第26話

尋問室の隣の部屋には既に傍聴人が集まっている。やはり、というべきか松崎先生の姿も確認できた。それに支部長、尋問官、後は幹部達もいるようだ。


少し遅れて尋問室へ到着した俺は傍聴人が全員入っていくのを見届け、数十秒、間をおいて尋問室の扉を開けた。


「悪い、大分待たせたな」

「いえ・・・そんな事より・・・此処って所謂取調室ですよね?俺は今から取り調べを受けるんですか」

「そうだ。尋問担当は無理言って俺にさせて貰った。その方が話しやすいだろ?」

「っ・・・!俺は何もしてません!何がどうなってるのかも分からないのに、こんな・・・」

「取り敢えず席につけよ。話はそのあとで聞くから」


白銀は渋々といった感じで椅子に座り込んだ。浅く座っているのは警戒心の表れだろうか。


「では、尋問を始めさせてもらう。まず始めに本尋問において敬語等は不要とする。普段通りに話して貰って構わない」

「・・・・」


パソコンの方に送られてくる傍聴人達が聞きたいであろう事項、俺はあえてそれをスルーしていつものような軽い口調で質問を投げ掛ける。


「なあ、白銀。何でお前がこんな尋問受けてるか分かるか?」

「いや・・・全く心当たりがない・・・です」


年上にタメ語を話すのが慣れて無いのか、それとも警戒からか白銀の喋りはたどたどしい。


「すまん。さっき敬語は不要っていったが忘れてくれ。好きなように、話しやすいようにでいいから」

「はい」


やはり慣れない事はするもんじゃないな。冷静沈着に淡々と進めるつもりだったが白銀が萎縮してしまった。普段通りが一番だな。


「お前が尋問されてる理由は簡単に言えば異世界で意識があったからだ」

「はい?それは、どういう・・・」

「お前は魔物に異世界に拐われた。これは覚えてるか?」


白銀が強く頷く。


「普通の人間は異世界に連れ去らわれたら気を失うんだよ。詳しくは解明されてないけど世界を越えた衝撃?とかだったかな?それの影響でな。お前はどうだった?」


白銀の顔が驚愕に歪む。反応的にはかなり白いな。本当に知らなくて驚いてる感じだ。


「・・・なにか眩しいなあ、と思ったら知らない場所にいました。気絶は・・・してないです」

「そうか。一般人なら普通は気絶するんだけどな」

「それは、偶々、奇跡的にそうなっただけですよ!!!」

「確かに、奇跡が起こればあり得るかもな。確率は限りなく0に近いけど」

「ですよね!!?本当に偶々なんです!!」

「ただ奇跡じゃなくても気を失わない奴らはいるんだ・・・」


白銀のを真っ直ぐに見つめる。嘘をついていたり疚しい事があれば何かしらの変化はある。俺の知る白銀は違うが隠すのが上手い奴はその焦りや緊張を表に出さない。目を見ても何も分からないかもしれない。だからこそ見る。そして視るんだ。


「そいつらの名は、陰陽師。簡単に言やあ俺達退魔士の敵だな」

「陰陽師・・・?退魔士・・・・?」


僅かな反応も見逃さないために精神を集中させ一挙手一投足全てを霊力で視ていたのだが、白銀の反応は想像を裏切っていた。良い意味でだ。今、かなり遠回しにお前は陰陽師かそれともその協力者のどちらかじゃないのか?と聞いた。もしもそれが図星だった場合表情や態度に表れなくても霊力の揺らぎは観測できる。だが白銀の反応は頭に疑問符が沢山ついているような反応で俺に向かっても何いってんだコイツみたいな感じだ。うーん、やっぱり白にしか見えないな。


「知らないのか?」

「聞いたこともないです・・・」


もう俺じゃ分からん。上から指示を仰ごう。丁度特等席で観てるしな。目の前にあるノートPCで要約「白だよこれ。皆どう思う?」と送った。返信はわりと直ぐに来た。これも要約すると「俺達もそう思う。もう次行こう次」だ。どうやら上の人達も尋問官も白だと思ったらしい。


厳密にに言えば、だ。俺は俺で身内贔屓や先入観が働いていてどうしても白銀を白い方向に見てしまう。白銀がこんな世界に関わっているなんて思いたくない。気付けば白銀は俺の中で何でもない日常の一部になっていた。まだ会ってから日は浅いが俺は友人だと思ってる。そんな友人をどうしても黒い目で見れなかった。


一方で横の部屋でこの会話を聞いている彼らにも考えはあるだろう。思い至ったのは、白銀は未成年であり俺の知人である。つまりは強引な尋問等は法は許さない、法を無視したとして俺が憤る可能性がある。だから本人の希望通り、尋問は任せた。送ったものはスルーされたが尋問は進み核心である陰陽道のスパイ、野良の陰陽師、エトセトラを一纏めにして敵対組織又は敵対勢力か否か。その答えを聞いた俺のSOSを受け、こう考えたのだろう。「彼の尋問ごっこでは真相は聞き出せないが白銀という少年の霊的抵抗力が高く是非とも退魔士に欲しい人材である。よって彼の言葉を信じるという形で白銀少年を一時的に白と定める」と。


「白銀。すまない。少し警戒し過ぎだったようだ。お前は陰陽師でも何でも無いようだ」


机に頭を押し付けながら謝罪をする。。


「そうですよ!!最初から言ってるじゃないですか!!そんなの知らないって!!!!俺は普通の人間だって!!!!」

「すまん・・・・!」

「・・・もういいですよ・・・」

「そうか、ありがとう」


白銀に許された俺は、机に押し付けていた顔を上げる。はっきりいってこの尋問は俺の中では白銀の潔白を確信していたので茶番だ。あくまでも上の人間が自らの目で見て判断を下す。そのための尋問であり俺は我が儘で尋問を担当させてもらったにすぎないんだ。





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