第2話
市役所から徒歩10分、築10年程度、2階建て一軒家、これが今の俺の家だ。なるべく市役所の近くがいいといったら3日前、この街に帰ってきた時には俺の持ち家になっていた。一体どういうことだ。全く分からない。住めるなら何だっていいが流石におかしいの位俺にも分かる。しかし気にしたら負けだ。何せ上は何も教えてはくれないのだから。
家の鍵を開けて家に入る。ただいま、とつい反射的に出た言葉が、無人の暗い家に寂しく響き渡る。我ながら学習しないな。ここは京都じゃない。あいつはいないんだ。靴を脱ぎ、揃えてから廊下を歩く。突き当たりを左がキッチンだ。キッチンの冷蔵庫から水のペットボトルを取り、キッチンと繋がっているリビングのソファにどっかりと倒れこむ。水を飲み一息ついたところで携帯を確認する。見ると着信が一件あった。ダメだな。こまめに確認するのを頭に刷り込まないと。
携帯には14時10分に着信があったと通知されている。ちょうど松崎先生のところに行っていた時間だ。あそこは電波の入りが悪いからな。着信相手をの名前を見てすぐさま折り返し電話を掛ける。数コールで繋がった。
『遅い!電話したらすぐでんか!』
「悪い悪い。ちょっと電波の悪い所にいたから気付かなかった」
『顔が見たい。ビデオ通話にせい』
「はいよ」
携帯を操作してビデオ通話の画面にする。数秒して相手の顔が写し出される。子供にしか見えない幼い顔つき。肩よりも少し長い黒髪は画面に入りきっていない。
『顔色が悪いの。お主ちゃんと飯は食っておるか?カップ麺とかコンビニ弁当ばかり食べてるんじゃあるまいの?』
「実家の母ちゃんか。別に腹に入れば何だっていいんだよ」
『まったく、すぐそうやって面倒くさがりおって・・・』
「そんなに言うならまた作ってくれよ」
まあ到底無理だろう。彼女は京都にいるのだから。
『分かった。楽しみに待っておれ!』
「はあ?」
『わらわもそっちに行く。転勤って奴じゃ』
「そんな簡単に出来ないだろ」
『わらわなら許されるのじゃ!あっ』
『失礼します。少しご報告が・・・何を遊んでるんですか・・・?』
画面の向こうでドアの開く音と渋い男性の声が聞こえる。多分鴨川さんだ。
『と、とにかく!わらわは行く!絶対行くからな!』
「はいはい。待ってるよ。じゃあな。咲耶」
忙しそうなので電話を切った。絶対行くと言ってたが普通に考えたら無理だろう。彼女は神田咲耶、25歳。見た目は子供だが俺の所属する組織、世界退魔士機構の日本京都支部の幹部。そして俺が京都に居たときの友人だ。会いたくない訳ではないがそんなワガママが通るとは思えない。
電話を終えて時間をもて余した俺は、テレビをつけ適当に流し見をしながらボーッとしている。暇だ。無趣味の俺はどうやって時間を潰せばいいのか分からない。テレビをつけたはいいが特に目を引く番組はやっていない。気づけば俺の足は自然と市役所へ向かっていた。
「本田。どうしたんだ?何か忘れ物か?」
市役所に行くと玄関で吉野先輩に会った。
「ちょっと暇なので、向こうに行こうかと思いまして。それと調整してもらった義手の感触も確かめようかと」
「暇だからってあそこに行くのはお前位だぞ・・・そんなんだから松崎先生に気に入られるんじゃないか?・・・武器の試しは必要だがよ、トレーニングルームでもいいと思うんだが」
自分の用を話すと吉野先輩は引いていた。仕方ないじゃないか。俺にはこれしかないんだから。
「実戦で確かめるのが一番ですから。それに魔物を倒すほど民間人の被害は減ります」
「まあ、そう言われればそうだが、俺が言ってんのはだな・・・」
「はい。ご心配ありがとうございます。それでは行ってきます」
吉野先輩に背を向け歩き出す。後ろから、ったく気を付けろよーと声が聞こえる。心配してくれるのは素直に嬉しい。振り向いて一礼をして職員用のエレベーターに乗り込み、B2のボタンを押す。エレベーターが開くと地下2階だ。地下1階と同じ様にSFチックな鉄と機械の通路に白い塗装がなされている。長い通路を歩き途中何度も目的の場所に到着する。
生体認証でドアのロックが解除される。中に入るとまず目に映るのは数メートルの門とそれに繋げられている多数のスパコンだ。あの門は次元門と呼ばれている物で魔物達が生息する異世界に繋がっている
「開門の許可を」
『承認しました』
門の前で許可を求める言葉を発すれば機械音声で答えが帰ってくる。その後門扉が開く。開いた門の先の景色は見えず、広がっているのは次元の渦、としか表現できない。俺はその次元の渦に飛び込む。
瞬間、視界が光に染まる。気にせずに一歩進む。すると景色はガラッと変わる。次元門室、次元の渦、そしてこのどこまでも赤い世界。異世界と呼ばれている此処は、24時間ずっとこの赤色の空に赤色の地面、そして赤い廃墟のような崩れたビル群。赤い満月が沈まない、と特徴を挙げたら枚挙に暇がない。その中でも特に異質なことがある。それはこの世界には霊力というエネルギーが目に見える濃さで存在していることだ。実は次元門はこの霊力をを使いそれをスパコンでサポート、調整することでようやく次元を越えるまで使えるようになった霊力と機械の融合の究極系だ。霊力と機械の融合は組織の武器防具にも使われている
体が重い。異世界では霊力を上手く使えないと体が重りを着けた様に重くなる。俺はポケットに忍ばせていた札を手に取る。それを人差し指と中指の二本の指で挟み、胸の前へ。
そして詠唱する。
「“霊符 金剛纏鎧”」
すると俺の体に霊力が纏われる。この符の効果は人体の強度、耐久力を向上させるもの。ごく一般的な退魔符の一つだ。この符や詠唱を見てまるで陰陽師のようだという奴もいるだろう。それも自然な話だ。何せ退魔士と陰陽師は元々同じだったのだから。
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