第14話

『ご乗車ありがとうございます。次は、仁原市役所前~。仁原市役所前~。お降りのお客様は降車ボタンを押してお待ちください』


次だな。俺は降車ボタンを押す。咲耶には、長めに見積もって30分って話したが、この調子なら20分かからずに到着しそうだ。


『次、止まります』


音声アナウンスが聞こえてから数分後、バスは市役所に到着した。小銭をじゃらじゃら探す必要はない。何故ならこの神のカードがあるから。カードをかざしてバスから降りる。



さて、市役所に来たのはいいが、咲耶はどこにいるのだろう。市役所の地下って事はわかるが対魔対策室がどこにあるかなんて知らねーぞ。先程、咲耶から掛かってきた電話に出た。地下は電波状態が悪いので、おそらく地上に出て電話を掛けたはずだ。・・・だとしたら待っててくれてもいいのにな。でもしょうがないか。緊急の用件ですぐ戻らなきゃいけないとかだったのかもしれないし、そもそも俺が対魔対策室の場所が分からないのを知らないのかもしれない。仕方ないから自分で探すしかないか。


千葉県仁原市役所、この街の市役所は特別だ。役所の地下に退魔士施設があるのは、全国で見ても千葉県と東京都と京都府だけだ。東京、京都は施設の数が多いからまだ分かるが千葉県は何故?と考えたりもするが答えは出ない。そもそも何で役所の地下に造るのか、それが分からない。



市役所に入って辺りを見渡し確認するが、先輩は居ない様だ。参ったな・・・先輩に対策室の場所を聞くつもりだったのに。他には誰か居ないかな?居た。田村さんだ。とりあえず聞いてみるか。


「田村さん、少しいいですか」

「本田か~何か用か~?」


田村さんは椅子の背もたれに大きく寄りかかってだらけている。田村さん、窓口近くじゃなくて良かったっすね。こんな堂々とサボれるのは奥だからですよ。ちなみにこの田村さん、独り言で俺に不審者情報を聞かせた人だ。あの時は助かっ・・・てはないな。別に。


「対魔対策室ってどこにあるか分かりますか?」

「対策室ね。地下3階にあったと思うよ」

「3階ですね。ありがとうございます」


俺は頭を軽く下げ職員エレベーターへ向かう。3階は余り行ったことないな。この施設は地下4階、地上3階建ての建造物で地上は全て市役所になっている。地下は4階からトレーニングルームや実験場等が存在する。実験場の天井は高く地下2階までぶち抜きになっている。実験場ではよく「破軍」の訓練をした。うまくいかずに死にかける事も何回かあったっけな。まあ、過ぎた話だ。


そして地下3階、入ってすぐはホテルの様になっていて、通路の両壁に一定間隔でドアが並んでいる。そのドアにネームプレートが掛けられている。機関の職員達は1人1部屋を渡されていて、ここで寝る事もできる、ホテルの広めの一室のようなプライベートルームだ。


そんな寝室ゾーンを抜けると十字方向に通路は続いている。確か右に行くと指令部があるんだよな。で、左が何だっけ?電気設備がどうたらこうたら言ってたな。それなら真っ直ぐしかないな。そのまま通路を直進する。少し歩くとまた両壁に一定間隔でドアが並んでいる。しかし先程より間隔が広い。ドアの上部を見てみると対陰陽道対策室、情報管理室と書いてある。この辺だな。少し歩き回ると突き当たりに対魔対策室の文字が目に入った。ここか。

ノックをして名前、用件を言う。すると中から入れと声がかかる。


「祐也よ。待っておったぞ」


対魔対策室は他の部署の部屋と比べて小さく、真ん中に置かれたテーブルと椅子、ホワイトボード位しか置かれていない。棚にはデータ移行前の書類のファイルが乱雑にしまわれており、床には本が散らばっており一ヶ所に集めたら相当高く積めそうだ。


対策室は咲耶一人だけだった。咲耶がいつになく真剣な面持ちだ。一瞬だけ俺を見ると再び資料の方に目をやった。ちゃんと働いてんじゃん。俺なんか魔物を倒す以外ほぼ何もやってないのに。彼女のきちんと仕事をこなすところとかは、見た目は小さい彼女がちゃんと社会人なんだと自覚させられる。


「で、俺を呼んだわけを教えてくれよ」

「こっちへ来い」


咲耶に従いテーブルの上を覗きこむ。これは仁原市の行方不明者総数履歴か?


