第24話

大百足。退魔士風に言うならキングセンチピードとでも言うのだろうか?見たことのない魔物だ。全長10mを越える巨体ながら多足類特有のの多数の短い足を動かしかなりの速さで獲物を追いかけている。大百足。確かに珍しいし報告案件だが俺が見付けたのはこいつじゃない。こいつに追い回されている白銀だ。


「なんなんだよおおおおおお!!誰かあああああああ!!」


白銀は元気に逃げ回っている。良かった・・・生きてたのか・・・俺は心の底から安堵する。聞きたいこともあるが・・・そんな場合じゃないな。まずは白銀を助けてからだ。


「“破軍”起動!!」


右手の義手に仕組まれた退魔機構を複数の特殊霊符が底上げする。それによってもたらされるのは空間を歪ませるほどの霊力の奔流。その出力量は陰陽師の契約者をも上回る。それが俺、本田祐也の唯一の武器であり日本退魔士協会の切り札とも呼ばれている特殊退魔武装「破軍」だ。


まずは白銀のところだな。俺は未だに続いている「疾風瞬身二重祈祷」の効果で100mほど離れていた白銀の場所まで一秒足らずで移動する。そして白銀の両肩に手を置く。。


「白銀!!!良かった・・・本当に無事で良かった・・・!」

「うわああ!!誰だ!?・・・って本田さん!?どうしてこんなところに・・・・あと離して下さい。むさ苦しいです」

「ん?ああ、悪かった」

「俺は,って本田さん後ろ!!」


白銀に言われて振り返ると大百足の口が眼前迫って来ていた。俺はそれを右手で押さえ込む。この体重差だ、普通なら俺は10tトラックにでも撥ねられた様に弾き飛ばされているだろうが、ここは霊気に満ちた異世界。現実の物理現象は通用しない。


「白銀!俺から離れるなよ!!」

「・・・はい!!」


一瞬葛藤があったようだが素直に聞いてくれたな。そうなるのも仕方ないことだが発狂して暴れだしたり側を離れて逃げ出したりされるとこっちとしては守りにくいから言うことを聞いてくれるのは助かる。


「らあっ!!」

「ギィィィィ」


大百足の顔面を右手で思い切り殴り付ける。それと同時に大百足の体内に霊力をありったけブチこんだ。普段の魔物なら打ち込まれた霊力に耐えきれずに消滅して終わりなんだが・・・昆虫型か・・・


予想は的中し大百足は破軍の一撃を受け頭は消滅、胴体は破裂したが、残った節は俺に向かって来た。虫の神経節、ムカデやゴキブリ等の虫は頭を刎ねても動く。それは神経節という小さな脳のようなものが一定間隔にあるからだ。この魔物もそれと同じようなものだろう。


分裂して襲ってくる大百足の一節一節を丁寧に踏み砕き、殴り飛ばし、叩き割った。刎ねても動くとはいえそれは動くだけであって周りを囲んで同時に、みたいな戦術はとれない。ただ向かってくるだけだ。たいした脅威ではない。


最後の一節を踏み砕くと、白銀が話しかけてきた。


「本田さん、ですよね?ここはどこなんですか?」


白銀は大分落ち着いてるようだな。いや、矢継ぎ早に起こる出来事と情報量の多さに戸惑っている感じだ。


「その前に歩こう。出口まで案内してやる」


そうして俺達は歩き始めた。白銀に合わせている為速度は遅いがあと30分もすればたどり着くだろう。それまでは辺りを警戒しつつ、白銀が不安そうなので白銀の疑問に答えることにした。


「出口に着くまで少し時間がある。何か聞きたいこと・・・まあたくさんあるか」

「はい、それはもう」

「よし、最初の質問に答える。ここは異世界と呼ばれている場所だ」

「異世界!?そんなばかな・・・」


白銀が驚愕の表情を見せる。いきなり異世界だなんて言われれば誰でもそうなる。


「今自分の目に映ってるものが全てだ。異世界は実在する。それが変えられない真実だ」

「ならあの化け物は何なんですか?」

「魔物、と呼ばれているな。異世界に住まう怪物だ」

「なら、アンタは?」


俺は白銀の後ろを歩いているので顔は見えないがその声色は複雑なものを感じさせた。


「俺に関することは言えない」

「それじゃ・・・」

「まだな。今は言えないが直ぐに分かる。ただ1つ言いたいのは、俺を信じてくれってことだ。絶対に無事に帰す。絶対悪いようにはさせない。俺の事なんて信じたくないのは分かるが、頼む」


白銀が足を止めた。そして振り返る。


「はぁ。元から信じてますよ。助けてもらったわけだし。さあ、さっさといきましょう」

「そうか・・・・ありがとう」

「別に・・・」


そこからはしばらく無言で歩き続けた。その間、魔物に襲われる事も無かった。そしてついに次元門付近に到着した。


「本田さん!あれなんですか!?」


白銀が指差す先には深い黒色をしたキューブ型の建造物。


「あれは此方の世界と彼方の世界を繋ぐ門を守るために建てられた施設だな。何でもダイヤモンドより硬い建材で出来てるらしいぞ」

「世界を繋ぐって、つまりはあそこから帰れるってことですか!?」

「そうなるな」


俺達は防衛施設の中に入り次元門にたどり着いた。


「これが世界を繋ぐっていう門ですか。もっと大きいと思ってました」

「今の技術力ではこれが限界なんだとさ」

「これで帰れる・・・あれ?開かない」


白銀が門の取っ手を押したり引いたりするが門は沈黙している。それもそのはずで異世界側の次元門は霊力に反応してアンロックされる仕様になっている。


「元の世界に帰る前に言っておかなければならない事がある」

「・・・・・」


ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。白銀は俺の雰囲気が真剣なのを感じて、次の言葉を緊張の面持ちで待っている。


「お前は元の世界に帰って直ぐに2つの選択のどちらかを選らばなくてはならない」

「それは・・・どういう」

「1つ、今までの日常生活に戻る道。お前が拐われる少し前からの記憶を消す。そうすればお前は化け物に追いかけられる恐怖も、理解の及ばない場所に来てしまった不安もきっぱり忘れて元の生活に戻れるだろう。2つ、退魔士として生きる道。俺が見るにお前には退魔士の才能がある。退魔士とはお前も見ただろう。市民を守りああいう化け物を滅するのが仕事だ。退魔士は危険な職種だ。命を落とすかもしれない。だが己が身を危険にさらすことで人命を救助できるというのも事実。この二つのどちらかをだ。」

「記憶を消す?退魔士?そんないきなり言われても・・・俺は一体どうすれば・・・」


白銀が頭を抱えている。確かにいきなりだしどうすればいいのかなんて普通の高校生なら直ぐに答えはだせないだろう1。だがそれでも、白銀は決めなくてはならない。何よりも自分の為にも。


「それはゆっくり考えておけ。時間はたっぷりあるからな」

「良かった。直ぐに決めろって事かと」

「たっぷりあるのは考える時間じゃない。お前を尋問する時間だよ」


そう言って俺は世界を繋ぐ門を抜け元の世界へ戻るのだった。







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