第17話
市役所からしばらく歩いて俺達は駅前に到着した。理由は勿論、この前白銀と来たファミレスに行くためだ。正直、白銀が食べていたステーキを食いに来たといってもいい。あれめっちゃうまそうだったからな。
「着いたぞ」
俺が店に視線向けるとと黒宮は
「あの店ですか!さっ行きましょう!」
めっちゃテンション上がっていた。あれ?黒宮さん?もう吹っ切れたんですか?・・・まあ、毒親ならぬ毒祖父母の言うことなんか聞く必要はない。黒宮は高校生なんだから高校生らしい振る舞いをして何の文句があるというんだ。
「はいはい」
俺は黒宮に急かされるように店に入った。黒宮は俺に隠れるようにずっと後ろにいる。落ち着かないんですけど・・・店の中を見ると、ラッキー、12時過ぎなのに空いてるわ。まあ店の方からしたらアンラッキーかもしれないけど。
「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」
「二人です」
「かしこまりました。席にご案内致します。こちらへどうぞ」
店員にスムーズに案内された席は入って突き当たりの場所だった。奥が普通のファミレス席、手前が椅子だ。他の所は空いてないのかと思い周りを見回すと丁度ファミレス席同士の所は客で埋まっていた。黒宮を奥に座らせ自分は椅子に座る。
「ここが・・・!」
黒宮は知らない場所に来たかのようにキョロキョロしている。いや知らない場所だったわ。落ち着かない黒宮にメニュー表を渡す。どうやらこの店は注文はタブレットだが使い方の分からない人達のためにメニュー表も置いてあるらしい。そして直ぐに席を立ち自分は水を取りに行く。コップに水と氷を入れ、水の入ったコップ2つと紙のおしぼりを2つを手に取り席に戻る。
「水とおしぼり持ってきた」
「ありがとうございます」
「・・・ゆっくり決めていいからなー」
黒宮は返事はするが反応が薄い。顔を見るとめちゃくちゃ真剣な顔をしてメニューを選んでいた。俺はそれを邪魔しないために、既に食う物は決まっているのにも関わらずパラパラとメニュー表を繰り返し読んでいた。へー春の期間限定メニューかあ。多くの日本人は期間限定の4文字に惹かれる性を持っている。俺もそうだ。だが、おれは最初からサーロインステーキと決めていた。初志貫徹、一度決めたことは貫き通すんだ!・・・と格好つけて言っても所詮何食べるかの話なので全く格好はつかない。むしろダサいまである。
「決まりました・・・!」
「あいよ。じゃあ注文するぞ」
タブレットを操作しメニューを注文する。俺がサーロインステーキセット、黒宮は定番のクリームパスタ、それにドリンクバー2つだ。
「店員さんが来ませんね?」
「もう注文終わったからな。持ってくるだけだよ」
「そうなのですか」
黒宮は何やらメモを取っている。ファミレスの手順とかかな?
「それよりドリンクバー頼んだからジュース入れに行こうぜ」
「ドリンクバー・・・聞いたことあります・・・確かジュースをどれだけ飲んでもいいとか」
「まあ、そんな感じ。但し常識の範囲内でな」
等と話ながらドリンクサーバーに来た俺達、俺はコーラ入れたんだが、ここでも黒宮は考え込んでいた。コーラの炭酸抜けちゃうよ。
「黒宮、ひょっとしてジュースもあんまり知らない感じ?」
「はい・・・」
「最初は果汁ジュース系でいいんじゃないか?」
「分かりました」
他の客がこっち来てたのを見て、邪魔になると思い黒宮の分も俺が決めて席へ戻る。席につくと、ついでに取ってきたストローを黒宮に渡して自分は普通に飲み始めた。黒宮は渡されたストローでオレンジジュースを飲み
「これ、おいしいです」
と、驚いていた。これは、あれだな・・・俺は先ほどから疑問に感じていた事を聞く。
「黒宮ってもしかして水とかお茶とかそんなんばっか飲んでた?」
「はい・・・」
やべっ。ちょっと言い方間違えた。黒宮少しへこんじゃってるじゃねーか。
「変な意味じゃなくてな・・・実は俺も少し前まで水しか飲んでなかったから、同じだな。と思っただけなんだ」
「本田さんがですか!?今は全然そんな様には見えないです・・・」
「まあ、色々あったんだよ。色々」
「それは、聞いて───────」
「お待たせいたしました。こちらサーロインステーキになります」
「こっちです」
「こちらシーフードトマトクリームパスタになります」
「それはあちらに」
黒宮の最後の言葉は店員の声に上書きされた。おそらく、聞いてもいいものか?という問いだと思うが、答えはイエスでありノーだ。話すぶんにはいい、というか当時者何だからはなすべきだ。だが今じゃない。今の黒宮は自分の事に集中すべきだ。話したら黒宮は気になるだろうし、話して脳のリソースがそっちに何割か持ってかれるのは避けたい。
「料理も来たし食おうぜ」
「・・・はい」
「いただきます」
俺は食器を手に取らず黒宮を眺める。黒宮は初めてにしてはきれいな所作でパスタを食していく。一口食べる度に「こ、こんなに美味しいものが・・・!」だの「んっ美味しい」だの感想を述べている。ふと黒宮がこちらを見る。黒宮は自分を見つめる俺に気付いた様だ。
