第7話
まさか本当に来るとは思わなかった。
退魔士機関の日本支部は52箇所存在する。1都道府県に一つ。例外的に京都、東京には3箇所の施設が造られている。理由は京都の方は何となく分かる。魔物の数が桁違いに多いからだ。異世界に行ったら即襲われるなんてこともざらにあった。だからこそ退魔士の人数も必然的に多くなるだろうし施設が多いのも頷ける。東京はよく分からない。人口が多いからだろうか?
とにかく、そんな京都の人間、それも京都第一支部の対魔対策室室長が気軽に来れるわけないんだ。
「と、取りあえず俺の家に行こう。こんな駐車場で話すことじゃないし、ファミレスで話せる内容でも無いから!」
咲耶の手を取って歩きだす。最初は早歩きだったが歩幅の違いで後ろの咲耶が転びそうになったのを見て歩く速度を緩める。
「まったく、強引じゃのう」
「ごめん。だけどこっちにも事情があるんだよ・・・!」
俺達の今の状況を端から見たらどう見えるだろう。スーツを着た男が中学生位に見える背格好の女の子の腕を掴み歩いている。完全に不審者だ。事案発生だ。手を離せばいいだろってものでもない。一緒にいるだけでOUT判定で職務質問不可避だ。
それになんと間の悪いことか。俺の今の仕事は市役所の雑用係になっている、誰にでも出来る仕事だ。市役所にいると不審者情報というものが回ってくる。俺はその部署じゃないから詳しくは知らないが不審者情報を市のホームページに載せる担当がいるらしく、一昨日そいつの声が聞こえてきた。「また女子中学生に声かけ事案か。いずれかに去っていったってなんだよ」という独り言が。・・・今の俺じゃねーか!!マジで警察に会いませんように!!
「・・・!・・・!」
「何をキョロキョロしておるのじゃ?」
事情の知らない咲耶がキョトンとした顔で首をかしげているが、俺は気が気じゃなかった。犯罪者の気分だ。って別に一緒に行かなくてもよくね?別々に行ったらいいじゃん。手も掴んでる意味ないし。何か混乱しておかしな思考になってたな。
「咲耶、こっから別れて行くぞ。この先の角を曲がって真っ直ぐ100m位行って右に曲がった道路を正面に左手3つめの青い屋根の家が俺の家だ。この先の曲がり角は事故が多いから気を付けろよ」
「よく分からん。おぬしの家なんじゃから、おぬしが案内すればいいじゃろ?」
「いいから別れて行くんだよ!いいか、もう一度よく聞けよ!?この角を曲がってだなあ!!」
曲がり角を曲がって真っ直ぐの道、最初に目に飛び込んできたのは白と黒の物体だった。POLICEの文字が書いてあるなあ。何だろーなあれ?
「どれどれ」
「ストップ!!」
後ろにいた咲耶が立ち止まる俺からひょこっと顔を出し、俺の指差す方向を確認する。俺はすぐ様それを止め自分ごと元の道に戻る。
「なぜ止める?」
再び顔を出そうとする咲耶の肩を掴んで止める。
「ひょっとしてわざとやってんのか?」
「何をじゃ?」
「俺は職質されたくないの!分かるだろ?自分と大人の男が歩いてたら怪しまれるの!」
「え、そうなの?」
素が出ちゃってるじゃん。
「思えば往来を男と歩くのは初めてじゃな」
戻っちゃった。
「そう・・・なんだ」
箱入り娘だったりするのか?確かに京都でも外に出たのはあんまり見たことないな。じゃあわざとじゃなくて本当にわかんないのか。それは責められないな。それに・・・いや、今は警察の話だ。バタンッとドアを閉める音が二回。二人降りてきましたね。どうする?いっそのこと俺もいずれかに去っていくか?・・・無理ですね。はい。諦めました。
「お兄さんちょっといいかなー」
「はい。どうかしました?」
「どうかしましたはないよね。目、会ったじゃん。その子とはどういう関係なの?」
「えーと、友人です」
「友人ねえ・・・一応身分証見せてもらっていい?」
「そういうことか」
俺が警察官に唯々諾々と従っていると、それを見た咲耶が何かに気付き俺の代わりに保険証を渡した。警察官はそれを見て、特に生年月日を凝視し、何度も咲耶と保険証を往復していた。
「もういいかの」
「大変失礼しました!!」
警察官はいずれか(パトカー)に立ち去っていった。
「助かったよ。ありがとう」
「わらわの背が低いからこんなことを招いた。わらわが対処するのが当然じゃ」
「別に背が低くてもいいじゃねーか。背が低いのってほら、可愛いだろ」
何やら自分の身長が低いせいといじけて落ち込んでいる。気にすることないのに。
「でもおぬしの好みは大きい方がいいじゃろ?」
「何でいきなり俺の好みのサイズの話になってんだよ!」
ちなみに正解である。巨乳好きで何が悪い。男なんて皆そんなもんだろ!
なんやかんやあってようやく家にたどり着いた。
「ほう。ここがおぬしの家か。ほれ、開けい、開けい」
「今やってるよ」
鍵が開くと同時に咲耶は家に入りこんできた。キョロキョロしてる咲耶をリビングの椅子に座らせ冷蔵庫を開ける。ああ、そうだった。水しか無いんだった。とりあえず水の500mlペットボトルを2本取りドアを閉める。
「はい。水」
「相変わらず水しか無いのか」
「良く見ろって。ほら、水素水。H246Oだってよ!凄くね!?」
「はあ、相変わらず、世間知らずじゃのう」
「お前もだろ」
「それに馬鹿になっとるのう」
「なってねー・・・くはないかも」
「祐也。一つ聞くが、話すのは市役所の地下じゃダメじゃったのか?」
そ、その手があったかあああああああああ!!!!!
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