第30話
3人の反応は三者三様だった。
咲耶の場合。「わらわは元々家に遊びに来たのだから当然じゃ」と言い放ち鍵のかかったドアを合鍵でガチャリと開けて入っていった。合鍵持ってても入らなかったのは家主の俺がいなかったからなのか?
白銀の場合。「へー、結構広いんですねー」と言いながらズカズカと中に消えていった。まあ、お前はいいよ。約束してたし。でも本人が言うのもあれだけど一応人様の家だからさ。そこら辺気を付けた方がいいと思うよ。・・・と思ったけどこれ多分俺限定の失礼ムーブだわ。
黒宮の場合。「私みたいな者が入っても大丈夫なのでしょうか!?」
「たかが家だぞ。気にすんな」
「しかし、私は・・・」
「まだ、2時ちょっとだぞ。門限までまだまだあるだろ。それに、分かったろ?操り人形みたいに従ってても良いこと無いって」
「それはそうですが・・・」
「じゃあいいじゃん。他にも何かあるのか?」
「私は女子高校生なのですが、そこは大丈夫なのでしょうかという意味で・・・」
「た、確かに!?」
スマホで「未成年 家に入れる」と調べてみたが罪になる場合があるとしか分からなかった。つまりはならない場合もあるって事だ。というか既に白銀が入ってるしな。もう今更か。いや、同姓か異性かで変わったとも書いてあったような・・・まあ、いっか。
「大丈夫だってよ。ほら、入った入った」
足が止まっている黒宮の背中を押して家に入った。そして先に入っていた二人と一緒にリビングのL字型ソファーに適当に座ってもらった。。
「確かに一人暮らしにしては広いかも」
黒宮が内装を見回しながら呟く。俺は来客用の飲み物と何かつまめる物を冷蔵庫と棚から取り出しつつ答えた。
「機関から用意された家だからな。文句は言えないが流石に一人だともて余す広さだよ」
「退魔士の組織は家まで用意してくれるんですね」
黒宮が目を輝かせながら言うがそんなに良いもんじゃない。向こうにとっても都合がいいからしているだけ。住居を提供することで居場所を把握しやすくなる。もう外したが家中に仕掛けられている盗聴機、隠しカメラもある。これは家の中の話だがそれ以外にも至るところに機関の目はある。それによって構成員の私生活をも監視できる。機関がそうするのは全て情報漏洩を防ぐためだ。
「まったくどっから金が出てんだか・・・」
そうぼやきながらソファーの前のテーブルにペットボトルのジュースとお茶、それとコンビニに売っていた和菓子詰め合わせパックから適当に選んでお盆の上に入れたものを置いた。
「すまん、こんなもんしかないけど勘弁してくれ。何せ3人来客なんて想定してなかったからな」
黒宮と白銀に軽く謝罪と言い訳をする。実際のところ引っ越ししてから1ヶ月経つというのに来客用にも何にも揃えてなかった自分の責任である。だが、世の男性に聞きたい事がある。男の一人暮らしでお茶っ葉と急須なぞ買うだろうか?俺には到底必要には思えない。今度役所の先輩に聞いてみることにしよう。
周りを見ると4人掛けL字型ソファーの広い方に白銀、黒宮、咲耶の順で座っていた。なので俺は選ぶ余地もなくL字の短い部分に相当する一人用の狭い場所に座った。そして座るやいなや早速口を開いた。
「さ、話の続きをしようか。どこからだっけ・・・ああ、初めての顔合わせの奴もいるから紹介だったか」
自ら進行をかって出た俺に3人は特に反対は無いようでこのまま進行をする事になった。
「もうめんどいから俺から他己紹介させてもらう。えーとまず咲耶、はい起立」
「何故立たねばならぬのじゃ?」
そう言いながらも素直に立ち上がり横の二人の方を向く咲耶。
「彼女は神田咲耶。以前は京都で機関のお偉いさんをやっていたがつい先日この街に異動して来た。こんななりをしているが歴とした25歳の女性で俺の親友だ」
