第6話
人間は脳を取り換えたら別人、大事なのは記憶に関する事。つまり記憶喪失の俺は・・・別人って事になるんじゃないか?松崎先生は雑談なんて言ってたが、これはそんな生易しいものじゃない。先生は俺のテセウスの船の考えを聞いて、それを元に俺に問いかけてるんだ。お前の理屈で言うならお前と元の人格は別人じゃないのか?と。
「相変わらず意地が悪いですね・・・」
「よく言われるよ」
松崎先生の口元が邪悪に歪んでいる。心の中で嘲笑しているのだろう。前の俺なら気にもしなかっただろう。でも今の俺は、あの件以降、自分の過去に興味が湧いて来たところだった。先生はそこに釘を指したのだ。お前は本田祐也、12歳より過去のない、10年間私の実験動物なだけの人間だと。
「まだ続けるかい?」
「勿論!」
確かに俺の考え方なら記憶喪失は別人なのかもしれない。だからなんだ。そんなのは関係ない。俺は
「開き直ったのか。まあいいや。それを踏まえて昨夜の君の状態を考えてみよう。魔物を倒した後に何かあって頭痛がした。この頭痛の部分だ。記憶喪失というのはひょんな事から記憶が戻ったりするんだ。君は頭痛がする直前、何か強いショックを受けた。頭痛はそれが原因だろうね」
「強い、ショック・・・」
黒宮の顔を見て強いショックを受けたって事か。それも記憶喪失関係の何かだ。黒宮が俺の記憶喪失に関わってるのはもう確定と言っていいだろう。
「朝の行動がおかしかったののそれが要因だろうね。人は記憶によって言動を変化させる。記憶が戻ってきたか、それともまたも失ったか、前と後の記憶が混ざったのか、それとも新しい人格が形成されたのか。僕には分からないけどね」
「・・・・」
「分かりました」
「何が?」
「俺、自分の過去を探そうと思います!」
松崎先生は難しく話すが簡単な話だ。要は元の記憶さえ思い出せればいいだけだ。確かに今の俺の人格が消える、俺が消えるかもしれないのは正直怖い。でもそれ以上に俺は自分の過去を知りたいと思っていた。
「ニヤニヤしてるけど何がそんなに面白いんだい?」
「面白いじゃないですか!自分の記憶を探すなんて。それこそ記憶喪失にならないと出来ないことじゃないですか!」
「それは、そうだけどね」
松崎先生が苦笑いしている。コイツは何を言っているんだ?頭がいかれたのか?そんな風に思ってるかもしれない。
「先生。俺は今までずっと乾いていたんです。趣味も目標も無くただ魔物を狩り続けるだけの人生。機械のように同じ作業を繰り返して繰り返して繰り返して・・・そこに今回の一連の流れです。テンション上がりませんか?」
「君だけだと思うけどね」
「それでも結構。先生!相談に乗って頂きありがとうございます!」
折り畳むくらいの勢いで頭を下げる。確かに色々嫌がらせはしてくるが今回の件ではそれが反骨精神に繋がり、さらに過去を知りたいと思うようになった。
「それでは、失礼します!」
松崎先生の診療室内のスライドドアを閉める。ルンルン気分で歩く白い通路。さあ、まずは何をしよう。やっぱり黒宮かな。彼女にはまだ謝ることもできていない。彼女が俺の記憶喪失に関わってる可能性が高いというのもあるが、やはりまずは謝罪をするところからだろう。黒宮はどこにいるだろうか?多分ここで調べれば色々出てくるだろうが、それじゃ意味がない。今や記憶探しは俺の唯一の趣味と言ってもいい。そんな最短ルートに行ってどうする。ゆっくり楽しまなくちゃもったいない。それに職権乱用になっちゃうしな。
等と考えていたら気づけば完全に市役所から出ていた。今俺が居るのは市役所の駐車場。40台程度は止まれる駐車場の真ん中にポツンと立っている状況だった。そこに入ってくるタクシーが一台。そのタクシーは線の引かれた駐車スペースではなく、俺の目の前に止まった。しかもご丁寧に後部座席がちょうど俺の目の前に来るように止まっていた。一体誰だ!?とはならない。そりゃ目の前に止められたら見えるわ。
「かっかっか。わらわが会いに来てやったぞ。ほれっ感謝せい」
身長アンダー150、長い黒髪は腰の辺りまで伸びている。幼げな顔立ちは身長とあわせて彼女が成人だという事を微塵も感じさせない。着ているスーツも特注品で値段も相当なもののはずだがその見た目のせいで子どもが職業体験センターで会社員の真似事をしてるようにしか見えない。
「はい~咲耶様がお越し下さるなんて~わたくし、感謝感激雨あられです~」
「うむ。うむ。感心感心。見違えたのう、祐也」
あ、こんなんでいいんだ?半分馬鹿にしてたんだけどな。まあ、以前の俺ならフルシカトしてたからそっちよりはましなのか?
彼女は神田 咲耶。25歳。簡単にいえば合法ロリ。
「つーかよぉ・・・何で本当に来てんだよ!!!」
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