第16話
「それで、座学というのはどのような事をするのですか?」
「そうだな・・・まずは退魔士と陰陽師の違いについて。だ」
黒宮の口ぶりから、退魔士が何なのかも良く分かってないようだったし。
「違いですか・・・退魔士は機械を使う。とか?」
やっぱりその程度の認識か。まあ、機械を使ってるのは確かだし半分正解ってとこか。
「惜しいな。正確には機械を使わざるを得ない。だ」
「使わざるを得ない?」
「一から説明するから疑問があったら終わったあとに聞いてくれ。元々、日本に退魔士という存在はいなかった。簡単にいえば、陰陽師の家系。その落ちこぼれ達が結束して集まってできたのが退魔士の原型だ。才能がなく、家を追い出されたり、自分から出ていったりした者達がW.E.Oの力を借りて退魔武装を手にし、ようやく異界の化け物と戦えるようになった、それが退魔士だ。」
「・・・・だとすると、退魔士は全員元は陰陽師だったということですか?」
「昔はな。今は昔よりも研究が進んで退魔武装も性能が格段に上がっている。だから訓練さえ積めば一般人でも退魔士になれる。俺も一般組だ」
「それは知りませんでした・・・」
今の俺の最後の言葉にはだと思うがつく。記憶喪失から目覚めて自身の霊力を測った時の数値は一般人レベルだった。陰陽師の家系だったのなら数値は一般人の数倍以上あったはずだ。
「次は名称の違いだな。これは俺も詳しくない。知ってるのは異世界を隠世と呼んでいるのは知っているが・・・適当に異世界にまつわる単語を言ってってくれないか?」
「異世界にまつわる・・・えーと、妖怪、妖、物の怪、餓鬼、鵺、後は・・・」
「その位で充分だ。今、黒宮が言った単語を退魔士機関の名称に変えると、妖怪、妖、物の怪を魔物と。餓鬼はゴブリン、鵺はキマイラ、そう呼んでいる。俺が想像しているのが正しければな」
「なるほど・・・」
黒宮は興味深そうに何かを思案している。その間に後ろに迫って来ていたゴブリンを蹴散らし、黒宮に向き直る。ちなみにゴブリンは緑ではなく少し黒ずんでおり、見た目は餓鬼の方が近い。
「まあ、これは退魔士と協力する時に混乱しないように教えただけだから。今は大丈夫だ。次に行こう。次は──────」
それから2時間ほど経っただろうか。黒宮には退魔士の事はあらかた教えた。黒宮からも陰陽師について教えてもらったが、大体知ってる内容だった。これまで立ちっぱで話していたから、疲れているかな?と思って黒宮を見るが全くそんな様子はない。流石当主様、莫大な霊力のお陰で疲れ知らずのようだ。うらやましいね。
「座学はこんなもんかな」
「・・・・」
黒宮は俺が話した内容を反芻している。今話した情報の整理をしているようだ。一気に話し過ぎたか?いや、俺なら出来ないが黒宮なら記憶出来るはずだ。
「黒宮~大丈夫か~?」
目の前で手を振っても気付く様子はない。よほど集中してるのか、目を瞑り微動だにしない。
「あっすみません。考え事を・・・」
「大丈夫大丈夫。こっちこそごめんな。少し情報量が多かったろ」
「いえ、大変勉強になりました」
「ならいいんだが」
座学という名の情報交換を終えたわけだが、これから何をすればいいだろう?今は大体午前12時過ぎ、一旦休憩して飯でも食うか。
「修行は一旦中止だ。昼休憩を取る」
「休憩とかあるんですね。私はまだまだ大丈夫ですよ?」
「体力はあっても休憩は取る、当たり前だろ。スパルタ教育は俺に合わん。時代にもな」
「私、別にパワハラを訴えたりしませんよ?」
「そういう問題じゃなくてだな・・・もういいやめんどくさい。それより、俺今からファミレスか何かで飯食うんだけど、黒宮はどうする?」
「私は・・・」
何かを迷っている様だが、何を迷っているのだろう?考えられるのは・・・黒宮の手持ちに弁当やその類いの物はない。つまり昼食はない。買って来てほしいって事か?いや、無いな。黒宮なら買って来てと頼むより、無いなら飯を抜くと思う。後は着いて行きたいけど迷ってる?無くはないか。なら
「何も無いなら一緒に食おうぜ」
「ですが・・・」
元から可能なら一緒に食うつもりだったが、言葉足らずだったようなので、もう一度はっきり言う。それでも黒宮の反応は芳しくない。
「実は・・・そのファミレス?に入った事がないんです・・・」
何だ。そういう理由か。俺も最初に行った時は何が何だか分からなかったな。それどころか普通の飲食店も行ったこと無かったし。まあ、それは置いといて。一般的にファミレスに行ったことのない高校生は珍しいと思う。一人でもいいが、友達とだったり小さい頃家族と一緒にだったりで一度は行ったことがあると思われる。行ったことがないとなると考えられるのはいくつかあるが、一番可能性が高いのはおそらくこれだ。
「それは、家の仕来たりとかそういうの?」
「・・・はい」
黒宮は顔を伏せてしまった。恥ずかしがってんだか落ち込んでんだか知らないが、黒宮・・・これじゃ分かりづらいか。彼女は何も悪くないのに。悪いのは黒宮家のジジイとババアだ。どうせ庶民の店は行くなとか時代錯誤も甚だしい事を言ってんだろうな。旧態依然の陰陽連を体現するように。本人の自由にさせろと言ってやりたいところだ。
「黒宮、お前はどう思ってる。行きたいか?行きたくないか?」
「・・・・」
「行きたい」
それは今にも消え入りそうなか細い声だったが、その微かな音の振動も俺の耳は漏らさ拾い上げた。確かに聞こえた行きたいという声、きっと彼女のなかで葛藤をしているのだろう。家の仕来たりを守るべきなのは分かってる。でも・・・そんな声が聞こえてくるようだ。そんな中でポロリとこぼれた言葉。俺はそれを本心だと信じる。
「よし!師匠命令だ!ファミレス行くぞ!」
「えっ・・・えっ?」
「入って来たのはこの辺か?ほら!とっっとと向こうの世界に行った行った!」
「はっ、はい」
黒宮は促されるまま為されるがままに次元を渡り元の世界に帰っていった。穴が閉じていく中もう一言付け足しておく。
「直ぐに行くから分かりやすい所で待っててくれ!」
次元の穴が完全に塞がる。流石に聞こえてたよな?まあ、聞こえてなくても周辺にはいるはずだ。俺も直ぐに行かなきゃな。俺は再び次元門に入り元の世界に帰還する。その後ゴブリン5体の討伐報告を済ませてエレベーターで一階に上がる。さて黒宮はどこで待っているだろうか?そもそも待っててくれるか?心配になってきた。
奥の部屋から入り口の方へ行くと朝はそれなりにいた市民の皆様が殆どいなくなっていた。昼過ぎだからかな?その影響でソファーに座っている人物が良く見える。
「俺も分かりやすい所とは言ったけどさあ・・・」
「はい。ここが一番分かりやすいと思ったので」
ソファーに座っていたのは黒宮だった。待っててくれたのは嬉しいけど市役所1階のソファーは目立つって!退魔士関係者も多いって話したばっかじゃんか。まあ一回で全部は覚えられないか。気長にやってこう。
「じゃあ、行くぞ」
「はいっ」
俺達は市役所の自動ドアを抜け、そのままファミレスへと歩き出した。
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