第40話
何がどうなってる・・・!状況が全くわからないぞ・・・今起こっている事を整理しよう。
「兄様!!侑祐兄様!!どうして私なんかを2回もかばったのですか!!それで
兄様がいなくなって私がどれだけ悲しい思いをしたか、分かってるのですか!!」
涼華の話は今は置いておくとして・・・。まずは俺の身に何が起きたかを振り返ろう。えーと、涼華と歩いてる所に白龍と遭遇、涼華をかばって白龍に食われた。その際「破軍」は飲み込まれず吐き出された・・・。よし、意識もはっきりしてきたし記憶も鮮明だ。それで白龍の体内で色々試行錯誤したけど出れなくて諦めかけてた所に突然空間が割れて文字通り救いの手が差しのべられた。俺はそれを確かに掴んだ。そこからの記憶がないことからその時に気を失ったようだ。
記憶を整理し現状と照らし合わせた結果分かった事がいくつかある。
まず一つ、俺を助けてくれたのは涼華だって事だ。・・・あと大鴉。助けが無かったら俺は今頃白龍の霊力の一部になってたからな・・・マジで命の恩人だ。後でお礼は言うがお礼だけじゃ足りない大恩だ。どう返していこうか。一生掛けてやっていくしかないな。
次に一つ、死にかけの俺を看病してくれたのも涼華って事。今俺の体の中に涼華の霊力を感じる。白龍の体内の空間内で尽きかけていた俺の霊力を補うために渡してくれたのだろう。言うなれば霊的輸血ってところか。まだ教えていない技術だが土壇場で成功させたのか。やはり涼華には才能があるな。そして借り2。さっき一生って言っちゃったが一生の次ってなんだ?未来永劫?
さらに一つ、近くで倒れている白龍は涼華倒したという事。出会った時は雑魚魔物にも苦戦していたのに目覚ましい成長ぶりだ。一応の師匠としてはかなり嬉しい事だが、退魔士の俺個人として考えると本当に死んでいるのかどうか疑問なところだ。後で確認しなくては。
他にもいくつかあるがここまでにして本題の俺の胸で泣きじゃくる涼華についてだ。彼女はまだ色々言ってるがその大半は意味がわからない。しかし気になる単語はいくつもあった。
「なぁ、涼華。ちょっと聞いていいか?」
「私は兄様との約束を・・あっ意識が大分はっきりしてきたんですね。良かったです・・・本当に・・・」
「さっきから俺の事を侑祐兄様って言ってるけどどういう事?」
「それは、話すと長くなるのですが・・・」
その前置きから始まった話は驚愕の連続だった。俺が黒宮侑祐だと?そんな事あるわけ・・・いや、確かに俺が黒宮侑祐なのかもしれないと考え無かった事もない。少なくとも黒宮兄妹を知っている立場だと分かっていたからな。でも侑祐が行方不明になった時期と俺が目を覚ました時期はかなり離れている。だから、ありえないんだ。
「悪い。お前を信用してないわけじゃないんだ。だけど俺は決定的な証拠がないと納得できない性分でな。これが終わったら少し手伝ってくれるか」
「・・・はい。分かりました。急にあなたの妹ですなんて信じられないのも無理はないですし。私はホントに大丈夫です」
涼華は言葉とは裏腹に落ち込んだ雰囲気になっていた。
「兄さ・・・本田さんにお任せします」
「すまない。俺がもっと若くて無鉄砲だったらお前の言葉一つで直ぐに信じられたのに」
「まるでおじさんみたいな言い方。でもいいんです。私が好きな本田さんはそういう本田さんですから」
そう言って綺麗な笑みを浮かべる涼華。ちなみにこの好きは恋愛的な好きじゃなくて(年上の人として)が付く事を俺は知っている。これもおじさん的価値観の賜物だ。・・・誰でも知ってるか。
「あっそういえばこれ」
涼華が「破軍」を俺に手渡す。
「取れたときから一応持ってたんです」
「何から何まですまんな」
「破軍」を腕に装着する。不思議なもので霊力が回復した俺は身体の傷も回復しており食われる前と同じように装着できた。グー、パーと正常に動くか確認したが問題は無さそうだ。
『まさか白龍に呑み込まれて生還するとはな』
俺が破軍の使用感を試していると大鴉から声が飛んできた。
「ああ、幸運だった」
『阿呆が。お前が今生存しているのは幸運だけだと思っているのか』
「まさか、涼華と大鴉の活躍が大きいと思ってるよ」
これは本当に思っていることでそれを考慮しても尚幸運であったといえるだろう。
『やはりお前は事の重大さを理解していないな』
「なんだと?」
事の重大さって何だ?俺が助かった事に何の意味があるんだと言うんだ?・・・何が何だか。
『お前が今生きているのは幸運などというちっぽけな理由だと思っているのか』
「だから、どういう意味だよ!」
『馬鹿なお前は気づいていないようだから教えてやろう。どこで受けたのかは知らんが・・・お前、女神の加護を授かっているぞ』
「女神の加護!?」
その言葉は最近聞いた言葉だ。俺の頭に一人の女性、神田咲耶の顔が想起される。確かにあの時の彼女は何かがおかしかったしそのフレーズを口にしていた・・・!!
『思い当たる節があるようだな。お前が助かったのは紛れもなくその加護のお陰だ。どこの神かは知らんが精々感謝しておくべきだな』
「・・・・・」
俺はあまりの衝撃に口を開けども言葉が出ることはなかった。最近会った人物で「女神の加護」という単語を話していたのは咲耶一人。だがあれは比喩やジョークじゃ無かったのか?