「よろしく頼む」
咲耶は両手を腰に手をおきながら横柄な態度で話す。だが本人の身長のせいでえっへんという効果音が聞こえてくるくらいに威厳もない。
「こ、個性的な方ですね」
「白銀君、失礼ですよ」
それを見て白銀は何て言ったらいいのか分からず濁した言い方をしたものの、その本心がバレているため黒宮に怒られていた。そういえばこの二人が話すところを直接見るのはこれが初めてな気がする。なんか新鮮だ。
「はい次、白銀起立」
「やっぱ立つんすね・・・」
そういう白銀も渋々立ち上がって2人の方を向く、訳ではなく微妙に黒宮から視線を外している。分かるよ。好きな子の顔を見るのは恥ずかしいもんな。
「こいつは白銀翼、西高に通う2年生だ。色々あって先ほど退魔士候補生になった」
「白銀翼です。まだ訳も分からずといったところです。なので色々と教えて欲しいです。よろしくお願いします」
白銀は深く頭を下げている。
「うむ。よろしくじゃ」
「まさか白銀君が退魔士になってたなんて・・・」
それに対して咲耶は腕を組み何度か頷いている。黒宮は思ったよりは衝撃を受けていない。さっき会った時の会話から予想はしていたのだろう。
「はい、最後、涼華起立」
「はい!」
黒宮は俺の軽いおふざけでも素直に聞いてくれる。流石だね。
「この子は黒宮凉華、白銀と同じ西高に通っていてクラスメイトだ。名前の通り陰陽道の名家黒宮の者で現当主でもある。後俺の弟子」
「黒宮凉華です。よろしくお願い致します」
いつもより硬いな。白銀と咲耶が居るからかな?でももう遅いと思うけどね。出会い頭に「師匠!」とか結構大きい声出してたし。それとも緊張してるのか・・・?
「よし、他己紹介は終わったな。じゃあそれぞれ聞きたい事とかあると思うしこっからは雑談タイムにしよう」
その言葉を皮切りに雑談という名の質問攻めタイムが始まった。途中までは偏りもなく全員が全員に話しかけたり質問を投げかけたりしていた。しかし雑談開始から一時間程経った頃だろうか?状況は一変した。何故か俺への集中砲火が始まったのだ。それだけなら知らぬ存ぜぬで通せていたのだが、事情を知っているであろう咲耶は何故か二人のアシストしてくる始末だ。俺は直ぐに抵抗を諦め自白剤でも打たれたかのように全てを話してしまったのだった。
「────────────それで今に至るという訳だ」
「「・・・・」」
俺が全部話終えた数秒。周りの時間はまるで時が止まってるかのような静寂だった。そりゃ反応に困るわな。さらに何秒かおいて二人は止まった時間から抜け出してきた。
「そんな・・・」
「普通じゃないと思ってたけど、そうい事だったのか・・・」
一気に話きって疲労感を漂わせている俺を横目に3人は会話を続けている。俺はそれをソファーにもたれ掛かりながら聞いている。なんか顔合わせで軽く話して終わるかと思ってたんだけど質問攻めに移ってそっから自白合戦みたくなっちゃたな。合戦て言うか主に俺だけど
でもよく考えたら俺に集中するのは納得できる。白銀は咲耶は初対面だし軽く話して終わり。黒宮には陰陽師の件を軽く聞いて終わった。黒宮に中々話しかけられないのだ。まあ白銀は今日が激動の1日過ぎたししょうがない。黒宮は最初白銀に事情を聞いていたが本人もよく分かっていないので会話は長続きしなかった。咲耶とは同じ女性同士、しかもどちらも俺と近い位置に居る人物だ。歴も長く年上ということもあり咲耶先導で話が進んでいった。
