第28話

「失礼します」


そんな考え事をしていたら目的地に到着していたようだ。俺はおもむろにドアを開けて中に入った。そこでは松崎先生が・・・いない?奥の部屋だろうか?取り敢えず診察室に入りそのまま奥の研究室へ向かう。研究室のドアを開くと奥に松崎先生の姿が見えた。


「先生、本田です。呼ばれたので来たのですが」


返事はない。松崎先生はこちらに背を向けて何かしているようだ。集中しているのか先生は気付かないので前に回り込んで自分の存在を視界に写り込ませる。


「うぉっ」


思わず声が出てしまった。松崎先生が熱心に取り組んでいたのは少女の改造だった。それだけ聞くとヤバい奴だが・・・まあ実際にヤバい奴ではあるが、彼がいじっているのは枕詞に機械のと付く少女だ。その少女型の機械の完成度が余りに高く一瞬本物だと思ってしまった。


「ああ、本田くん、居たのかい」

「どうぞ」

「テンポが早くて助かるよ」


どうせ義手の調整だろうと思っていたので、外していた義手をそのまま松崎先生に手渡した。先生もその用事だったようで受け取って直ぐに謎機械群いつものに接続した。そしていつも通りに映し出されるデータの数々、先生はその中の戦闘データに一瞬目をやって


「新種の魔物に使ったのかい」


と尋ねてくる。何が言いたいんだ?この人はいつも遠回しに話をするから質問の真意に気付くのには時間がかかる。


「そうです」


と俺は答えるしかない。


「以前よりも破軍の力を引き出せているね」

「それよりさっきからずっと気になっていたんですけど、その娘、何ですか」


話が触れられたくないところに行く前に強引に話題を変えた。造っている事に興味があるのも確かだったので途中で遮る疑問はその事にした。


「コレかい。コレはartificial brain android。人工頭脳搭載型アンドロイドだよ」


はい?今なんて?言葉を聞いただけでは何も分からん。


「それは・・・AIって事ですか?」

「違うよ。AIは人工知能、僕のコレは人工頭脳だからね」

「何が違うんです?」

「全く違うよ。AIは人間の知的能力を模倣するものだけど人工頭脳は人工的に人間の脳を造るというものだ」

「なる、ほど?」


駄目だ・・・ちょっとでも専門的な事になると脳がついていけねぇ・・・・


「そもそも――――」

「あ、もう大丈夫です。大体分かりましたので」

「そうかい?」


先生はまだまだ話し足りないという感じだったが、スルーして質問を変えた。


「あのアンドロイドは何故あんな外見にしたんですか?」

「・・・それは企業秘密だ」


ほんの数瞬の沈黙、彼の中では何か思う所があったのだろう。そして直ぐ紡がれた言葉には今までのような何というか、からかうような、嘲笑するような雰囲気は感じられなかった。これは触れられたくない話題だと理解したと同時に先生にもそんなものが有るのかと驚きもした。触れられたくないなら無理に追及する必要もないだろう。


「企業秘密なら仕方ありませんね」

「まあ、いくら君相手だからといって全て話す事は無いからね」

「分かってますよ」


本当にそうだ。この松崎先生は俺の過去の事を知っていながら俺に隠していると俺は思っている。過去の記憶だけじゃない。破軍の謎も56番の意味も全て俺には話していないのだ。しかし俺自身も当時はあんまり興味がなかったので強くは言えない。


3分くらいだろうか。そこから俺と先生の会話は無く、機械音だけが流れていた。地雷踏んだか?いや、先生に限ってそんな、などど考えている中、先に静寂を破ったのは松崎先生だった。


「そういえばさっきの魔物の話、途中だったね」

「そうでしたっけ?」

「そうだよー。君の調子がいいって話。やっぱり彼女のお陰かな」


ドクンッ!!と心臓が大きく脈打つ。彼女?彼女って何だ?先生の言う彼女は恋人の事じゃなくてsheの方だろう。まさか、知ってるのか・・・!?いや、まだ確証はない。


「あー、咲耶ですか。やはり友人ですから会えば調子もよくなろうというものです」

「いやいや、分かって言ってるでしょ?黒宮涼華さんの事だよ」


出てしまった。彼の口からその名前が・・・。彼が名前を出すって事はもう全て調べは着いてると見て間違いないだろう。しらばっくれても無駄だろうな。


「一体どうやって知ったんですか・・・!」


震える声を必死に隠して言葉を紡ぐ。バレたのが怖いんじゃない。怖いのはこの男が彼女の事を知ってしまった事だ。この男にとって陰陽師は所謂研究対象だ。だが退魔士組織に所属している以上陰陽師を研究出来る事は滅多に無い。ましてや当主で契約者何て相当貴重だ。何としても捕まえたいに決まってる。もし捕まったら・・・


「さあ、どうやってでしょう?」


その言葉を聞き終わる前に俺は先生の胸倉を掴み上げ、近くの壁に叩きつけた。


「乱暴だね、僕が怪我して困るのは君だと思うけどね」


今も壁に押しつけられている松崎先生はそれでもシニカルな笑みを絶やさない。その事にさらに怒りが増すのを感じる。


「涼華に手を出さないで貰えませんか。咲耶と白銀にも。じゃないと」

「分かってる!分かってるから手を離してくれ!!」


俺は無意識で徐々に首を締め上げていたことに気付いて慌てて手を離す。先生が苦しそうに立ち上がる。乱れていた息を整えこちらを見つめ口を開く。


「話を聞いてくれ。まず僕は君以外に興味はない。よって君が言った三人には何もすることはない。したら君が怒るだろう。そうして先程のじゃないと、の続きを実行するだろうな。僕はそれを望まない。何より君に怒られたくないしね」

「証拠は?」

「この言葉を信じてもらうしかない」

「・・・分かりました。信じることにします。今回は」

「それは助かるね」


実際のところはどうかは分からない。が、信じることにした。というより信じざるを得ない。


「俺も急にカッとなってしまって暴力を、申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げる


「そんな事はどうでもいいさ。それよりも話の続きをしよう。まず僕が何故黒宮涼華との関係を知っているか。単純な話さ。支部長の鏑木くん、彼からの情報だよ」

「何・・・」

「おそらく君と彼女が一緒にいるところを目撃されたんだろう。組織の誰かにね。その誰かは支部長に報告し支部長は僕に情報として話した。こんなところかな」


俺の暴力沙汰をどうでもいいと切り捨てた松崎先生は俺の疑問に端的に答えを出した。まさか見られていたとは・・・迂闊だった。周りは確認したつもりだったんだが。


「さて、今度は話してくれるかな?君と彼女の事をさ」


俺はその問いに無言で頷くのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る