第45話
「ただいま〜」
決闘が行われた海辺は同じ仁原市内とはいえ結構距離が離れている。早く帰りたかった俺はタクシーを呼んで速攻帰ってきたわけだ。なぜ早く帰りたかったか。その理由は目の前にいる。
「おかえりなさい!兄さん!」
その理由であるパジャマで出迎えた彼女は黒宮涼華、俺の妹だ。まあ色々あって俺の家に住んでいる。今日で住んでから1週間。1週間も経てば日々の挨拶や兄さん呼びも慣れてくるというものだ。もっとも昨日ようやくスムーズに言えたんだけどな。その時はつい大袈裟に褒めちまった。俺、妹に甘すぎるよな・・・
ちなみに敬語は抜けてない。その方が話しやすいとか何とか。無理に変えさせる気はないが、兄に敬語っていうのもな・・・お嬢様じゃあるまいし・・・ってバリバリお嬢様だったわ。まあ、取り敢えず様子見。彼女の気が変わるのを待とう。最近、少しだけフランクな態度になってきた気がするしな。
「おう、ただいま。まだ起きてたのか?遅くなるから寝てていいって言ったのに」
「そういうわけにはいきません。ほら、これ忘れ物ですよ」
涼華は俺に小銭入れみたいな小さなチャックの袋を渡した。それは家の鍵が入っているものだ。
「なにか忘れたと思ったら鍵を忘れてたのか・・・」
「やっぱり普段の兄さんって少し抜けてますよね」
「ずっと気ぃ張ってると疲れちゃうだろ。それより待っててくれてサンキュー。もう眠いだろ」
「そっちの抜けてるじゃなくてですね・・・」
「いいからいいから。遅くまでお疲れ様。明日は日曜日だしゆっくり眠ってな」
そう言うと無理をしていたのか涼華は自室へとてとて歩いていった。と思ったら何かを思い出したかのように立ち止まってこちらへ向き直る。
「兄さん、明日は何か予定はありますか」
「うーん。午前中は施設の方に用事がある。午後は久し振りに白銀とどっか行くわ」
白銀とは彼が退魔士機関に入ってからはほとんど顔を合わせていない。彼は彼で地獄の基礎練で忙しいだろうし、俺は俺で他に色々あったからな・・・少し放置気味になってたわ。俺が入れたようなもんだしちゃんと様子を見に行かないとな。
「そうですか・・・一緒に買い物でもと思ったのですが」
目に見えて落ち込む涼華。
「うーん。白銀が一緒でもいいなら3人でなら行けるぞ。俺達は特に予定もなくて、唯の白銀の気分転換のつもりだったからな」
「白銀君、学校にもあんまり来ないんですよね。やっぱり訓練は大変なんですか?」
「大変なんてもんじゃねーよあれは。地獄だ地獄」
俺は自分が訓練していた時のことを思い出して身震いする。
「そ、そんな大変な中の息抜きって大事ですよ。私が行ってお邪魔にならないでしょうか」
「大丈夫だ、むしろ喜ぶ」
「喜ぶ?」
やべっ!!俺の凡ミスで彼の恋の邪魔をしちゃまずい。
「ほら、久し振りに友人に会えるからって事だよ」
「確かに世間話とかはしますけど・・・」
涼華は顔を傾けている。もしや友人という言葉に引っ掛かってるんじゃあるまいか?だとしたら友達という感覚ですらない?ご愁傷さま、白銀君。
「とにかく、だ。明日は3人でもいいんだな?」
「え、ええ、はい。私はお邪魔する形ですけど」
「オーケー!白銀にもそう伝えとく。明日の午後1時くらいまでに二人で家に戻るから、そうしたら出発しよう」
「はいっ」
嬉しそうに返事をする涼華。俺みたいな男と買い物して楽しいのかね?服とか見せられても知らない分淡白な反応になりそうだ。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
俺は携帯を手に取り白銀にメッセージを送る。数秒後、マジすか!!!????と!と?がやたら多い文が帰ってきた。ホントホントとだけ送り携帯を置いた。涼華も部屋に戻ったかな。一人ソファーに座り目を瞑る。涼華が家に来てもう1週間も経つのか。涼華には一緒に暮らしていく上で不満や気になることがあれば気にせず言ってくれと話してあるがあの正確だ。何か思っても気を使って胸の内に秘めたままにしてそうなんだよな。でもこればっかりは本人しか分からないからな・・・せめて歳の近い同性の子がいれば本人も話しやすいのに。
「考えてても仕方ないか」
俺はソファーから立ち上がり台所へ向かった。冷蔵庫を開け中に色んな食材が入っているのを確認する。冷蔵庫を両開きのでかいのに買い替えたから大量に入れてもまだ余裕がある。この冷蔵庫は自動で氷を作ってくれる超便利なもので俺はこの機能が付いてる冷蔵庫がいいと思っていたんだが家電売り場に行くと大きい冷蔵庫は大体そうなってるらしい。買ったのは冷蔵庫だけじゃない。ベッドや日用品やら諸々で50万ほど掛かった。大きな買い物をした後なので痛い出費だが妹のためならなんてことはない。
「さて、やりますか」
そうして今宵も涼華に秘密の「侑祐のお料理勉強会feat.TS話すクッキングナビ」が始まるのだった。
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