これが問題だった。黒宮の「本田さんが18歳の時に会ったということは高校生の時に会ったという事ですか?それとも卒業した後にですか?」という質問に「わらわも祐也は高等学校に行っておらぬ。おぬしらも聴いているじゃろ?祐也の記憶喪失の・・・あ、」という返答。最後のあ、は俺がアイコンタクトで睨んでいたから。でも確かになぁ・・・
俺は3人の会話の区切りに言葉を差し込む。
「凉華、白銀。今まで黙っていて済まなかった。さすがに軽々しく話すには重い事情だと思ってな」
「謝る必要はありません!私はししょ、本田さんが話したいと思った時に話して頂ければそれで大丈夫です」
「黒宮と同じですね。こんな事話すには言い触らさないと確信できる信頼関係が必要だ」
「ありがとう。少し気が楽になったよ」
一区切りしたところで壁掛け時計の時刻を確認する。時刻は16時半過ぎ。同じく時計を見ていた白銀が
「やべっ5時からセールやってるんだった!!」
の一言でこの顔合わせの会はお開きとなった。その後黒宮を家の近くまで送り、家に残った咲耶に謝られてそれを許した。といっても謝られる事など何もないし、許すとかいう立場じゃないが。その後おそらく執事であろう人物の迎えが来た咲耶を玄関で見送り、家には俺一人となった。
「はー、疲れた」
ソファーに横になる。ふかふかのソファーが俺を包み込むように沈んでいく。それと同時に俺の意識も段々と沈んでいった。
「んあ?」
スマホの着信音で目が覚める。寝惚け眼を擦りながらスマホを点けると既に午後10時過ぎ、誰からの電話かと思い画面を見ると黒宮涼華の文字が。黒宮がこんな時間に何の用だ?普段は気を使ってるのか9時以降は連絡してこないのに。何か緊急の用件だろうか。俺は通話ボタンを押した。
「もしもし、凉華何か用か」
『深い時間にすみません』
「別にいいけど、どうした」
『えーと、全て話すと少し長くなるのでかいつまんで話します』
「おお」
黒宮の話し方から緊張が窺える。少なくとも良いことではなさそうだな。
『師匠のお陰で大鴉様を失敗せずに呼び出せるようになりました。それで私自身現状を変えたいと思いましてお祖父様とお祖母様に見ていただく事にしました』
自分から動くのは良いことだ。私はここまで成長したと見せつける訳か。ただこの電話越しの雰囲気からして駄目だったんだろうな・・・
『二人の反応は・・・あまり、』
黒宮が言葉を詰まらせてしまった。その先の言葉は自分が惨めに感じるし何より師匠である俺に申し訳が立たないから口に出すのを躊躇ってしまっているのだろう。
「いい反応は貰えなかったってことか」
『・・・はい』
「まったく見る目のねえ奴らだな。俺達がどんなに凄い事をやってるかまるで分かっちゃいない。なあ?凉華」
『ふふ、そうですね』
良かった。笑ってくれた。これで少しは元気を取り戻せたかな?それは分からないけど話し易くはなったと思う。
「それで、本題は何なんだ?」
『実はその時に大鴉様が師匠の名前を出したんです』
「俺の名前?何故?」
『大鴉様のお考えは理解できませんが何やらお祖父様方と師匠を対立させたいような言動でした。「お前達が成し得なかった我の召喚を成功に導いた凄腕がいる」と。「その男の名は本田祐也という退魔士だ」とも』
「何考えてんだあのデカカラス・・・それで、それを聞いた奴らの反応は?」
『物凄く怒ってました。怖くて黙っていたら私に連れてくるようにと命令を・・・どうしましょうか・・・?』
どうしましょうって答えは決まってる。
「勿論行くさ。そっちの好きな日程でいいと伝えてくれ」
大鴉に何の思惑があるか知らないがそんなものは関係ない。一度話したいと思ってたんだ。これは絶好の機会、見極めさせてもらうぜ。黒宮家。そして黒宮のジジババ共!!
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