第31話

 さすがにここまでやっておけばもう今後もお呼ばれすることはないだろう。

 なんならこのまま帰れと言われるかもしれない。だったら、飯だけもらって帰ろう。

 貴族たちのパーティーなんてどうせ作りすぎで余るんだし。


「……」


 苛立った様子のアレクシア父は黙っていたのだが、代わりに口を開いたのはアレクシア母だ。


「アレクシア……あなたは完璧な聖女でなくてはいけません。それはもちろん、あなただけではなく周りの人たちもです。周り含めて、あなたは評価されるんですから」


 アレクシアを責めるような母の言葉に、俺はすかさず反論する。


「それならまずは二人もアレクシアに並ぶくらい自己管理を徹底したらどうだ? アレクシアの両親、って言われないと分からない見た目だぞ?」

「…………なんですって?」

「アレクシアの周りの人たちにも完璧を求めるのであれば、お二方の見た目はあまりふさわしくないと思ったんだが……どうだ?」

「……」


 アレクシア母もイライラとしてきたようだ。アレクシア父なんて今にもつかみかかってきそうな様子だ。

 そろそろ、解散で良いのではないだろうか? そう思っていると、アレクシアが毅然と口を開いた。


「実力は本物です。聖騎士の仕事は、聖女を守ることです。ですから、実力があれば問題はないはずです」

「実力があっても、これだけ品性にかけるのでは話になりません。あなたは、次の大聖女になり、この家の発展のために尽くさなければなりません。その隣に並ぶものがこれでは、他の貴族たちへ示しがつきません」


 アレクシア母の言葉にアレクシア父も頷きながら続ける。


「……アレクシア。悪いことは言わない。彼はすぐに変えた方がいい」


 俺もアレクシア父に続き、とんとアレクシアの肩を叩く。


「……アレクシア。残念だ! 今日限りでお別れだな!」

「帰らせませんよ?」


 俺が背中を向けて歩き出すと、がしっと腕を掴まれる。

 ……どさくさに紛れて教会に帰ろうとしたが、そういうわけにはいかないようだ。

 アレクシアはぎゅっと俺の腕を掴んだが、彼女はいつもよりもその表情に余裕は感じられない。


「お父様。お言葉ですが……それはできません」

「……な、なぜだ? どうしてしまったんだ、アレクシア」

「……アレクシア? いい子だったあなたが私たちの言うことを聞けないのですか?」


 いい子だったアレクシア、か。


 そういえばアレクシアは家族に逆らうようなことを今までして来なかったんだよな。


 家族が望むアレクシアを演じてきたそれを、破ってでも今日は自分の気持ちを伝えにきたのだろう、

 ……だから、少し俺を掴む手が震えているのかもしれない。

 自由にやれ、と言ったのは……俺だったな。


「彼を……手放したいとは思いません」

「なぜだ……っ! アレクシア!」

「なぜ、なぜ……! まさか、その男に操られているのですか!?」

「そうだ。そうに違いない!」

「違います」


 アレクシアは毅然と言い切ってから、ゆっくりと口を開いた。


「見ず知らずの人が、困っていて……自分に何の利益もなく、助けに動く人がどれだけいるでしょうか?」

「……何の話をしているんだ?」

「私は……見ず知らずの人と思っても、助けるかどうかは……わかりません。私が、正しい行いをするのは、聖女としての利益があるときだけです」


 アレクシアがそう話をすると、アレクシア父と母は困惑した様子で顔を見合わせる。

 一体何の話をしているのか、という様子だ。

 しかし、アレクシアは変わらず、話を続ける。


「そんな私の考え方は、あまり褒められることではないでしょう。酷い人間だと叱責する人もいると思いますがそれが、私です」

「……何が言いたいんだ?」

「私は街で強盗にあった人がいたとしても、すぐに動ける人間ではありません。真っ先に考えたのが、聖女として助けた後の効果、でしたから」

「それが……なんだというんだ?」

「私の聖騎士は、見返りを考えずに動ける人です。口では色々言っても、困っている人を助けてくれる人です。……彼は、なんだかんだいって聖騎士としてふさわしいと思いますよ。だから、異論は受け付けません」


 はっきりと言い切ったアレクシアの迫力に、アレクシア父も驚いたようで少し怯んでいる。

 しかし、彼はすぐに首を横に振ってから、こちらを見てきた。


「だとしても……我が家には格がある」

「……そうです。アレクシア、品性がなければどれだけ実力があっても無価値なんです」

「……無価値、ですか? ……では今ここで殺し合いをしてみるのはいかがですか?」


 笑顔とともにアレクシアがはっきりと言い切る。


「今ここにいるあなたたちのいう、品性な近衛兵たちと私の聖騎士。どちらが強いか、試してみますか?」

「なに? アレクシア、それ失敗したら俺クビってことか!? わくわく!」

「失敗したら、一生奴隷にしますからね」


 アレクシアがにこりといって、どこからともなく奴隷の首輪を取り出す。

 こいつ……! なんて恐ろしいものを持ち歩いているんだ!


 まあ、街中で犯罪者を捕らえたときなどに一時的に無力化させるために使う道具なのだが、休日にまで持ち歩く必要はない。

 アレクシアの挑発ととも取れる言葉に反応したのは、アレクシア父ではなく品性ある近衛兵たちだ。

 近衛兵たちは、顔を見合わせたあと小馬鹿にしたように笑いだす。


「……お言葉ですが、アレクシア様。我々は、教会騎士たちとは比べ物にならない実戦での戦闘経験を積んでいますよ? 申し訳ありませんが、そちらの聖騎士では恐らく我々の足元にも及ばないと思いますよ……?」


 そういえば、教会騎士とその他の兵や騎士団の人たちってあんまり仲良くないんだったな。

 どっちも実力的にはさして変わらないと思うのだが、お互い自分たちの方が優れている、として相手を見下す傾向が強い。


「んじゃあ、俺がこの品性な近衛兵たちをボコボコにしたら、アレクシアは今後家の命令を受けないってことでいいのか?」


 ……アレクシアは、自由になりたがっているようだからな。



―――――――――――

新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


俺の召喚魔法がおかしい 〜雑魚すぎると追放された召喚魔法使いの俺は、現代兵器を召喚して無双する〜


https://kakuyomu.jp/works/16818093077039422848

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