第19話

そう言い放った俺に黒宮は怒りとも困惑とも異なる複雑な表情をしている。彼女の気持ちは何となくなら理解できる。自分の辛い現状をそんな話と一蹴した奴が訳の分からないことを言い出したんだ。きっと彼女の心情は怒り、困惑、それも勿論存在していてそれに加えて落胆。自分が師匠と仰いでいた人物が突拍子もない事を言い出したんだから無理もない。希望を持たせるつもりだったんだけどな・・・


「そんなの・・・出来るわけ無いじゃないですか」

「出来る!黒宮、守護霊について知ってることを話してみてくれ」

「何故今のタイミングで?」

「勿論、関係あるからだ」

「分かりました・・・」


黒宮は得心がいっていないようだが、渋々と話し始めた。


「陰陽師の守護霊は一般的な守護霊とは異なります。一般的な守護霊は一個人に取り憑きますが、私達陰陽師の守護霊は対象がその一族全員で、契約という形で力を貸してもらうというものです。始まりの陰陽師達がその霊と契約して守護霊になり、契約者が死ぬとその一族の中で次代の契約者が選ばれます。そして契約者に選ばれた者は当主の地位が与えられます」


うん、俺の知っている情報と差異はないな。


「当主と成った者は体内に守護霊の本霊を宿します。勿論守護霊は霊体ですので体に悪影響はありません。これが当主の霊力が高い理由です。自分自身の霊力に加え体に守護霊が入っているので当たり前ですね。当主以外には分霊と呼ばれる守護霊の分身を入れ込みます。当主よりはどうしても霊力は低くなります」

「そこだよ、そこ」

「そこ、とは?」

「当主の体内に守護霊の本体が居るって話。もしもどこかから召還するとかだったら難しいけど、体内に居るなら引っ張り出せない理由はない」

「そんな無茶苦茶な・・・」


全く信じてないな。まあ無茶苦茶言ってるは自分でも分かってる。今のところ精神論しか話して無いしな。


「もう一つ、分霊の話。黒宮の話だと分霊は元は本霊の一部だった。つまり力の同調は起こしやすい。違うか?」

「確かに分家の方々は霊力を一つに集めて門を開いたり妖怪を滅したりすることもありますが」

「だとしたら答えは単純だ。俺とお前の霊力を合わせて、それを俺がコントロールして引きずり出す」

「そう簡単にいくでしょうか・・・」

「とりあえずやってみようぜ」

「まぁ・・・はい」


黒宮はまだ納得いってないようだった。でもそれも当たり前の話で今までそんなことができた事例も無いんだ。陰陽師側は勿論退魔士側にも無い。だがやっていなかっただけで理論上はできるはずなんだ。成功率は高くて20%あるかないかだ。まあその位かなぁ?っていう勘だけども。


「行くぞ、霊力を合わせろ!」


黒宮の肩に左手を置いて霊力の同調を図る。左手なのは同調する時に義手だと義手の機構のまた別の霊力も混じり難易度が爆上がりするからだ。触れることで同調させやすくなるので肩に触れているが、黒宮が男だったら心臓付近の胸に触れていただろう。人間の霊力源は人間の中心線、鳩尾の上の心臓の辺りにあるからな。


「んっ!!」


黒宮から霊力が溢れ出す。流石当主だ。霊力の総量と出力が桁違いだな。だが本来なら本人の元へ集まるはずの霊力は空中に漂ったままだ。やっぱまだ制御が甘いようだ。これじゃあ守護霊も出せないし、戦闘も苦手な筈だよ。俺は黒宮の放つ莫大な霊力を肩に手を置いている左手に集めていく。本来、他者と霊力の同調なんてそう簡単なものではないが、どうやら俺と黒宮の霊力相性はバッチリなようだ。左手にみるみる力が集まってくる。


「その位でOKだ」


というより、これ以上やるとキャパシティを越えて俺の左手が弾け飛んでしまう。黒宮の顔を見ると疲労の色も見えないどころか汗ひとつかいてない。今のだけでも俺の倍以上の霊力を使ったってのに・・・改めて当主の人外っぷりに驚かされる。



霊力を受け取った俺は霊力同調して互いの霊力を合わせる。本来は鬼門のここをクリアしたら後は楽勝。霊力の融合を行うことで黒宮の霊力でありながら俺の霊力でもある同調霊力に変化する。これは黒宮が説明していた通り霊力の弱い者達が団結して使う術と同じだ。今や俺と黒宮のどちらでもコントロールできるこの霊力を用いて、黒宮の体内の守護霊を引っ張りだすんだ。


肩に置いた左手から黒宮の体へ流れる霊力が黒宮の中に潜む守護霊を探し出す。まあ、基本的に霊力源にいるはずなんだが・・・というか何かこれ医療行為っぽいな。胃カメラとか腸カメラとか。そんな事を思っていたら見つけた。やはり霊力源にいた。


「いたぞ・・・!お前には言わなきゃいけない事があるんだ!!とっとと出てこい!!」


口約通りに守護霊を引きずり出そうとするが、ひょいっと躱された。


イラッ


今の俺は黒宮の肩に手を置いて目を瞑っている。それは霊力の同調と操作に集中したいからだが、目を瞑っていても黒宮の体は見える。霊力によって辛うじて分かるレベルでだが。その中でも一際目立つのは霊力源だ。霊力の塊なのだから当たり前の話だが。黒宮の場合は少し違っていて、さらに存在感を持つものがあった。守護霊だ。俺はそんな守護霊と格闘していた。くそっ!逃げるな!!このっ!このっ・・・よし!!UFOキャッチャーや金魚すくいみたいに逃げる守護霊をようやく捕まえた。


「黒宮!準備はいいな!?」


黒宮は少し緊張しながらも頷く。黒宮は守護霊を出せずまともな成果を上げられなかった。そのせいでジジイとババアに・・・でもそんなのはもう終わりだ。


「イメージしろ!!自分が守護霊を呼び出してる姿を!そして呼べ!守護霊の名を!」

「おいでくださいませ!!!大鴉」















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