第25話
「えっ今なんて?」という言葉が後ろから聞こえた気がした。まあ、俺の言葉が聞こえてないならないでいいんだ。どうせ尋問するのにかわりないし。
数拍おいて白銀も門を通って来たようだ。転移直後は転移酔いでもしていたのか、軽く頭を押さえていたが治まったのか「うわぁ、すげえ」とか言いながら周りを見回している。
「本田さん。ここは何の部屋何ですか?すごいスパコンの数ですけど」
「簡単に説明すればここはゲートだ。この世界と向こうの世界の二つを繋ぐ門。それが置いてある。スパコンは次元移動のサポートをしている」
「へー・・・それでこれから何処に行くんです?」
「着いてこい」
俺はそう言って歩き始めた。後ろから白銀が着いてくる。しばらく歩き到着したのは地下4階にある尋問室。元々は敵対勢力の人員や霊力犯罪者を尋問する為に作られた場所だが今はあまり使われていない。目下の最優先事項は魔物対策とそれに付随する行方不明者救助で、敵対勢力や野良霊能力者等は二の次だ。勿論二の次と言っても発見次第対処はするようだが。
「あの、此処って・・・」
尋問室は刑事ドラマの取調室のような構造をしており、1つの机に椅子が二脚中央に設置されている。録画と録音形式なので調書係りもいない。異なる点で言えば地下なので窓がない事、床も壁も天井も純白に染まっている事、入って右側の壁にに大きなガラスが取り付けられていて、それは明るい尋問室からは見えず向こう側からのみ見えるというマジックミラー仕様になっている事だ。
「取り敢えず座って待っててくれ」
「え、でも・・・」
白銀は困惑していたが放置して尋問室を出た。外側から電子施錠出来るが敢えてしない。逃げ出すことはないと思っているからだ。俺はそのまま尋問室を離れた。
エレベーターに乗り、地下二階に上り少し歩いて目的の場所に到着する。支部長室、この施設で二番目に偉い人が居る部屋だ。二番目なのはこの施設が研究所としての側面が強いためだ。となると一番は誰かと聞かれたら一人しかいない。松崎大誠研究所所長、我らが松崎先生だ。とはいってもあの人は研究開発以外に興味がないので実質的トップは支部長になる。
部屋のドアの横に備え付けられたボタンを押す。このボタンは来客を知らせるものらしい。
「入りたまえ」
ドアの向こう側から威厳の感じられる声が聞こえた。俺はロックの解除されたドアを開く。そして正面に数歩。支部長と机を挟んで3mくらいの距離で足を止めた。間取りはこれまた刑事ドラマのお偉いさんの部屋、後は学園ドラマで出ていた校長室?あんな感じ。勿論窓も無いし内装はもう少し機械的だけど。
「本田祐也です。少しご報告がありまして」
「いきなり来るのは君だけだな」
皆アポとかとってから来てるの?そういうルールなの?マナーなの?
「それは、すみません」
「いや、いいんだ。そういう意味で言った訳じゃない。気にしないでくれ。それより、話とは?」
良かった。気にしなくていいらしい。俺の境遇を知ってるから気を使ってくれてるのかな?境遇を知っているということは俺の過去も知っていると思うんだが。どうせ俺の事は最初から調べてあるだろうし。まあ、でも今は報告が優先だな。
「二つありまして、1つは先月の獣型魔物に続いてまたも新種が現れた事の報告です」
「また、か。魔物の確認数も増えている事を考えると・・・近々起こるやもしれんな」
「スタンピード、ですか」
スタンピードとは数年から数十年の間に一度の頻度で突発的に起こる魔物の大規模侵攻だ。
単一の魔物だけでなく複数種類の魔物達がどこからともなく現れて侵攻上のありとあらゆるものを押し潰す災害だ。以前に起こったのが丁度10年前らしい。
「うむ・・・了解した。その件は此方で手を打っておこう」
「ありがとうございます」
これで取り敢えず新種の事も報告したし発生する可能性のあるスタンピードも支部長が対応してくれるそうだ。俺みたいな戦闘員は頭は使えないし命令されて戦えばいいだけだ。
「それで、もう一つなんですが・・・」
「どうした?」
「いえ、すみません。先刻にその新種に襲われていた民間人を保護しました」
「ふむ」
「自分はその民間人が走って逃げている所を保護しました」
「何?」
支部長の表情が普段の険しい表情から一転困惑の表情は見せる。
「・・・つまり、その民間人はあの異世界で意識があったと。さらに魔物から逃げて走っていた・・・ありえん。陰陽師の可能性は?」
「その民間人は自分の友人でして何度も顔を合わせていますが、そういった雰囲気は感じられませんでした。今日も擬態型魔物だと気付かずに連れ込まれていました。陰陽師にしては警戒心も危機管理能力も皆無なのでその可能性は低いかと」
白銀が陰陽師なわけがない。そう信じている。その理由を説明していると支部長の口端が少しだけ吊り上がるのが見えた。
「何か?」
「いや、君に咲耶君以外の、それも同性の友人が出来たのが嬉しくてね。何分私と君は付き合いとしては10年くらいになるからね。良かったじゃないか」
「・・・ありがとうございます」
そうだ。確かにこの人は俺の過去を知っていて、尚且つそれを黙秘しているのかもしれない。だからといってそれは悪人である事とイコールではない。だから、今のこの人が話している言葉も嘘ではないのだろう。
「・・・それで、支部長はどう考えますか?」
誉められ慣れて無い俺は、今のが誉められたのかすら分からない。分からないから逸れていた話の道を順路に戻した。
「ふむ、実際に見てみないことには判断がつかんな」
「そう言うと思って尋問室に待機させています」
「仕事が早いな。その人物の状態は?」
「困惑、周囲の警戒はしていますが比較的落ち着いています。知人である自分が居ることが大きいと感じます」
白銀は俺の事を信じていると言った。それが嘘でなければ今も俺を信用してあの場で待っているはずだ。だけど、すまない。白銀。俺は組織の人間だ。上からの命令には逆らえない。精神的にも、肉体的にも。それでも、お前との約束、出来る限り守らせてもらうぜ。
「それを踏まえて、尋問官は自分にやらせて頂けないでしょうか?」
「君がか?」
「はい。尋問の内容は尋問室のPCにでも送って頂ければ」
「・・・良かろう。尋問は君に任せた。くれぐれも身内贔屓はしないように。私は準備に取り掛かろう」
「はい!ありがとうございます!!」
俺は大きく頭を下げた。ダメ元でも言ってみるもんだな。まあ。支部長が慈悲深いだけかも知れないが。俺は頭を上げて何やら尋問室へ行く準備でもしているだろうその慈悲深い支部長に言い放った。
「あ、あとお願いなんですけど他の方々に連絡してもらってもいいですか?」
一瞬時が止まった。ように感じた。だが支部長も「分かった。連絡しておこう」と言われたので礼をしてから支部長室を後にした。あの間は一体なんだったんだろう?・・・はっ!?もしかして言霊か!?俺の霊力が無意識に言葉を言霊に変えていた!?・・・なわけないか。
少し時間が空いたので地上に出て黒宮に白銀の生存報告の一報を入れた。こういう事は早い方がいい。それから程なくして白銀に対する尋問が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます