第18話
「さあ、修行を再開するぞ」
俺達はファミレスで昼食をとった後、1時間ほど休憩してから再び異世界に赴いた。
「あの、修行とは関係ないと思うんですけど質問良いですか?」
修行を始めようとした矢先に、黒宮が恐る恐るといった様子で手を挙げた。
「勿論だ。何か疑問に感じた時は直ぐに質問しろ。疑問を抱えたまま修行しても集中出来ないだろ?」
「聞きたいことがもう一個増えました・・・」
「何だ?答えられるものなら答えるぞ?」
「その、義手について、聞いてもよろしいのでしょうか?」
「これか。別に構わないぞ」
黒宮が気になっていたのは義手のことか。だとしたら2回目、元の世界会った時から疑問に思ってたかもしれない。なるほど、得心が行った。だからファミレスで右腕に視線を感じたんだ。まあ、これは隠すほどの物じゃないし教えても問題ないだろう。
「向こうとこちらで着けている物が違いますよね?」
「よくわかったな。元の世界では高性能な義手に人工皮膚を着けている。この義手は戦闘用ではなく日常生活用だな。よくは知らんが静音モーターとか筋電位センサーとかパターン認識?がどうにかこうにかなって最終的に無音で違和感のない動きになるそうだ」
「・・・・」
黒宮が俺の説明を聞いてか笑いを圧し殺している。
「何かおかしいこと言ったか?俺」
「どうにかこうにかって・・・すみません、言葉を選ばずに言うとバカっぽいです」
バカっぽい、だと?どうにかこうにかって凄い使いやすいから使ってたけどバカっぽく思われるのか?・・・よく考えたらバカって思われても別にどうってことなかったわ。バカは本当だし。
「そうか。以後気を付けよう」
「そのままで良いですよ!ちょっとかわいいですし」
「まあ、そのままでいいなら俺も楽だがな・・・」
俺は進化する男。この前とは違い、かわいいと言われても何も感じなくなったのだ。・・・嘘です・・・今でもむず痒い感じがします。ただ言葉には出さなかった。それだけでも成長しているのだ。俺は成長する男。
「それで、もう一つできたってのは何だ?」
「それです、それ。言葉遣いです。ファミレスのときはもっとフランクでした」
「それは・・・まあ、なんだ・・・」
「はい・・・」
理由?ねーよそんなの!いや、正確にはあるけど下らない理由だ。出来れば話したくは無いが黒宮は純粋な目でこちらを見てくる。くそっ、尤もらしい理由が思い付かない・・・
「実は・・・その方が師匠っぽいかなと思いまして・・・ええ、それだけの理由です」
「そんな理由だったんですか!?てっきり口調を変えることでオンとオフを直ぐに切り替えるとか普段の口調だとふざけてるように思われるからとかだと思ってました」
それだ!そう言えば良かった!黒宮・・・天才だったか。
「それだそれ。俺はそれを言いたかったんだ!」
「ですが先程は・・・」
「黒宮」
名前を呼び無言で首を横に振る。黒宮、そうじゃないんだと、違うだろ?と言わんばかりに。黒宮はそれに気付いた様で、
「そ、そうだったのですか!さすが師匠です!!」
と無理矢理なおべっかを使った。・・・これパワハラにならないよね?
「冗談は置いといてぶっちゃけどっちがいい?難しい質問だと思うけど。俺はもう混乱してどっちがどうだとか分からないわ」
「キャラクターを演じている、ということですもんね・・・」
黒宮の何気ない一言がグサッと心に刺さる。キャラを演じてたとかやめてくれよ、恥ずかしい。でも間違ってない。俺は確かに演じてた。キャラクターではなく、前の自分を。黒宮と初めて会った時の自分を。
「素の本田さんがいいと思います。それこそ修行をつけるのに集中し辛いかもしれません」
「黒宮・・・ありがとう。分かったよ。こんな感じで行くわ」
「はい!師匠のやり易いようにやってください」
師匠のやり易いように、か・・・なんてできた弟子なんだ・・・!そもそもまだ師事を受ける側にいる俺を、このダメダメな師匠を立ててくれるなんて。よーし!師匠頑張っちゃうぞ~!
「早速本格的な修行に入るぞ!まずは守護霊を呼び出せ!」
「・・・私、守護霊を呼び出せないんです・・・」
「何」
「いくら呼び掛けても、返事が無くて・・・そのせいでお祖父様とお祖母様に出来損ないと何度も何度も・・・!」
しまった!地雷だったか!でもこれは強くなるため以前の話、陰陽道名家当主としての根幹に関わる問題だ。避けては通れない。地雷原でも突き進むしかない。その先にあるセーフティゾーンまで。
「落ち着け・・・って言ったところでだよなあ」
「あっ!餓鬼だ!黒宮の方に向かってるぞ!!」
「えっ!?」
黒宮は慌てて俺が指差す方向、自分の後ろに振り返る。勿論、餓鬼なんかいない。黒宮の気を引く為の嘘だ。
「ひどいです本田さん!!そういう嘘は止めてください!!」
「悪い悪い。見間違いだったわ」
「全く、何故そのような嘘を付くのですか!」
「気を引きたかったんだよ。今はそんな話より俺の話を聞け」
「そんな話?私がどれだけ────」
「それを見返してやろうぜって話だ。修行も元々そういう目的だろ」
「それは・・・そうですが・・・」
黒宮は急激にトーンダウンした。そんな話は後で謝るとして、今は黒宮に希望を持たせる。
「俺が協力すれば守護霊を引きずり出せるぞ」
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