第27話

「それでは、次の話だ。気は進まないが急かされてるんでね。この世界の秘密を知ってしまった一般人。白銀翼には二つの選択肢がある」


この言葉を聞いて白銀は一瞬目を見開いた。先程の俺との会話を思い出したのだろう。俺は続いてその時に話した記憶を忘れ元の生活に戻るか、退魔士となって戦うかという内容をもう一度繰り返した。さらに細かい条件やメリットデメリットも、全てを話した。いや全ては言い過ぎか。話せる範囲で全て話した。話せる範囲でと言ってもそもそも話せないのは個人的な事なので騙しているわけではないだろう。


「さあ、どうする?」

「門を通る前に言われてから、その事をずっと考えてました。本当にそんな場面が来るのかとも思ってましたが・・・本当だったんですね。本田さんはこうなることを知っていたって訳ですか」

「あ、ああ」


俺の歯切れが悪いのはそんなことを思っていなかったからではない。俺は恐怖していた。具体的にはマジックミラーの奥に居る支部長と尋問官からの殺気だ。俺が事前に白銀に教えていたことが悪かったのか!?理由は分からんが凄い殺気だ。流石歴戦の元退魔士だ。分厚いマジックミラー越しにも物凄い圧を感じる。怖いから向こうを見るのは止めよう。そしてこの尋問を早く終わらせて逃げなくては・・・


「なるほど、ならお前の選択を聞かせてくれ」

「俺は退魔士になります!」


即答だった。白銀の顔には迷いは窺えない。こいつは本気で退魔士になると言っているんだ。普通に考えたら記憶を消すのが楽な道だ。記憶喪失の俺が言うのも何だがたかが2、30分の記憶を消せば普段通りの生活に戻れるのだ。それを選ぶのは自然と言える。だが、白銀は後者を選んだ。それは一体何故なのか。


「どうして退魔士の道を選んだ?退魔士は魔物と戦わねばならず、戦いで命を落とすかも知れない。メリットは殆ど無い。デメリットも多い。それなのに、何故だ?」

「メリットが殆ど無い?それは違いますよ。本田さんも言ってたじゃないですか。人命を救助するって。これはとても大きなメリットだと思いますよ」


何を言ってるんだコイツは?人命救助が自分のメリットだ?命懸けなんだぞ?デメリットではないのか?


「俺には分からない・・・人を助けて得られるお前のメリットって何だ」

「そもそもとして人の生死にメリットもデメリットも無いと思います。助けたいから助ける。これで良いじゃないですか」


助けたいから助ける、ね・・・。随分と立派な思想だな。


「要救助者が見知らぬ他人でもか?」

「勿論です」

「それがお前の嫌いな奴でもか?」

「嫌いな相手・・・分かりません。分かりませんが、その時になってみないことにはなんとも・・・でも、普通は見捨てるって考えにはならないと思います」


今までに見たことの無い白銀の一面に俺は言葉を失っていた。黒宮曰く優しいだったか。だがそれは検討外れだったようだ。白銀のそれは優しいを越えていた。自分の身の危険を顧みず誰が相手でも助ける。そうのたまう白銀に俺はどんな顔をすればいいのか分からなくなった。


「例えば、敵対組織の奴が助けを求めて来たらどうする?」

「それは・・・その人が何をしたか、これから何をするのかにもよりますが、目の前で倒れていたら・・・・分かりません。分かりませんが、放って置くのは良くないような気がして」


強い生の執着。そこに自分は含まれていない。それが今の会話から導きだした白銀の本質だ。もしかしたら、彼は以前に何か自身の根幹を担うものが崩れてしまったのかもしれない。それでこんな精神構造に書き換えられたとか、そうでないと説明が付かない。彼はある一部分において一般的な高校生の思考から逸脱している。勿論良いことではないが、退魔士として見る分には悪いことではない。


「・・・・分かった。お前の意思はしかと聞き届けた。これにて尋問を終了する。少しだけこの場にいてくれ。直ぐに来るから」 


返答を聞く前に部屋から出た。そして隣の部屋へ入る。一斉に向けられる視線。俺はそれを無視して支部長の元へ足を運ぶ。


「自分としては素人で確定かと存じます。それに最後の問答、高い霊力抵抗を持っている事と合わせて考えるとやはり退魔士に向いてるのではという考えに至りましたが、支部長はどのようなお考えを?」

「ある程度は君と同じだよ。一時的だが彼を退魔士候補生として扱う。皆もそれで構わないか」


支部長は周りのお偉いさん達に言葉を投げ掛ける。それは同意を求めている訳ではない。ただ単にそのような措置にしたと決定事項として周りに伝えているだけだ。反対などは無く支部長の鶴の一声で白銀は退魔士候補生となった。まあ、一人奥でニヤニヤと笑っている人物もいたが。人物というか松崎先生だ。その彼は俺と目が合うとそっと目配せをしてきた。はいはい。後で来いって事ね。




その後俺は正座にさせられ、お偉いさん達の前で支部長と尋問官にこっぴどく説教された。今はその地獄の時間が終わり松崎先生の診察室まで向かっている最中だ。白銀がどうなったかというと俺も詳しくは知らないんだが、どうやら候補生として直ぐにでも訓練を始めることになったらしい。訓練は平日の放課後と土日で行うんだとか。かなりタイトなスケジュールだが本人は鍛えられて尚且つバイトより割りよく金が貰えると喜んでいるくらいだ。そんな白銀も今日は流石に訓練は始めず書類を書かされたりいろいろ手続きをするようだ。

白銀、まさか本当に退魔士になるとはな。これから大変だが頑張れよ。

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