第34話

それから麻紗美さんと少しの間会話を重ねていると麻紗美さんの携帯が鳴った。彼女が通話に応じる。電話から聞こえてきた声から察するに相手は凉華だ。麻紗美さんは二、三言話して通話を切った。


「話はまだ終わりませんか?だって」


時計を見れば既に30分ほど経過していた。


「長いこと待たせちゃったみたいだし私は戻るわ」


麻紗美さんが踵を返す。正直まだ聞きたいことはあるが、その話の元の凉華が呼んでいるのなら仕方ない。


「あ、最後にちょっといいですか」

「何よ」

「それが素だったんですね」

「悪い?初対面の、ましてや敵対しているとこの奴なんて警戒して自分を偽るのも自然なことでしょう?」

「いや、俺はそっちの方が良いとおもいます。あの話し方は距離を感じましたから」

「アンタに言われても嬉しくないわ。それに、私はアンタを・・・まあいいわ、連絡待ってるわ」


そう言って麻紗美さんは公園を出ていった。さてこれからどうするか。そんなことを思いながら携帯を眺めていたらメールが来ていることに気づいた。普段はサイレントマナーにしてるから気づかないんだよな・・・。変えれば良いって言えばその通りだけど。


メールの送り主は吉野先輩だった。内容は支部長がお前を呼んでるけど何かやらかしたのか?って書いてあるなあ・・・これは色々バレたな。隠し通せるとも思ってなかったから覚悟は出来てるけど・・・しゃーない。ダッシュで向かうか。


というわけで結構急いで市役所に戻って来た。道中と市役所内に凉華と麻紗美さんの姿は確認できなかった。どうやら帰ったようだ。彼女達もあまり長い外出は許されていないのかもしれない。なんて事を考えているのは支部長室に入る心の準備が出来てないからだろう。今俺は支部長室の前で立ち往生している。といって数十秒程度だが。まあ、いつまでもここで心の準備が~とかうだうだしてても仕方ない。


「遅くなってしまい申し訳ありません。本田祐也です。」


俺がそう言うと電子ドアは開いた。いつものように支部長席の数メートル手前で足を止める。


「支部長が自分をお探しとの事で参りました。用件は何でしょうか」

「・・・君も分かっているのだろう?私は君から話してくれると嬉しいのだがね」


やっぱバレてる・・・しかし、しかしだ。俺は悪行など何ら行っていない。堂々と話せばいいんだ。俺は俺の行動に間違ったなどとは一ミリも思っていないのだから。・・・これは個人の話で組織的に見ると問題だらけの間違いだらけなんだけど。


「支部長がどこまでご存じかは知りませんので1から説明してもよろしいでしょうか?少し長くなると思いますが」

「構わない。話してくれたまえ」


そこから俺は支部長に凉華と出会ってからの彼女との交流について事細かく話した。支部長は開始早々こめかみを抑え始め終盤には痛み止めまで飲んでいたが、支部長偏頭痛持ちなのかな?・・・そんな能天気な雰囲気では全く無く、支部長が難色を示してからというもの、俺は自然と直立から正座へ、そこからの土下座へ謝罪体勢のグレードアップしていった。


「───と、ここまでが今日までに起きた出来事です」

「はぁ・・・・・・」

「本当に申し訳ありません!!!!」

「本田君、君は心から反省していないだろう?自分は正しい事をやっている、とりあえず謝罪しとこう、そんな風に私は見える」

「そ、れは・・・」

「黒宮凉華、先ほどまで君のお見舞いに来ていた子だね?」

「はい・・・」

「確かに君は特別だ、それに君にはある程度の裁量権も渡してある。”巻き込んだ引け目“もある。だから君の行動には目を瞑ってきた。しかし!流石に最近の君の行動は目に余る!!百歩譲って未熟な陰陽師を鍛えるのは許そう。だが君は黒宮家に単身乗り込んだそうだね?!」