「12年前までは被害者は多くはなかった。調べた所によると陰陽師、黒宮遥香のお陰のようじゃな」


黒宮?ということは黒宮の親族の誰かだ。一番可能性が高いのは


「黒宮凉華の母か!?」

「そうじゃ。黒宮遥香は優秀な陰陽師だった。彼女のお陰で被害者が少なかった。12年前は退魔士機関の技術もそう高く無かったからの。だが12年前、彼女は亡くなった。不慮の事故でな」

「不慮の事故・・・本当にか?」

「実際のところただの交通事故で片付けられているが・・・犯人も陰陽師だったんじゃ」

「犯人も陰陽師!?」


咲耶が不慮の事故と言う時に何か違和感を覚えて本意を探ったらとんでもない発言が飛び出してきた。そうなると陰陽道名家の連中の内輪揉めって可能性も出てきたぞ・・・これは・・・黒宮には話せないな。少なくとも今じゃない。


「話が脇道にそれてしまったのう。話を戻そう」

「あ、ああ」


今の話は脇道だったのかよ・・・めちゃくちゃ重要な話じゃないか?俺が黒宮のがわに立ちすぎてるのか?


「12年前、黒宮遥香が亡くなったことで、被害者数は倍増したのじゃ。まあ当たり前のことじゃの。その後は被害者数は緩やかに減っていった。退魔士達のお陰じゃな。見てみい。ここ数年など行方不明者の数と行方不者発見の報告が並びつつある」

「退魔武器の完成か」

「そうじゃ、黒宮遥香が亡くなって直ぐに退魔武器は完成を迎えた。タイミングよくな」


亡くなるまで待っていた?いや、考えすぎか?


「要約すると12年前は陰陽師が活躍していて、今は退魔士が活躍しているってことか?」

「大分ざっくりまとめておるが、そんな感じじゃ」

「つまり今の陰陽師、この辺だと黒宮家か。それが近年全く退魔士に太刀打ち出来てないってことか」


陰陽師と退魔士は一応の敵対関係にある。一応というのは魔物は出た場合や人命が損なわれるような事態には協力する事もあるというだけだ。基本両者はどちらが優秀か、どちらが正式な対魔物組織なのか、そんなどうでもいいことで争っている。


「おぬしの記憶の鍵を握る少女なんじゃろう?はよう会わねばもしかしたら」


そうか、こいつは会ったのを知らないのか。なら説明しないとな。


「実は、会えたんだよ。黒宮に」


正確には無理矢理会ったが正しい。


「そうじゃったのか・・・して、その娘は・・・」

「ああ、弱かった。かなりな」


当主であのレベルは問題外だ。黒宮の話では両親と兄が死んでいる。祖父母は教えてはくれないだろう。そんな状況じゃそれもしょうがないか


「やはりそうか」

「これは咲耶にだから言うが、師弟になったから修行を着けようと思ってる」

「陰陽師と師弟関係じゃと・・・おぬしはいつも突飛な行動をするのう」

「怒らないのか?ほぼ裏切り行為だぞ」

「おぬしはわらわが怒ると思って話したのか?わらわはおぬしの決断を尊重するぞ。それに上はマウントの取り合いばかりでどうしようもないからの。その娘が強くなり協力できれば皆助かる。多くの人が助かる道を選ぶのは当然じゃ。」

「咲耶・・・ありがとう」



咲耶は俺の事を信用してくれている。京都に居た時からそうだ。咲耶はずっと俺を支えてくれている。俺はそれに少しでも報いたい。


「咲耶、今度飯でもいかね?」

「良いが、またファミレスとかハンバーガーにするのか?」


咲耶に飯に誘うと嬉しそうな顔をする。今も何だかんだ言ってるが口角が上がっているのを隠しきれていない。やっぱ食べるのが好きなんだな・・・


「いや、ディナー。うまそうなとこ予約しとくから行こうぜ」

「ふ、二人でか・・・?」


何言ってんだ?咲耶に行こうって誘ってんだから二人に決まってんだろ。会話に他の奴の名前が出てたならまだしも。


「二人に決まってんだろ」

「わらわと、祐也で?」

「だからそうだって!」

「ふふっ、そうか、二人でか・・・」


咲耶は後ろを向いているから表情は伺い知れないが、声色で喜んでくれていることが分かる。ファミレスやらで嬉しがってたんだ。ディナーなんて相当嬉しいに違いない。やたら二人でと聞いてくるのはきっと彼女が人見知りだからだろう。今の俺に出来るお返しなんてこれくらいしかできないが、喜んでくれるなら誘って良かったと思える。


「話は終わりか?」

「まだあるんじゃが・・・今日はこの辺にしておくか。おぬしの頭も限界だろうからな」

「頭の心配までしてくれるなんて痛み入るぜ」


咲耶は話は終わりか、意味そろそろきついを読み取り話を中断してくれた。


「じゃあ、俺は行くわ。修行の内容考えないといけないし。情報、ありがとな」

「記憶、戻るといいのう」

「空けられる日付後で送ってな。ディナーはそれに合わせるから」

「うむ、うむ!」


余り有用な情報は得られなかったが、咲耶とのディナーを取り付けられただけでプラスだ。さて、明日から始める修行はどんなメニューにしようか?俺はそんなことを考えながら対策室を後にした。

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