だとすると彼女は・・・咲耶の正体は、女神ってことになるんじゃないか・・・・・
「くそ、わけわかんねぇ・・・」
『―――――――――!!!』
その時だった。近くで倒れていた白龍が突然激しい咆哮を上げて天へ登っていった。くそっ死体確認を先にすべきだった。迂闊だったな。
「そんな、まだ生きていたの!?」
近くの涼華が叫ぶ。白龍はどんどん高度を上げて大体雲の高さ程度のところで昇るのを止めた。そして白龍はこちらを睨みつけるように見下ろす。
「涼華の一撃でキレたようだな。それに警戒もしてる。食事の邪魔をされ腹も切られて大変ご立腹だ。どうやら図らずも龍の逆鱗に触れちまったようだな。まあそんな事されたら誰でもキレるか」
「そんな他人事な・・・」
「まあやったのは涼華だからなぁ・・・なんて言える立場じゃねえよな・・・」
俺は決意を固め立ち上がる。涼華は俺の意図に気づいたのか止めに入る。
「本田さん!!!ダメです!!!まだ安静が必要です!!」
涼華は俺の身を案じてくれているが流石にこの状況で関わらずは不可能だ。俺はこういう状況のために待機を命じられていたからな。こんな大物が出てくるとは思わなかったがそれでもちゃんと役割は果たさないとな。
「本田さん!!お願いします!!話を聞いてください!!」
後ろから抱きつくように止めてくる涼華。俺はその抱きとめる手に手を重ねてゆっくりとはがす。そして涼華の方へと振り返る。すると俺の手は自然と涼華の手を包み込む形になった。
「本田さん・・・・お願いです、お願い・・・無理しないで・・・」
目に涙をため震えるような声で呟く涼華に俺は何も答えずただ涼華の頭を左手で撫でた。
「本田・・・さん?」
普段は絶対にしない行動。涼華は俺に頭を撫でられた時、昔に兄に撫でられてた事を思い出したらしい。それも今考えれば俺がその兄だと言うんなら説明がつく。俺はその話を知っていて尚涼華の頭を撫でた。もしかしたら自分でも気づかず認めてしまっているのかもしれない。俺が涼華の兄だということを。俺は撫でていた手を下ろして前を向く。相対するは上空より此方を見下ろす白龍。
白龍は俺達を見下ろしているがその目線の先には涼華がいる。白龍の行動原理は最初から一貫していた。エネルギー補給。奴らにとって必要不可欠な霊力を体内に取り込む事だ。だから涼華を狙ったんだ。あの場の二人の霊力が高い方を。そして今。白龍は相も変わらず涼華を狙っている。勿論腹を割かれた恨みという事もあるかもしれないがそれを考慮して尚、いやそれを考慮するからこそ白龍は傷を治すために次も霊力の高い獲物を狙うに違いない。
兄、か・・・だとしたら守らなきゃならねーよな。妹は。
「破軍、起動」
高い異音と共に俺の右腕を中心に莫大な霊力が渦巻く。涼華の言う通り体は本調子ではなく何時ものパフォーマンスを発揮できる状態にない。それでも今の俺は過去一番の絶好調だ。
それは自分の正体が判明したとか天涯孤独ではなくなったとかそういうものじゃない。かといって何かと聞かれても何も答えられない。ただ、心が軽くなった気がする。唯それだけだった。
「さあ来いよ。蛇野郎が・・・!」
『――――――――!!!』
俺の煽りが届いたのかは分からないが、俺が駆け出すと白龍は耳をつんざくような咆哮を上げた。よし、思った通りだ。白龍の狙いは涼華ではなく俺に移った。破軍を起動した事により霊力量が涼華を上回った結果だ。
白龍は前と同様空中から急降下して俺を喰らおうとしてくる。俺は全力疾走し涼華と距離を離した上でギリギリで回避に成功した。元々速さを武器にしていないどころか真逆の戦闘スタイルだ。上々の結果だろう。白龍は直ぐに俺の方へ向き直り再度突撃をかましてくる。口を大きく開き俺を噛み砕くつもりらしい。
「何度も同じ技が通用するすると思うな・・・よ!!!」
白龍の低空を飛ぶ地を這うような突撃を俺はすんでの所で躱してすれ違いざまに「破軍」を叩き込んだ。
「硬えな・・・」
「破軍」には2つの戦い方がある。一つはその莫大な霊力を相手に流し込む戦い方。喰らった相手は霊力のキャパシティをオーバーする霊力を流し込まれ、それに耐えきれずに内側から爆散する。これはゴブリンのような霊力の少ない相手に効果的で俺は普段こちらの方を使っている。
2つ目はその霊力をそのまま破壊力に変換する戦い方。これは非常にシンプルで「破軍」の霊力によって強化された肉体を駆使し「破軍」そのものでぶん殴るというもの。普段使っていないのは威力が高すぎて使う相手がいないから。
俺は今、後者の戦闘方法で白龍を殴った。白龍は魔物の種族位置を表す霊格が高い生物だ。霊格が高いは霊力が高いと言い換えてもいい。それか単純に強いとも言える。霊力が高いというのは霊力の許容量も多いということ。つまりは一つ目の戦闘方法は白龍には通用しない。それが分かっていた俺は後者の戦闘方法を選択し霊力を込め殴りつけたのだが、白龍は少し仰け反っただけで目立ったダメージはない。
「それに飛んでる所為でこちらから仕掛ける事も出来ん。全く、ズルいぞ。お前だけ空中戦なんて・・・ん?」
そういや居るじゃないか。こっちにも空中要員が!
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