「それは、退魔士と名乗って無いのでセーフかと」

「そんな戯れ言が通用すると思っているのか!?下手したら陰陽師と退魔士の間で戦争になっていたかもしれないんだぞ!!」

「・・・・!」


今やっと事の重大さを理解した。俺の行動は間違っていたのか。だとしたら、俺は一体・・・


「俺でも分かるよう説明して頂きありがとうございます ・・・ですが俺はどうしても黒宮を助けたいんです・・・俺は、一体どうしたらいいんでしょうか」

「そこまで固執する理由も気にはなるが・・・。解決策はある」

「解決策が、あるんですか?」

「他の構成員は皆やっていることだ。構成員だけじゃない。社会では普通に行われている事だ。何か分かるかね?」

「・・・・」

「報告、連絡、相談。私に報告する事だよ。魔物討伐の際は報告に来るというのに・・・違反だと思って隠そうと思ったのかな」

「・・・はい。それに個人的なことだったので組織を巻き込んではいけないと思いまして」

「はあ。何度もいうが個人的なものであったとしても組織という枠組みに所属している以上は君はその肩書を背負っている事になる。」

「はあ。説教はこれくらいにして本題に入ろうか」

「本題ですか?」


てっきり説教するために呼ばれたと思ってたんだが違うのか?そんな事を考えていた俺はその本題を聞いて驚きを隠せなかった。


「――――というのはどうだろう。君の願いを叶える手助けになるのではないか?」

「手助けどころか・・・そんな事、許されるんですか!?というか何故俺の為にそこまでしてくれるのですか?」


これは明らかに他の構成員と対応が違いすぎると思う。例えば一介の構成員が同じ事を頼んでも許可はされないだろう。やはり破軍の適合者だからだろうな、この特別扱いの理由は。


「さっきも言っただろう?君には引け目がある。言い換えれば借りと言えなくもないか」


引け目ねぇ・・・俺の魔物討伐回数と異世界探査時間が長いって事を言ってんのかな。他の構成員と同じ給料なのに申し訳ないって感じで。破軍の適合者と合わせてその補填として協力してくれるって事かな。あとは松崎先生のお守りとか。


「分かりました・・・“その時”はよろしくお願いします」

「ああ、任せてくれたまえ。その代わり何か行動を起こす前に私に相談すること。いいね?」

「了解しました。もう勝手な行動は致しません」

「よろしい。用件は以上だ。下がっていいぞ」


俺達はそんな教師と生徒みたいな問答をした後、俺は踵を返して部屋の電子ドアへ向かう。しかし、その足を支部長の声が止める。


「ああごめん言い忘れていたよ。君には今回の罰としてこれから1週間、異世界で捕獲任務を連続遂行してもらう」


何だって・・・!?タダでさえキツイ1週間異世界生活に加えて魔物の捕獲任務だって!?魔物を倒すだけなら簡単だが捕獲となると相当骨が折れるぞ・・・それを連続遂行、つまるところ1週間ぶっ続けでやれって事だろ?!


「いやー、ちょっと待ってください。今スケジュールを確認しますので!えーなになに、あ、すいません!今日ちょっと親戚の通夜が入ってまして」

「本田君、つくならもっとマシな嘘をつくべきだ。君に親戚は居ないだろう」


俺はその場でガクッと膝を落とした。嘘だろ?漫画で見て使えるなこれ真似しようと思った技が通じないなんて!?そうか自分の事情を加味してなかったから・・・ああ、終わった。行くしかないのか・・・


ヨロヨロと立ち上がりフラフラと歩き出す。そんな俺の背中から悪魔の声が聞こえてくる。


「目標は新たに目撃された種を含む100体、いい報告を期待してるよ」


ちくしょう・・・俺が悪いのはわかってるけどさあ。下手したら死ぬぜこれ。罪に対して罰が重すぎるよ。ちくしょう。

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