第20話
「頑張ってたんだな」
「はい。……ずっと、ずっと頑張っていたんです。褒めてください」
「……はいはい」
彼女の頭を撫でてやると、アレクシアは少しだけ不機嫌そうな様子を引っ込めた。
「……褒めてもらっていたときは嬉しかったですからね。でも、褒めてもらったあとに、自分の努力が誉められているのではなく、才能を誉められていると分かってからは……段々とやる気も下がっていってしまいましたけど」
不満そうにアレクシアは言った。
難しい問題だよな。
努力できる才能があるのも才能とか、才能があるから努力ができた、とか。
本当に才能ないやつにはどうしようもない……というのはよく話題になる。
努力するには、環境などを含めたすべてが恵まれていなければできない……とか。
いやいや、環境悪くても努力して夢を叶えたこともあるよ? とか。
いやいや、それ含めて努力できる最低限の環境と運、才能があっただけ……と、堂々巡りのような議論がされることもある。
結局のところ、どれが正しいかは分からない。
ただ、努力して頑張って、苦手だったことができるようになったアレクシアにとっては、すべて、聖女としての才能があったから、で片付けられたら面白くないだろう。
それを言われたのが何歳の頃かは分からないが、アレクシアが他の聖女に比べ、達観してしまっている部分があるのはそういうことだろう。
「あなたは……強くなっている間にそういうことはなかったですか? 努力を才能として片付けられるとか……」
俺の太ももに顔を向けていたアレクシアが、振り返って見上げてくる。
俺の力に、才能は感じているのかもしれないが、俺が強くなるまでの過程をアレクシアは考えて発言している。
……まあ、俺も死ぬほど努力したからな。ステータスアップ木の実は能力が成長しやすいが、まずい。それを毎日毎日、吐きそうになりながら食いまくった。
ゲームと違って、食べるだけでは成長しないので、食べた後は必ず魔物と戦う必要がある。
特に防御力を強化するのが面倒だった。敵に攻撃される必要があったからな……。
「俺の実力を知っているのはアレクシアくらいだからなぁ」
表向きは。
そういうと、アレクシアは少し嬉しそうにしていた。
「……そうでしたね。逆にその状態でどうしてそこまで強さを求められたのですか?」
どうして、か。
強くなりたいと思う理由は色々とあるだろう。アレクシアのように、誰かに褒められるのが嬉しかったから……とか。
俺の場合は……ゲーマー、だったから、かな。ただ、そのまま伝えても分からないだろう。
分かりやすいように言い直すとしたら……、
「……他者の評価に依存していないからな。俺には俺のやりたいことがあって、そのために力をつけただけだ」
ゲームの時みたいにアイテムコレクターをしたり、魔物図鑑を埋めて行ったり……。
いわゆるトロフィーコンプリート的な楽しみ方をしていた。
他者からしたら、まったく評価されないようなことをやりこんでいくのはゲーマーにはあるあるだ。
「つまり……私は他者の評価に依存している、ということですか?」
「そう言った部分はあるのかもな。まあ、人間だし多少は仕方ないっちゃ仕方ないと思うんだけど」
俺だってまったくそれを気にしないわけではない。
誉められれば嬉しいし、バカにされればムカつく。
ただ、他の人より俺はそのあたりが鈍いほうだと思う。
俺の言葉に、アレクシアは考えるように顎に手をやる。
「……そうですね。確かに、あまり意識してはいませんでしたが……そう言った部分もありますね」
「まあ、聖女として頑張るかはともかく、この力の使い道について、自分なりの答えを出せば周りの目も気にならなくなるんじゃないか?」
「自分なりの答え、ですか?」
「ああ。例えば、周りに褒めてもらうために聖女の力を鍛える、だと褒めてもらえなかったときとか、思っていたのと違う反応だったときに苦しいだろ」
「はい」
こくん、とアレクシアは可愛らしく頷く。
「だから、努力する理由を自分に求めればいいんだよ」
「自分にですか?」
「そうだ。例えば、強くなったら今日みたいに休憩できる時間が増える、とかな。そうやって、自分にとって都合いいようなことなら別に周りなんて関係なく努力できるし、楽しんでやっていけるんじゃないか?」
「……なるほど。確かに……それはそうですね」
強くなってくれれば、俺の仕事も減るしな。下手をすれば何もしないで一日休んでいてもいいかもしれない。
それで金が入ってくるのなら、俺はいくらでも聖騎士を続けてあげようじゃないか。
少しアレクシアも考え方が変わったのか、満足そうにしていたのだが、ふと何かを思い出したかのように呟いた。
「ああ、あと。私が努力して得た立場に擦り寄ってくる人たちも気に入らないんですよね」
「おっ? ということは俺も擦り寄れば、もしかして解雇とかありえるか?」
「私より強いですから、擦り寄ってくれるなら大歓迎しますが? むしろ、私が擦り寄りましょうか?」
アレクシアが俺の太ももに頬擦りをしてからにこりと微笑む。
「ま、そういう奴らはどこにでもいるし聖女を辞めるしかないな」
「聖女を辞める……ですか。それは考えたことありませんでしたね」
「聖女と違って自分一人で稼ぐ必要もでるから大変っちゃ大変だな。それとも、家に戻ればどうにかなるのか?」
「理由があって聖女を辞めるならともかく、ただ寄生するためだけに家に戻ることはできないと思いますね。たぶん、縁談の話が振られるとおもいますよ。今でも、多いですし」
あまりそういうのも好きじゃないようで、アレクシアは嫌そうな顔を作った。
「働くの嫌なんで家に帰りましたってのはダメなのか?」
「難しいですね。大怪我でもしない限りはダメだと思います。それに、私。両親苦手だし、姉妹たちからは嫌われているしであまり家に戻りたくないんですよね」
「仲良くないのか? 家族なんだから仲良くしないとダメだぞ?」
「スチルよりは、まだ仲は良いほうだと思いますよ?」
……確かにそれはそうだな。もうすでに俺に家族はいないので、仲いいもクソもないが。
「仲悪いって、なんでだ?」
「私が……完璧超人だからでしょうか」
ドヤ顔で言ってきたアレクシアに、ため息を返す。
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