第33話
黒宮麻紗美さんと会うにあたり、二人で話があるからと黒宮には市役所で待ってもらうことにした。黒宮の話では入り口を出たら直ぐに見える位置にいるらしいけど・・・見当たらないな。どこかに移動したとは考えにくいし少し待ってみるのもいいが、面倒だ。探すか。
俺は意識を集中させ辺りの霊力を探る。分家とはいえ陰陽師、霊力もそれなりには高いだろう。見つけ易いはずだ。そう思っていた通りに直ぐに見付かった。入り口から少し離れた所に生えている木に隠れるように立っている。何のマネだか知らないが取り敢えず話してみないことには始まらない。俺は小走りでその場へ一直線に向かい、傍目から見れば虚空に向かって話しかけた。
「初めまして。黒宮・・・じゃなくて凉華さんから話は聞いてると思いますが、本田祐也です。よろしくお願いいたします」
話しかけると彼女は
それにしても妙なのは見た目は俺の好みのゾーンのどストライクのはずなんだが、この人に対してはそういう感情は沸いてこないという点だ。好意的には見ている。だけどその好意は色欲や恋愛のそれじゃない。じゃあなんだと言われると言葉は出てこないが。
「お初にお目にかかります。黒宮麻紗美と申します」
麻紗美さんが軽く頭を下げる。釣られて俺も頭を下げた。
「それで、これの理由は教えてくれるんですよね?」
「はい。失礼は承知の上で申し上げますと貴方の実力を測っていました。凉華ちゃんが言うほどのものかどうかを」
今何か聞こえたけどそれは次聞くとして・・・実力を確かめるねぇ・・・黒宮が無意識にプラス方向に話を盛ってたりするのかもな。大鴉も凄腕とか言ってたらしいし。でも現実は無防備に商売敵の家に入ってボコボコにされて帰ったという事実がある。それにジジババは話をマイナス方向に盛っているだろうからなあ。麻紗美さんも混乱しているんだろうな。現実の出来事と黒宮の話のどちらを信じるかを。だからこそ自分で確かめようとした。こんなところだろう。おそらく。多分。きっと。
「その件は誠に申し訳け・・・」
俺が考え事をしているのを怒っているとでも捉えたのか、直ぐに謝ろうとする彼女を静止した。
「俺、謝られるような事されましたかね?記憶に無いので謝られても困りますよ」
「しかし・・・」
「凉華の為でしょう?彼女が俺の事をあなたにどう話したのかは知りませんが、彼女の師匠になった事は聞いてますよね?」
麻紗美さんが頷く。
「陰陽師は常に命の危険が付きまとう役職です。下手な指導は逆に身を危険にさらす可能性もある。だからあなたは俺を試した」
「半分正解です。理由はもう一つ、凉華ちゃんを信じたかった。私は彼女が嘘を言っているとは思っていません。しかし黒宮家での騒動もまた事実。だとしたら黒宮家では実力を偽っていたのかも知れない。そう思い至り自分の目で真実を知ろうと貴方にある意味挑戦状を叩きつけましたが、完敗です。お見事でした」
そう口にする麻紗美さんの目は真剣そのもので到底嘘をついてる様子など微塵も感じられなかった。本当に黒宮を大切に思っているのだろう。黒宮が壊れなかったのはこの人が側にいたからかもしれない。
「なるほど、そういう理由でしたか。凉華さんを凄く思っているのが伝わって来ます。先ほどの話からも見るにちゃんづけするほど仲はいいみたいですね」
「え!?出ちゃってましたか!?」
「はい、はっきりと」
「何時もはこんな事は無いんですけど・・・何でしょう?本田さんとは初対面な気がしなくて安心してしまうのかもしれませんね」
なんてセリフを何気なく発する麻紗美さん。男なら自分に好意があるのかとか考えるかもしれないが、何故かそんな感情も抱けない俺はただただ自分が恥ずかしかったので無理に話題を逸らした。
「あーそうだった!話したいことがあったのを忘れてた!こんなところで立ち話もなんですしし、場所を移しませんか?」
「構いませんが一つだけ、市役所内以外でお願いします」
「・・・・なるほど。分かりました。といっても場所を用意出来ないのでその辺の公園とかになりますけど大丈夫ですか?」
陰陽師の麻紗美さんからしたら市役所は敵である退魔士の巣窟だもんな。警戒はするか。一応地上階には何にもしてないから大丈夫だけど職員とは会うしな。必要な警戒心だ。凉華?あの娘はまあ、うん。これからの課題ってことで。