「何か可笑しいですか・・・?」
そう言いながら恥ずかしそうにしている。自分が食べる姿を俺が微笑して見ているのに気付いたらしい。
「いや、何にもおかしくない」
「なら何故そんな表情をしているのですか?」
「そうだな・・・これが黒宮の本来の表情というか性格というか、自然体なんだろうって思ってな。年相応にはしゃいで普通に笑って、そんな普通の女の子。今の黒宮はそう見える。俺はそういう黒宮の方が好きだな」
「・・・そう、ですか・・・ありがとうございます」
黒宮の声は段々小さくなっていき、最後の言葉はよく聞き取れなかった。そして黒宮は顔を伏せてしまった。俺からは黒宮の表情は窺いしれない。だが良く見ると黒宮の耳が赤くなっている。黒宮は雪肌なので分かりやすい。・・・つまりどういうことだ?照れてるってことでいいのか?分からん・・・分からんし顔を上げないからとりあえずステーキを食べる事にした。冷めちゃうし。冷めたら固いし。
ナイフで一口大に切り、サイコロの様なそれを口に運ぶ。これは!・・・普通のステーキですね。値段相応のステーキ。それ以下でも以上でもない。これならハンバーグ頼めば良かったか?白銀が食ってた時はうまそうだったのになあ・・・隣の芝生は青いってことか。それにしても白銀の奴はこれ10個食ってたけど、改めて考えるとすげーな。量もだし顎もやられそうだ。そんなに貧乏高校生って金欠なのか?高校行ってないからわかんねーや。
パパパッとステーキを食い終えた俺が黒宮の方を見るとパスタを黙々と食べていた。
「急がなくていいぞ。ゆっくり食べろよ」
「いえ、師匠を待たせるわけにはいきません!!」
しまった。いつものペースで食べたから直ぐに食べ終わって黒宮を待つ感じになってしまった。黒宮も待たせたら悪いと思って早く食べようとするだろう。丁寧な所作ながらもスッスッとハイペースでパスタを口に運ぶ黒宮。は、速い!ものの数十秒で完食してしまった。何だ?近頃の高校生はバケモンばっかか?
「ごちそうさまでした」
「お待たせしました」
「急ぐなっつったのに・・・」
「師匠を待たせては弟子の名折れですから」
さっき顔を伏せた後くらいから黒宮の様子がおかしい気がする。今まで普通だったのに師匠って呼んでくるし何かテンション高いような・・・何かあったっけ。黒宮に今の黒宮の年相応な表情が良いって言ったんだ。でもそれでテンション上がるのはおかしくない?うーん、分からん。世の中分からん事ばかりだ。
食い終わって長居するのもアレなので席を立ち会計を済ませた。今度は足りないなんて事もなくスムーズに店を出られた。そして会計してから気付く。
「そういやスープ飲んでなかった・・・」
ステーキセットにはスープバーも付いてくる。それをすっかり忘れていた。まあ、また来ればいいか。
「すみません!お代いくらでしたか!?」
黒宮が財布を取り出す。一万円札を掴み一万円札の顔が顔を出す瞬間、黒宮を手で制した。
「待て。ここは出させてくれ」
「しかし、自分の食べた分は・・・」
「成人が子供に出させるわけにはいかねんだよ。外聞が悪いだろ。ここは俺のためにも奢られてくれ」
「そういうことなら・・・」
黒宮は納得してくれたようだ。これで払わせていたら、「最低・・・」「クソ守銭奴」「あっはっっは、さすが本田君だ。君はそれでいいんだよ」なんて謗りを受けるに違いない。ちなみに最後のは松崎先生の言葉。内容は誹謗するものではないが、彼の俺に向けての言葉は全て誹謗中傷だと思ってるからだ。
「さて、これから食後の休憩を挟んで午後の修行を始める訳だが、その前に一つ言っておくことがある」
「何でしょうか・・・」
俺が真面目な雰囲気になったのを感じてか黒宮は次の言葉を緊張の面持ちで待っている。
「もし何かの拍子でお前の祖父母にバレた時、その時は無理矢理連れて行かれたと言え。俺の名前も出していい。いや、出せ」
これはファミレスに来る前から考えていたことだ。事実、俺が無理矢理連れて来たようなものなので嘘でもない。
「それは・・・師匠に迷惑が・・・」
黒宮はここでもまた遠慮した。黒宮は長年の積み重ねによって自分が耐えればいい、そうすれば周りに迷惑をかけないと思ってしまっているのかもしれない。それは違う。
「それは違うぞ、黒宮。俺は迷惑だなんて欠片も思っちゃいない。むしろわざと白状てくれ。そうすればそのジジイババアと話が出来るかも知れねーからな」
「師匠・・・・ふふっ分かりました。バレたら話しますねっ」
「おう。それでいいんだよ」
何が楽しいのか分からないが黒宮は凄く楽しそうだ。まあ、それは良いことなんだけど・・・こっちとしては理由が知りたい。まさか本人に聞くわけにもいかないしな。しょうがない、分からない事があったらわらわに聞くがよいでお馴染みの咲耶さんに頼るしかねーか。というか咲耶くらいしか相談相手いないし・・・
「よし、じゃあ行くか!」
「はい。師匠!」
楽しいお食事会を終えた俺達は歩きだす。あの朽ち果てた赤き世界へと誘われるように。
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