっては聖女が聖女をやめ、レクナの妻になることもある。
そうすれば、元聖女と元聖騎士の夫婦だ。これが、貴族にとってはかなり強みとなる。
「スチルベルトだ。親しい人間はスチルって呼んでる。よろしく」
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