「私はどこでも。しかし周りに聞かれてもよろしいお話なのですか?重要な話だと聞いておりましたが」
「あー、そうですね。まあ人が居ないときに話せば大丈夫でしょう」
二人で歩きだして数分、近場の公園に着いた俺はポツンと置かれたベンチに座り込んだ。麻紗美さんは立ったままだ。それもそのはず寂れたベンチはゴミや砂利などで汚れており、とても座れる状況じゃないのだ。俺は座ってるけども。
「さあ、話を続けましょうか」
「・・・・・はい」
麻紗美さんは何か言いたげだが気にせずこちらの話をしよう。細かい事を一つ一つ気にしていたら日が暮れてしまうからな。
「大事な話というのは凉華さん・・・いや凉華の事です。言葉を濁さずに言えば俺は凉華を助けたい」
「・・・・」
麻紗美さんは無言でこちらを見つめる。その目に俺はどう映っているのか?その心境は何を思っているのか?それを窺い知ることは神でもない限り不可能だ。だがせめて好意的であることを願う位はいいだろう。
「凉華が祖父母にDVを受けている事は俺も知っています。少しですが話を聞きましたから。それに黒宮家に行った事でその祖父母の性格や人となりがなんとなくですが見えてきました。ですがそれだけです。DVの証拠も本人の意思も対策も何もかもが足らないんです」
「・・・だから私に情報を提供しろと?」
今の麻紗美さんの言葉に少し棘を感じた。裏切り者になれと言っているようなものだし彼女が怒るのも当然だ。それでも俺は話続ける。
「はい。この話をしたのはあなたに協力者になってもらいたいからです」
「協力者ですか。スパイではなく・・・・それをして私に何のメリットが?」
「うーん、そうですね・・・・退魔士に貸しが出来るとか?」
「そんなもの────」「凉華を助けられる、とか」
彼女の否定を遮って発した俺の言葉に彼女は反応を示した。だが良い反応ではなかった。彼女は下を向き奥歯を噛み締め叫んだ。
「いい加減にして!凉華を助けたいだとか協力すれば助けられるとかさっきから適当なことばかり!!そんな簡単にはいかない、あの子をあそこから連れ出すのは不可能なのよ!!あの子は生まれた時から籠の中の鳥、あの人達の名声を高めるための道具なの!!それができるなら・・・私も・・・遥香さんも・・・!」
「麻紗美さん」
彼女の心からの叫びはやがて小さな嗚咽となっていった。俺は何故失念していたのだろう。凉華を大切に思う彼女がそれをしていないはずが無い。彼女も過去に凉華を助けようとしたに決まっている。失敗したのかそれとも諦めてしまったのか、それは分からないが少なくとも何かしらのアクションは起こしたはずだ。凉華の母親も同様にだ。それを彼女にしてみれば凉華と会って日も浅い、関係も深くないポッと出の男が自分なら助けられると語っていたら怒りたくもなる。
それでも、だ。
「あなたにしてみれば何を言ってるのかと思うかもしれない。それでも俺は言い続ける。凉華を助けたい、俺が助けると」
「何故・・・そこまで彼女を・・・・」
「自分でも分からない。ただ、自分の中の“何か”が激しく俺を揺り動かしている。凉華を助け出せと」
「何よそれ。中二病?」
顔を上げた彼女は笑っていた。それは俺への嘲笑かもしれない。それとも、苦笑か。呆れ笑いか。とにかく彼女は少し笑みを浮かべていた。俺はそんな彼女に右手を差し出す。
「凉華を一番大切に思っているあなただから頼んでいるんです。黒宮麻紗美さん、俺と協力してください。俺達で凉華をたすけだしましょう。俺とあなたなら絶対に助け出せる・・・!」
「呆れた。たいした自信家ね。でも、そうね。アンタも凉華を思っている事は伝わったわ。凄くね。だから」
彼女は俺が差し出した手を力強く握り返した。それは彼女の決意の現れなのかもしれない。
「貴方の誘い、乗ったわ!」
「ありがとうございます!!共に黒宮家から凉華を助け出しましょう!」
俺は大きく頭を下げ、彼女に答える様に両手で彼女の手を握るのだった。
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